『最
遊
記 4 〜 行 方 不 明 〜』
いつもの三蔵ご一行とと。
メンバーは何ら変わりない。
変わったと言えば、前回の街を後にして以来悟浄はの運転するバイクに乗っている事。
そしてジープの後ろにはと悟空、前座席には三蔵と八戒である。
悟浄「うーん、やっぱバイクは気持ちいいわ!これもチャンと乗ってるからかなぁ!」
そう言いながらしっかりとのウエストを触っている悟浄。
三蔵がチラリと二人を見るが、またすぐに視線を反らす。
八戒「悟浄、あんまり触らないでくださいね。僕、怒っちゃいますよ?」
いつもの有無を言わさない八戒の笑みで、一瞬怯む悟浄ではあるがチラリと悟空とを
視線の端に捕らえると、より一層に体を近づけた。
悟浄「でも、ホラちゃんと捕まってないと危ないし・・・。」
そういい終わるか終わらないうちにバイクがいきなり安定性を崩す。
それにはさすがの悟浄も驚き、くわえていたタバコを落とす。
悟浄「チャン・・・?」
ゆっくりと後ろを向くの顔には満面の笑み。
八戒を凌ぐその笑みに悟浄は命の危険を察知する。
悟浄はなんとかこの空気を凌ぐ為に脇の崖に目をやる。
悟浄「それにしてもすげぇ崖だな。」
悟空「落ちたらマズイよな、やっぱ。」
三蔵「安心しろ、おまえらなら死なん。」
きっぱり言い張る三蔵の台詞にがくすくすと笑い出す。
座る席もある関係か悟浄と悟空がくっついていない為にささほど大きな争いには発展しな
い。
煩くすると容赦なくがバイクの安定性を崩す・・・と言うのもあるのだろうが。
そんな崖に視線をやっていた悟浄と悟空。
バイクとジープは急停車した。
全員が近くに手を着く。
悟空「大丈夫か?。」
八戒に文句を言う前にまずの心配をする悟空。
そんな悟空にはふと笑みを零す。
八戒はじっと前方を睨んでいる。
三蔵は「またか」と言った感じで不機嫌きわまりない。
はバイクから降りた。
それに悟浄も敵の気配とわかったのかゆっくりとタバコに火を付ける。
しばらくすると目の前に紅該児の一行が姿を現した。
それを見て三蔵はしばらく溜め息をつく。
は黙って紅該児を見つめた。
どことなく気品の漂う男。
毎回出逢う度に思う、三蔵とはとは違った意味でのカリスマ性を感じさせる男。
きっと自分が妖怪であるならこの人に付いて行ったであろう。
そこまで思わせる人物だ。
紅該児はいつものように三蔵を見つめたが、ふとに視線を送った。
紅該児「おい、お前。手合わせ願おう。」
その台詞に三蔵はもとより悟空やまでもが驚く。
は黙って紅該児を見つめた。
何故、自分を指名してきたのか・・・。
悟空は一度から離れようとしたが、チラリとを見るとそのまま足を止める。
「・・・私に届いたらね。」
その台詞と同時に戦闘は開始された。
これもまたいつもと違う。
いつもは前衛に悟空と悟浄が行くのだが、何故か今日に限って悟空はの側を離れようとしない。
を小さいながらも背中で庇い、目の前に来る敵のみを倒していく。
と悟浄はいつも以上の妖怪の数に半ば呆れ返る。
次々と襲ってくる妖怪。
このまま戦っても埒があかない。
三蔵は、一匹一匹を確実にしとめながらと悟空に近付く。
三蔵「、こっちに来い!」
悟空「駄目だ!!」
珍しく悟空が三蔵に刃向かう。
それに驚き三蔵の行動が少し止まる。
その隙をついて三蔵達に飛びかかる数人の妖怪の群。
三蔵「!?」
悟空「!?」
瞬間に大きな気泡が放たれて、目の前の妖怪は姿を消す。
八戒「何やってるんですか!?」
悟空「は俺が護るんだ!!」
悟空の言葉には嬉しさ半分といつも前衛に行っている悟空が後衛に回っている為に
や悟浄への負担を考えると、辛くなる。
なぜいきなり悟空はそこまでしてを護ろうとしているのか・・・?
三蔵は少し首を傾げる。
めったにない悟空の言葉。
いつもは渋々でも三蔵の言葉に従う。
八戒「悟空、でもあなたが行かないとが・・・。」
三蔵「・・・死んでも守れ。」
三蔵はそれだけ言うと、悟空達から離れる。
八戒は少し苦笑を浮かべて、さらに達から離れる。
まるで自分達に敵を惹き付けるかのように。
悟空は仲間の戦いを唇を噛み締めて見守った。
にだけ何故か妖怪が群をなしている。
悟浄や三蔵、八戒も助けに回りたいのだろう。
徐々にに近付いてはいるのだが、なかなかの元には行けない。
自分が行けば・・・悟空は迷った。
は心配そうに悟空を見上げた。
「悟空、私は大丈夫だから。チャンの所に行って?」
悟空「でも・・・。」
「お願い!!あのままじゃ、ちゃんが!!」
も必死に悟空が前衛に出る事を進める。
悟空は困ったようにを見つめた。
悟空「俺は・・・。」
は遠くから悟空の困惑な表情を見て取れた。
「悟空!!約束は何の為にあるッ!?」
は大声を出した。
その言葉に悟空は再度如意棒を握り直す。
それを見届けると、は不敵な笑みを浮かべる。
はそんな悟空とを見る。
悟空「俺、と約束した。何が何でもの側にいるって。それに三蔵にも言われた。
・・・死んでも守れって。」
そう言うと、悟空は目の前の妖怪を凪払う。
は黙ってそんな悟空の背中を見つめた。
は少しでもジープから離れたかった。
その為三蔵達が自分の加勢に来ようとしているのもわかっていたのだが、それを待たずに
徐々にジープから遠ざかって行った。
自分の着ている服はすでに妖怪の血で赤く染まりつつある。
はすこし肩で息をした。
とうとう周り一面を妖怪に囲まれてしまったのだ。
小さく舌打ちする。
それを見た八戒と三蔵の顔から血の気が引く。
一刻も早くの所に行かなければ、の命が危ない。
それでも確実に一匹づつしとめていく。
ゆっくりと紅該児が妖怪の後ろから出てきた。
剣を構える。
も剣を構い直す。
紅該児「お前の腕・・・気になるのだ。」
「それは誉め言葉かしら?」
紅該児「フッ・・・そうかもしれんな。・・・勝負・・・。」
辺りが静かになる。
紅該児の実力はあの悟空が手こずる程だ。
一筋縄ではいかない。
八戒があわてて側に寄ろうとすると目の前に八百鼡が立ちはだかった。
八百鼡「お久しぶりです。八戒さん。」
八戒「八百鼡さんもお元気そうで。出来ればそこ、どいて頂けます?」
八百鼡「すみません、それは出来ません。紅該児様が以前よりあのと申す者の事が気になると・・・。
だからここから先は通せません!!」
八百鼡が戦闘態勢に入る。
それに八戒も素直に応じる。
しかし紅該児がを気にするのがなんとも苛つく。
八戒はいつも以上に冷徹に事を構えた。
と紅該児はほぼ同時に相手に踏み込む。
剣と剣のぶつかりあう音が殊の外響きわたる。
技を繰り出す瞬間のの意気揚々とした瞳。
きっと紅該児はこれに捕らわれたのかもしれない。
この意思の強さ・・・それを我が手中に収めて戦力にしたいと。
そして、少なからずの瞳からは敵意が感じ無いことも気付いていた。
いや、紅該児だけでなく三蔵もそれには気付いていた。
だからこそ三蔵は悟空に紅該児の相手をさせるつもりだった。
別にの剣の腕を疑ってるわけではない。
ただでは済まないことは見ただけでわかる。
に怪我をさせたくなかった・・・それだけだった。
しかし、悟空のかたくなにを護ろうとする姿勢。
自分がに対して抱いているものと同じ。
とは言え、と違って大人しく背中で護られているような女ではないが・・・。
それでもを守るのではなく、支えてやりたいと心から願った。
紅該児と剣を混じ合わせば・・・はここにはいなくなるような気がしてならなかっ
た。
幾度と無くぶつかり合う紅該児との剣の音。
三蔵は一瞬我が目を疑った。
軽快に響いていた剣音のなかで服を裂くような音と血の匂い。
紅該児の剣が見事の左腕に突き刺さっていた。
苦痛の色に顔を歪める。
三蔵は過去のかの人と残像がぶつかった。
それによって三蔵は銃の構えをなくす。
その油断を見逃す程、紅該児の手下は甘くはない。
目の前に妖怪が斬りかかる。
三蔵はそれでも目の前の敵よりもの事を見つめ、自然との方へと足を進めていた。
悟浄「何してんだよ!!」
悟浄の声で三蔵は我に返る。
三蔵の目の前には悟浄が倒した妖怪が数匹。
三蔵「礼は言わんぞ。」
悟浄「はなからアテにしてねぇよ。でも、借り返すんだろ?」
三蔵「当然だ。」
そう言い切り、三蔵は新たに敵を倒し始める。
視界の端ではまたと紅該児の戦いが始まっていた。
は左腕を抑えて、紅該児に背中を見せた。
それを紅該児も後を負追う。
の息が異様に上がっていた。
急所は外れている。
いや、むしろハズされたのだろう。
はその事が力の差を見せつけられたようで、腸が煮えくり返る思いだ。
ポケットからハンカチを出し左腕に巻き付ける。
達から大分離れた所で、は足を止めて紅該児を見据えた。
紅該児もそれに足を止める。
「一つだけ聞きたい。何故、私を指名した。」
紅該児「以前より一度手合わせしてみたかっただけだ。だが、いつもあのガキが煩くて
お前の側にも寄れなかった。」
確かに紅該児の相手は暗黙の了解で悟空の担当だった。
はその戦いに水を差させない為に回りの妖怪を凪払うのみ。
紅該児「俺からも一つ質問だ。何故三蔵と行動を共にする?」
その答えには答える事が出来なかった。
何故・・・?
知らずに三蔵達と共に行動する事が自然となっていた。
理由など・・・ないのかもしれない。
ただみんなと一緒にいたかっただけなのかもしれない。
戒と同じ妖怪と・・・そして・・・。
は紅該児をジッと見つめる。
「理由などない。私の意思がここにいさせるだけだ。」
紅該児「ならば私の元に来る気はないか?」
「勧誘・・・ですか。」
紅該児「俺の元に来れば・・・あの妖狐を元に戻す事も出来るぞ?」
ドクンッ!
その台詞には、愕然とする。
まさか紅該児に戒の事がバレていたとは思わなかった。
の最大の心配はこれだった。
戒を持ち出されて戦闘が不利になる事を一番恐れていた。
「嫌だと・・・言ったら?」
紅該児「三蔵達は元より、とか言う女も惨殺だ。」
の体の熱が一気に上昇する。
あまりにもありふれた交換条件。
いつか三蔵が言っていた言葉を思いだした。
『俺は護る者は必要ねぇ。護らなくて良いものだけが欲しかったんだ。
自分以外の誰かを守れるほど人間は強かねぇんだよ。
それは時として力になるが、時としては自分を追い込まれる材料になりうる。』
は唇を噛み締めた。
三蔵の言っている事は事実。
仲間や情は時として大いなる力を与えてくれるが、時として自分の冷静さを失わせる。
そして冷静さを失ったときが・・・死。
無謀と勇気は違う。
護る事と己の身を犠牲にする事は違う。
は顔を上げて紅該児を見た。
そしてニッコリと笑う。
「ご勧誘感謝しますけど、丁重にお断りさせて頂くわ。」
紅該児「何?」
「みんなを殺したければ殺せばいい。でも、それを実行した時は私もこの世から居なくなる。
罪を共有した者は死ぬ事も共有する・・・約束だから。」
紅該児「罪の共有・・・?」
「そう。私は本来ならば大切な約束を違えている。」
の中で戒と一緒に指切りした日を思い出す。
『貴方が死ぬ時は私が死ぬ時だから、命は大事にしてね。』
戒 『俺の命がお前のなら、大事にするさ。』
そう言って微笑みあった、あの幸せな日。
まだ女でいた頃の・・・。
は辛そうに紅該児を見る。
紅該児「・・・やはり、お前が欲しいな。」
丁度その台詞を言った時に八戒と悟浄そして三蔵が達に追いついた。
一行は紅該児の告白とも言える言葉に驚く。
八戒はの腕を見つめる。
八戒「あれは危険ですね。血が止まっていないようです。」
悟浄「何!?」
三蔵「ちっ!」
はゆっくりと剣を鞘に収めた。
それを見て八戒が驚く。
八戒「!!」
は静かに深呼吸を整える。
紅該児は一歩の前に進み出たが、それ以降ぱったりと足が止まっていた。
の威殺すような瞳に体が動かない。
紅該児の顔に冷や汗が出る。
「この技は使いたくなかったんだけど・・・。」
そう言うとは体を斜めに構える。
三蔵「・・・あれは抜刀術か。」
悟浄「え!?あれはもう500年も昔になくなった伝説の術だろ!?」
八戒「間違いありませんね。本で読んだ事があります。その構えにそっくりです。」
紅該児は驚いて瞳を見開く。
そして一人の人物に辿り着く。
闘神ナタクの脇に常に控えていた戦乙女の存在。
紅該児「お前は・・・!!」
紅該児とを大きな気泡が襲う。
直前まで気付かなかった為か、も紅該児も受け身を取れずに崖の方へと爆風で飛ばされる。
八戒「!!」
八百鼡「紅該児様!?」
崖の縁になんとか手をかけている紅該児。
そしてその紅該児の真下の小さな窪みやっとの思いで手をかけている。
しかし、咄嗟の行動で傷ついた左手で掴んでしまったのだ。
「!?」
左腕の傷口が開き、に苦痛の顔が浮かぶ。
八百鼡「紅該児様!今お助けしますッ!!」
三蔵「!?…チッ!」
悟浄「待ってろ!今助けるからなッ!!」
助けようにも足場が悪すぎる。
崖の端に近寄れば、もろくも崩れ居ていく。
そうこうしている再度、どこからか気泡が放たれる。
咄嗟に八戒が結界を貼り、なんとかその場を凌ぐ。
しかしその振動での手から力が抜ける。
八戒が慌てて手を伸ばす。
なんとかは右手を伸ばし、八戒の手に触れる。
それを確認するように、八戒はしっかりとの手を握った。
「!!」
は八戒と三蔵の足元のひずみに気付いた。
二人は必死になってる所為で気が付いていない。
はにっこり・・・と微笑んだ。
八戒「!?」
八戒は息を飲む。
いや、そこいた全員が息を飲んだ。
それはが最後を悟った微笑み。
そこからはスローモーションでもかかったかのようだった。
は自分から手を放した・・・。
八戒「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
三蔵「!!」
悟浄「チャン!!」
静かに崖の底に吸い込まれる。
その脇で紅該児を助けるべく、八百鼡とその部下達が引き上げようとしていた。
紅該児もの行動には驚いた。
すぐ様三蔵達の方を見つめ、八百鼡のいる足元を見上げる。
もう少し体重がかかれば、八百鼡も一緒に崖の底へと投げ出される。
紅該児も直後崖から手を放した。
八百鼡「紅該児様ッ!?」
そんな状況に三蔵はちらりと横目のその状況を把握する。
しかし八戒がすぐ様の後追うと身を乗り出した。
三蔵「八戒!!待て!!」
八戒「!!!離して下さい!!今度は僕に守らせください!!
もう僕の目の前で大切な人が死んで欲しくないんです!!!」
三蔵「・・・駄目だ!俺が許さん!!」
必死に八戒は三蔵から離れようと藻掻く。
そんな自分を取り乱した八戒を初めて見た悟浄は唖然としている。
三蔵「河童!何ぼけっとしてやがる!八戒をどうにかしろ!!」
八戒「どいてください!!!!!!!!ッ!!!!!」
八戒はとうとう三蔵に目掛けて気泡を撃とうとする。
その間に悟浄が割って入り、八戒の鳩尾に拳を叩き付ける。
八戒の瞳は一瞬宙をさまよい、ゆっくりと瞳を閉じる。
三蔵はそれを見下ろす。
そして、崖の下を眺める。
三蔵は紅該児の行動を目の端に捕らえていた。
を守るように体を抱きしめ・・・(怒)
もとい、体を支えて下へと落ちていく様を・・・。
崖の下の河。
助かるだろうか・・・?
三蔵はすぐ様崖を降り始めようとする。
悟浄「ちょい待った。さっきの訳わからない攻撃もあるし単独行動はやめた方がいいんでない?」
三蔵「・・・離せ。」
悟浄「八戒には行くなとか言っておいてか?」
ともかく安全な方法で下まで行こうと珍しく(?)まともな意見を言う悟浄。
三蔵も渋々ジープに戻る。
悟空「あ、みんな!!大丈夫だったか!?」
悟浄「ああ。」
しかし悟浄は気を失った八戒を抱えている。
状況が苦しかったことは見ていなくてもわかった。
「あれ?ちゃんは?」
悟浄は何も言わずに八戒を助手席に座らせる。
三蔵がハンドルを握る。
「三蔵、ちゃんは?」
が戻るのを待たずにエンジンがかけられる。
悟浄はの愛用のバイクをふかし始める。
悟空の顔から血の気が引き始める。
悟空「三蔵!はどうしたんだよ!!なぁ!三蔵!!」
三蔵「・・・煩せぇ。」
いつもとは違う三蔵に悟空は最悪の状況が頭に浮かんだ。
すでにの目には涙が溜まっている。
「教えて三蔵。ちゃんは、どうなったの?」
三蔵「・・・崖から落ちた。今から探しに行く。」
「!?」
は驚き目を見開く。
悟空も同じだった。
三蔵は無造作にの頭を何度か撫でる。
それが合図のようにジープは出発した。
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三蔵一行よりも一足はやく崖の下に辿りついた八百鼡達はすでに紅該児を探し初めていた。
八百鼡「きゃ!!紅該児様!?」
八百鼡の悲痛の叫び声に、誰もが紅該児の最悪の状況を頭に思い浮かべる。
紅該児は崖の下にあった小さな茂みに身を横たえていた。
その腕にはしっかりと血だらけのを抱えたまま。
八百鼡が何度か紅該児の名を呼ぶと、微かながら紅該児は声を出した。
まだ死んではいない。
八百鼡は近くの部下にすぐさま紅該児を城へ返すように言い渡す。
八百鼡がゆっくりと紅該児からを離そうとしたが、強い力でを掴んで居る為にな
かなか離さなかった。
八百鼡は仕方なく溜め息をつくと、二人を一緒に平らな所に横にした。
も虫の息ではあるが微かながら息はある。
紅該児愛用の飛龍が来ると八百鼡は紅該児とを乗せてゆっくりとその場から離れた。
それからしばらくして三蔵達が辿り着いた。
最初に悟空とがジープから飛び出てを探し始める。
三蔵は横で気を失っている八戒を気遣ってかジープから動こうとはしなかった。
悟浄はタバコに火をつけて、ゆっくりとを探し始める。
三蔵は瞳を閉じた。
あのの微笑み・・・くそ、何もかも悟ったような面しやがって。
三蔵は気に入らなかった。
紅該児が手を放したとき、あの八百鼡とか言う女の足元を見て驚いた。
あんなにも危ない場所に何人も立っていたのかと、思った。
そしてが手を離した意味もわかった。
自分一人が犠牲になりやがって・・・。
他人を守る事と自分が犠牲になる事は違うと・・・あれほどが言っていた。
なのに結果はこれか・・・。
三蔵はタバコに火を付けた。
ゆっくりと煙を吐く。
八戒「は・・・みつからないんですね。」
三蔵「気付いたか。」
八戒「すみませんでした、取り乱してしまって。」
三蔵「フン!お前でもあんなに取り乱す事が出来るんだな。・・・安心した。」
三蔵のその台詞に八戒は力なく微笑む。
そして自分がを握っていた手を見つめる。
しばらく沈黙が流れる。
八戒「僕は・・・またこの手で守れなかったんですね。」
三蔵「それは違うな。あれはあいつから手を放した。」
八戒「!!それは・・・。」
三蔵「アイツは死ねん。この俺が許すまではな。」
八戒「三蔵。」
ジープの近くまで来ていた悟空は下を向く。
から手を離した・・・。
自分があの時に行っていればきっとこんな事態にはならなかったのではないか?
悟空が拳を握りしめる。
そこに悟浄が顔を出した。
悟空「悟浄。」
悟浄「との約束、よく守ったな。」
悟空「まさか悟浄、聞いてたのか!?」
数日前の野宿の際、悟空とが夜の見張り番をしていた時、は悟空にある誓いをた
てさせた。
悟空「誓い?なんだよそれ?」
「約束ってことかな?いい、これからこの仲間にどんな事があっても決してちゃん
からは離れない事。ちゃんを守る役目を譲るかわりの制約。」
悟空「なんではいつもをそんなに大事にするんだ?何かあったのか?」
はふと優しくを見つめる。
を見ているのだがどことなく遠い瞳。
を通して誰かを見ているような・・・そんな眼差し。
はゆっくりと悟空を見つめて、悟空の頭を何度か撫でた。
とても優しい手つきで。
悟空「?」
「今度はちゃんと後悔しないように守らないと、お互いにね。」
悟空「後悔?」
「悟空、約束は守る為にある。そして約束はその人との絆の強さ。だから・・・だから
私はちゃんを守る。遠い昔の約束を違えぬ為に。そして、悟空。あなたも私と同じ約束
をしたの。必ず守り通すと言う・・・ね。」
悟空は何の事を言っているのかわからないように首を横に傾げる。
そんな可愛らしい態度には瞳を細める。
「今はまだ思い出さなくていい。悟空・・・今はちゃんを全力で守ること。」
悟空「に言われなくとも、俺はそのつもりだぜ!?」
その言葉には笑みを零す。
『お前に言われなくても、俺はそのつもりだぜ!任せろ!!』
頭の中に響く声には首を振り、払いのける。
「そうだったね、ごめん。」
おそらくジープで寝ていた八戒と以外はこの事を聞いていただろう。
悟浄はタバコをふかしながら空を見つめる。
悟空は再度を探しに行こうとするが、悟浄がそれを止める。
怪訝そうに見ると、悟浄は悟空を連れて八戒達の前に現れた。
八戒「悟浄、は?」
悟浄は静かに首を横に振る。
もジープに戻って来た。
悟空は気遣いげにをジープの後部座席に座らせる。
悟浄は自分のポケットから一つのブレスレットを見せる。
それにいち早く反応したのはだった。
の左腕に悟浄が持っている物とそっくりな物が身についている。
しいて言えば石の色が違うことだ。
の石は青く光っていたが、悟浄が持っていたのは赤く光っていた。
それはがお守り変わりにと一緒の物を選んで買ってきた物。
の物だった。
それを聞いて悟空が静かにを包みこむ。
いつもなら「目の前でいちゃつくな」と一言でハリセンでも飛んでくるものの、今回は大
目に見たのか、何もしてこない。
状況が状況だからなのだが・・・。
悟空「は下流の方へ流されたのかな?」
しばらく一同は黙る。
そんな沈黙を破ったのは三蔵だった。
みんなと視線を合わせる事もなく、ただタバコをふかしている。
三蔵「違うな。」
全員「えっ・・・?」
三蔵「誰かが連れ去った後だ。」
「誰か・・・」
悟空「なんでだ?」
三蔵「・・・見て見ろ。さんざん調べつくした後だ。」
気が付くと地面には所狭しと妖怪の足跡がついている。
そして、一つの茂みを睨み付ける。
三蔵「あそこにいたんだろ。それを見付けたのはあの辺りか?」
そう言うと三蔵は茂みを差す。
悟浄はゆっくりと首を縦に振る。
三蔵「あの茂みのへこみ具合からすりゃ一目瞭然だな。は生きてる。」
悟浄「なんでわかんのよ。」
八戒「もし仮に亡くなっていれば遺体を持って行っても仕方がないですからね。
ここにあったはずです。でもナイと言うことは・・・。」
悟浄「んま、希望は捨てない方が良いってことか!?」
その言葉に八戒も微笑む。
しかしは下を向いたまま。
悟空はの頭を優しく撫でる。
それにも顔をあげる。
悟空はニッコリと笑みを作った。
悟空「大丈夫だよ。は絶対生きてる!をおいて逝くわけないもんな!!」
「悟空・・・。」
悟浄「まぁ、お猿ちゃんにしては良く頭がまわったな。」
悟空「猿って言うなよな!エロ河童!!」
悟浄「なんだと!?気がつきゃ、てめぇはなんでの事抱きしめてんだよ!10年早いんだよ!10年!!は・な・れ・ろ!」
いつもの喧噪。
はふと笑みが零れる。
心配そうに見つめていた八戒もそんなを見て、ようやく安堵する。
三蔵もチラリと視線を送ると、ジッと空を眺める。
『・・・。』
そっと心の中で呟いてみる。
必ず名を呼べば振り向き返事をする。
たったそれだけの事なのに、無償にの声が聞きたくて意味もなく呼んだ事がある。
その度には返事をするのだが、なかなか話し出さない三蔵を怪訝そうに見つめる。
そして一言。
「三蔵・・・年?」
三蔵「・・・(怒)」
そんな会話も出来ない。
生きていて欲しい。
いや、生きていなければいけない。
この俺が死んでいいと許していないのだから・・・。
八戒と三蔵は席を交代する。
本来ならもう少し八戒を助手席で休ませたかったのだが、悟空の懇願で交代したのだ。
悟空「・・・三蔵はハンドルを持つと性格が変わるんだ。」
悟浄「変わってはないだろ?元々乱暴な鬼畜な性格が見事に繁栄されて、もっと酷くな・・・。」
スパーッン!!!!!!!!
三蔵のハリセンが悟浄と悟空の頭をクリティカルヒット!
悟空は恨めしそうに三蔵を見る。
悟空「だって、あれじゃが大変なんだよ!!」
八戒「そうかもしれないですねぇ。運転は性格がかなり繁栄されますから。」
ニッコリ笑いながら八戒はちらりと三蔵を見る。
三蔵は何も言わずにタバコに火を付ける。
それが合図のように車は動き出した。
どこかに連れ去られたの情報を仕入れる為に・・・まずは西を目指すしかない。
三蔵は静かに目を閉じた。
『・・・。』
三蔵は心の中でもう一度呟く。
『何?三蔵。』
『タバコ吸うなら窓開けてよね!髪に匂いがつくでしょ!?』
『三蔵・・・ありがとう。』
『三蔵さん。』
『三〜蔵!』
三蔵の頭の中での声だけが響いてくる・・・。
ふと三蔵の瞳がゆっくりと開かれる。
強い意志の現れの瞳。
そして三蔵は心の中で呟いた。
『・・・・
・・・・・無事でいなけりゃ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・ぶっ殺す。』
後書き 〜 言い訳 〜
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
これにこりず、次章も読んで頂けますと幸いです。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
更新 2007.12.03
再掲載 2010.10.28
制作/吹 雪 冬 牙
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