『最
遊
記 5 〜 いつも君の側に・・・ 〜』
が行方不明になってからすでに10日はたとうとしていた。
とある街に着いてからすでに3日は過ぎようとしていたが、これと言っての手掛かりはない。
誰もが次の街に行く事を考えていたが、三蔵が一向に出発の言葉を出さない。
そして、他のみんなも三蔵を急かそうとはしなかった。
ほんの小さな・・・砂粒程の希望でもいい・・・がいつものように笑いながら追いつ
いて来るのではないかと思っていた。
悟空「あーーーー!!このバッ河童!!それは俺が育ててた肉だろうが!!」
悟浄「あ!?名前でも書いてあったのかっ!?あ!?」
悟空「書いてねぇけど、ずっと俺がっっ」
悟浄「てめぇのなら名前でも書いとけ。」
いつもの食事の喧噪が始まる。
がいなくなってから、三蔵も含めてみんないつも通り変わらない日常を送っていた。
三蔵一向からすればを思いやっての事。
からすれば、みんなに少しでも心配かけさせないようにする為。
それと、がもし帰って来た時に暗かったら、きっと自分を責めるのが分かっていた。
『ちゃんはそんな所があるから・・・』
がそっと悟空に呟いた言葉。
それは悟空を心配させるには十分過ぎる程の言葉だったが、それと同時にを心から愛
しいと思った瞬間でもあった。
は激しくなりつつある二人の喧噪の間に割って入る。
「二人共、喧嘩は駄目だってば。」
悟空「だってぇよ、俺の肉喰ったんだぜ!?」
「う・・・。」
涙目で訴えてくる悟空のかわいらしさに思わず抱きしめたくなる衝動をなんとか抑える。
そしてはいつもより少し怒ったような顔で悟浄を見る。
それを見た途端悟浄は思いっきりを腕の中に仕舞い込んでしまった。
一瞬の出来事にの思考回路が止まる。
悟浄「そんな可愛い瞳で見られたら、悟浄困っちゃう!」
「・・・・・・。」
瞬時に自分の置かれている状況を思い浮かべて、みるみる顔が赤くなっていく。
体が動かない。
そんなを無理矢理に自分の方に引き寄せた悟空は心なしか少し怒ったような口調にな
った。
悟空「いつまでくっついてるんだよ、!」
悟浄「やーね、男の嫉妬って。」
悟空「なんでいちいちを抱きしめるんだよ!この慢性発情河童!!」
悟浄「お!?新しいフレーズできたねぇ。少しは頭使ってるんじゃん!」
肉の話しはどこへやら、今度は争奪戦に変わる。
は悟空に引き寄せられ、悟浄に引き寄せられ・・・と半ば諦め状態。
溜め息をつきながら、いつ終わるのであろう喧噪を聞いていた。
そんな喧噪を八戒は巻き添えは御免とでも言いたげに完全に傍観者となっている。
そこに静かに三蔵が近付いて来た。
この雰囲気は・・・ハリセン・・・。
の顔は蒼白した。
もしかすると初!ハリセン体験かもしれないのだ。
ゴクリ・・・と唾を飲み込む。
悟空達はそんな三蔵の気配にも気付いていない様子で、口喧嘩を繰り広げている。
はギュウっと目を瞑った。
直後・・・
スパーーーーーーーン!!!!
空&浄「いってぇーーー!!」
悟空と悟浄の悲痛な声が頭上で聞こえた。
がゆっくりと瞳をあけると、痛みが来るはずの頭には痛みがきていない。
悟浄は頭を抑え、悟空は瞳には涙がたまっている。
そして、は自分のいる場所を見ると悟空の腕の中にいた。
いつもより背が高く見える悟空。
とっさにを庇い、少し高めの位置に立ったのだ。
おかげでいつもは頭にあたるハリセンが顔面直撃したようである。
瞳の上に赤くハリセンの後がくっきりと残っていた。
三蔵「煩せぇんだよ!もっと静かに食わんか!このバカ猿!!」
悟空「悟浄の所為で怒られただろうが!!」
悟浄「てめぇが煩いからハリセンくらっただろうが!!」
また喧嘩の始まりである。
あまりに低俗な喧嘩に三蔵もしばし呆れて見ている。
ふと三蔵の顔が曇った。
はじっと三蔵の事を見ていた。
いつもならここで追い打ちをかけるようにの剣が飛んでくる。
一同がの方を見ると、八戒直伝のニッコリとした笑みでこちらの様子を見ている。
もちろん目は笑っていない。
「次は当てるわよ」と言わんばかりの雰囲気である。
それに同意するかのうような八戒の沈黙の笑み・・・。
そして喧嘩は大抵終わる。
あまりにも普通に行われていた日常。
でも、やっぱりがいない為にどことなく穴が空いたような空虚さを感じる。
今まで三蔵が苦手だった。
を気に掛けてくれているのは、知っていたが実際にに恋愛感情があるか・・・
と言う点では疑問だった。
仮にも相手は『三蔵』の称号を貰った坊主。
それでも寺の戒律をお世辞にも守っているとはいえない三蔵だから・・・。
色々と考えが巡る。
を見る目はいつも冷たい視線に思えてならなかった。
何か憎しみがこもるような・・・そんな視線に感じてならなかった。
でも、がいなくなってからの三蔵は違った。
本来ならタバコの本数が増えるであろう状況なのに、タバコの数は減少した。
少なくとも、はあまり三蔵はタバコを吸っている所を見かけていなかった。
野宿をしていても、自分達から遠く離れた所で考え事をしているようにタバコをふかしている。
そして、自分がの事を考えていると必ず三蔵は何も言わずに近くに来て2・3度頭を撫でてくれる。
その手は「大丈夫だ」と言わんばかりの暖かさがあった。
そして、こんな日常茶飯事の出来事の間に垣間みれる三蔵の苦しそうな・・・辛辣な表情を度々見かけていた。
それを見て、三蔵の中の気持ちが少し分かる様な気がした。
そして、ふとの言っていた言葉を思いだした。
「三蔵さんはあれでも坊主だからね。自分の心に正直に生きてるとは言っても、本当の心の奥底に眠る
純真や素直さは表に出れないんじゃない?あーゆー性格だし。」
「ちゃんは三蔵さんの事、怖くないの?」
「怖い?なんで?」
「だって、いっつも不機嫌そうだし。話してくるな、近寄るなって気を感じる。」
それを聞いてはフッと笑みが零れた。
は気功術を操るから、他人の気を読むのはうまい。
だからに嘘は誰であってもつけない。
真実はわからなくても、嘘である事は相手の気によって読める。
それを知ってるはの前では誰にでも平等に接していた。
はふとの気が暖かくなるのを感じた。
「それはね、さっきも言ったけど三蔵さんは仮にも最高僧の称号でしょ?だから三蔵さんの姿
を見付けると「説法してくれ」って言われるから、それが嫌なだけなんだよ。」
「でも、みんなと一緒にいる時だって。」
「(クス)素直になれない子供・・・そんな所かな?欲しい物を欲しいと言えない。嬉しいのを
嬉しくないと言ってしまう。照れ屋なんだよ。あの4人の中で一番。」
そのの表情は今まで見た事がないような優しい慈愛に満ちた顔だった。
恋愛感情よりももっと上な気・・・感情。
きっとそれは『尊敬』だと、は思った。
そしていつもながらの相手を見る力には驚かされた。
はいつもの不機嫌な三蔵を見て、自分から近付こうとは思わなかった。
実際、悟空のようにわいわいと話かけられるような相手ではなかったのだが・・・。
どうしても三蔵を前にすると緊張する。
けれど、がいなくなってからは・・・そんな殺伐とした所が和らいでいるように思える。
不機嫌な顔は相変わらずだが、良く見ていれば三蔵の感情が微かながらに表情として出て
くる。
は軽く溜め息をついた。
そこに割って入るように八戒がの脇に立った。
八戒「はいはい、三蔵も少し飲み過ぎですよ。悟空もそんなにを抱きしめていたらが苦しいですよ。」
その場の雰囲気を和らげるような八戒のマイペースな声と笑顔。
それにはクスクスと笑い出す。
いきなり笑いだしたに一番怪訝そうな顔したのは三蔵。
驚いたように見つめる悟空と悟浄。
そして、の笑顔が見れてほっとする八戒がそこにはあった。
八戒はを立たせる。
八戒「さ、そろそろはお風呂に入ってくださいね。」
「うん。」
そう言うとは自分の部屋に戻った。
そんなをにっこりと笑みで送る八戒。
見事な保護者振り発揮である。
扉が閉まると同時に全員から溜め息が零れた。
全「はぁ・・・。」
悟浄はタバコに火をつける。
悟浄「なーんか、こう物足りないなんだよなぁ。」
悟空「仕方ねぇよ・・・。」
珍しく悟空と悟浄は沈んだ顔をする。
八戒は席につくと今まで顔満面に広げていた笑みを消した。
八戒「あれ以来、紅該児達も出てきませんね。やはり、を連れ去ったのは紅該児達でしょうかね?」
悟浄「・・・まぁ、『欲しい』って言ってたからな。」
その台詞に悟空が顔を上げる。
悟浄は「しまった」とばかりに罰が悪そうに顔を背ける。
悟空には紅該児の事は一切話してなかった。
あの時の紅該児の『欲しい』と言う言葉。
悟空「なんだよ・・・それ。」
悟空は悟浄に詰め寄るが、悟浄は冷や汗を垂らしながらも明後日の方向を向いているだけ
だった。
仕方なく八戒が説明に入る。
自分達がに追いつけなかった事。
が数多の妖怪に囲まれていた事。
そして、やっと追いつたと同時に聞かされた言葉。
謎の気泡にやられてと紅該児が崖に落ちた事・・・。
そこで八戒の表情が曇った。
悟空は静かに聞いていた。
誰もがが崖から落ちた時の事を口にしようとはしなかった。
だから悟空も聞こうとはしなかった。
悟空は心配そうに八戒を見上げる。
悟空「八戒?」
八戒「ああ、すみませんね。それでの手を僕が掴んだですが・・・落ちて行かれましてね。」
苦笑する八戒は痛痛しかった。
悟浄はタバコを口にくわえ天井を見つめている。
悟浄「その直後だよな、紅該児が崖に落ちて行ってよ。」
三蔵の眉がピクリと反応した。
それ以降は八戒はの手を放してしまった事で半狂乱に陥り、そんな八戒を目の前にし
て悟浄は呆然としていた為に、三蔵しか知らなかった。
『ムナクソ悪りぃ。』
三蔵は頬杖を尽きながらタバコをくわえる。
宿に来て始めて口にするタバコだ。
ゆっくりと煙を吸い込む。
悟空はそんな三蔵を見つめた。
三蔵「なんだ?」
悟空「三蔵、今日は・・・いや、なんでない。」
三蔵は「フン」と小さく呟くとみんなから視線を外す。
悟浄「やっぱし、あの紅該児達が連れて行ったって線が一番濃いのかねぇ。」
八戒「・・・でしょうね。いつものように三蔵の経文を奪いに来て頂けると、の事を聞き出せて
良いですがねぇ。」
一同が三蔵の事を見る。
それは無言に「囮になれ♪」と言わんばかり空気。
いつもは「なんだ」と不機嫌そうに訪ねる三蔵も、その事を考えていたのか何も言わない。
三蔵の行動で本気でその事を考えていると直感する悟浄。
悟浄はポケットからのブレスレットを取り出した。
所々血で黒くなっていた。
目の前で揺らしながら眺める。
三蔵もそれにチラリと視線を動かした。
夜寝る時も決して外す事のなかった物。
三蔵はタバコの煙に視線を泳がせた。
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三蔵「お前、それは外さないのか?」
「え?ああ、このブレスレット?うん。大切な人からのプレゼントなんだ。」
三蔵は面白くなさそうにそのブレスレットに視線を止める。
はニヤリと笑うと三蔵の顔をのぞき込む。
「八戒。」
三蔵「!?」
「・・・からだと思った?」
三蔵(コイツ・・・(怒))
興味なさそうにタバコを揺らめかす。
はそんな三蔵の表情を見てクスクス笑っている。
三蔵のベットの端に座り、ブレスレットを外して三蔵の前に出す。
チラリと視線だけでその行動を見る。
「見て、ここの所。」
小さなプレートの中には不可替代的人 と刻まれていた。
それを見て三蔵はプレゼントの主を確信する。
はすぐにブレスレットを身につけた。
「大切な贈り物なんだ。お揃いなんだよ?ちゃんはこの石が青いの。」
の石は赤かった。
三蔵は不機嫌そうにブレスレット見る。
赤と連想される相手は、たった一人。
・・・悟浄。
最近仲が良い所為もあるのか、なんとなく独占されているようで、嫌な気分だった。
三蔵は小さく溜め息を着く。
出来ればそんな赤い石はしないで欲しいものだが・・・送り主を聞いてしまえばそんな事
も言えない。
「でもこの石って・・・三蔵のココみたいだね。」
はニッコリと嬉しそうに微笑みながら、自分の額を指で軽く叩く。
三蔵の額にある神に近い存在の証であるチャクラ。
の言葉に三蔵は驚いた。
赤と言う色は、一人の人物しか思い出せなかった。
だが、は自分に似てると言ってきた。
自分でも忘れていた額に授かるチャクラ。
そんな些細な事でもの頭に入っている、それが無償に嬉しかった。
確実に三蔵の中での存在が大きくなってきてる事に三蔵自身が改めて驚いていた。
は三蔵と二人きりの時はよく話す。
口調も変わる。
いつもはあまり話さない三蔵も、の声は心地よいとさえ思ってしまう。
そっけなくしか返せない返事だけれども、少しでも長くの声を聞いていたいと思う自分がいて・・・妙な気分になっていた。
そんな罪を共有した二人だけの時間は、三蔵にとってとても大切な時間であり、楽しみになっていた。
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あの時のの本当に嬉しそうな笑みが脳裏に浮かぶ。
三蔵は軽く溜め息をつくと悟浄に手を差し出す。
悟浄「なに?」
三蔵「貸せ。」
その言葉に悟浄はからかう材料を手に入れたと言わんばかりに、ニヤリと嫌らしい笑みを
顔に広げる。
三蔵はわかっているのか悟浄と視線をあわせない。
悟浄「三ちゃんったら、コレど〜するの?悟浄ちゃん聞きたいなぁ!」
カチャリ・・・
直後三蔵は昇霊銃を取り出して悟浄に銃口を向ける。
いつもと違うのは目がいつも以上に座っていること。
悟浄の額に冷や汗が出る。
三蔵「もう死ね。」
ガウンッ!
ガウンッ!
ガウンッ!!!
いつものように弾を避ける悟浄。
ガウンッ!
ガウンッ!
それでも三蔵は銃を止めようとはしなかった。
やはり違う。
悟浄は本当に命の危険を察知した。
弾を避けながらも慌てて三蔵にブレスレットを投げる。
三蔵の手に納まると、銃弾の音も止む。
悟浄「ぜーはーぜーはー。」
悟空はあまりの出来事に珍しく八戒の後ろに非難していた。
八戒も流れ弾が当たらないように、防御壁を作りやはり傍観者を決め込んでいた。
三蔵はそれを受け取ると、立ち上がる。
八戒「あれ?三蔵何処に行くんですか?」
三蔵「寝る。」
それだけ言うと三蔵は本日あてがわられた部屋へと消えて行った。
手にはしっかりとのブレスレットを持って。
それを見てやれやれと溜め息を零す八戒。
悟浄はまだ肩で息をしていた。
悟浄「なんだよ、ったく。マジで殺そうとしてたぞ。」
八戒「悟浄。」
悟浄「んあ?」
ニッコリとした八戒が近付いてくる。
その威圧に悟浄はまたもや命の危険性を察知する。
八戒「一つお聞きしたかったのですが、何故貴方がのブレスレットをずっと大事に持って
らしたのですか?僕に渡してくれても良かったのでは?」
大事にの部分を強調する八戒。
悟浄「いや・・・ホラ、なんか渡しそびれたなぁ〜みたいな感じで。」
八戒「・・・。」
無言で悟浄を見つめる八戒。
それを見てジープと抱き合って部屋の端に寄る、悟空。
がいなくなるといきなり全員が険悪になる。
いや八戒と三蔵がと言うべきだろうか。
悟空は気付いていた。
八戒と三蔵がの一件以来口を聞いていない事を。
大切な事柄以外、お互い歩み寄ろうとしていない。
何度か夜中に八戒と三蔵の口論は耳にしていた。
別に怒鳴り合う訳でもなく、ただ静かにお互いの声が聞こえていた。
それは明らかに怒りを抑えている低い声。
ほんの一瞬がいないだけなのに、の存在の大きさに悟空は改めて気付く。
八戒「悟浄、二股は駄目ですよv」
ニッコリと黒い笑みを浮かべた八戒。
悟浄は無言で何度も首を縦にふる。
その返事に満足したのか八戒は元いた席に戻る。
部屋に静寂が戻る。
日常ではありえない静寂。
悟浄は髪を掻き上げながら、立ち上がる。
悟浄「ちょっくら頭冷やしてくる。」
八戒「頭・・・ですか?」
悟浄「まぁな。」
それだけ言うと悟浄は部屋を後にした。
宿屋の1Fに降りるとが一人もう閉店してるバーのカウンターに座っていた。
お風呂には入ったのであろう。
髪が少し濡れている。
悟浄は静かに近付き、の肩に掛かっているタオルを頭にかけた。
それに驚いたが後ろを向く。
いつもの笑みを浮かべた悟浄。
悟浄「こんなに濡らしてたら風邪ひいちゃうよん。」
そう言いながら優しくの髪をタオルで拭き始める。
もそれを断ろうとはしなかった。
暫く下を向く。
悟浄はそんなを見て、先程のみんなの話を立ち聞きしていた事に気付く。
どこから聞いていたのか・・・?
悟浄は黙って髪を拭く。
「みんな・・・ちゃんの事・・・大事に思ってるんだね。やっぱりちゃんがいないと駄目だね。」
少し哀しそうな笑みを称える。
そんな今にも消えてしまいそうなを抱きしめたくなる。
が悩んでいることは悟浄はずっと以前から気付いていた。
を憧れとして見ていた。
しかしそれと同時に羨む気持ちも存在して、その気持ちがいけない事と分かって一生懸命
消そうとしていた事。
悟浄は何も言わずにただの話しを聞いていた。
「ちゃん・・・何処にいるんだろう。早く帰って来ないと、みんながバラバラになっちゃう気がして・・・。」
その言葉に悟浄はやっと手を止めた。
悟浄「それはナイよ。」
いつもとは違うゆっくりとした口調。
少し声のトーンを落として悟浄はの隣りの席に座った。
自分の羽織っている服をの肩にかける。
悟浄「一人がいるからまとまっている訳ではないでしょ?も必要だし八戒も必要だろ?
バカ猿に生臭坊主もそうだし・・・そしても。」
真剣にの事を見つめる悟浄。
その瞳に吸い込まれるような錯覚に陥る。
はその妖艶な瞳に捕らわれて、ただ見返す事しか出来ない。
悟浄「がいなくちゃ、あんな雰囲気になっちゃうんだよ。それはの力でしょ?」
「それはみんなが私に気を遣ってくれて。」
悟浄「ばーか。」
の額を軽くこづく。
悟浄は誰にも見せた事のないような笑みでを見つめる。
の顔が赤くなる。
悟浄「気を遣うような奴等じゃないよ?特にあの猿と坊主は。」
「悟空は他人にとっても気を遣う人だよ!?」
悟浄の台詞に少しカチンと来たは慌てて悟空の弁解を図る。
別に悟浄も本気で言ったわけではないのだが・・・。
悟浄はに気付かれない程度に、哀しい表情をする。
は相変わらず悟浄を睨んでいる。
悟浄は子供をあやすようにの頭を何度かポンポンと叩いた。
悟浄「わかりました。みんな気を遣います。でも、今回の事は別よ?みんなそれぞれ自分の事で精一杯だからな。」
そう言うと悟浄はタバコに火を付ける。
はそんな悟浄の顔を見つめていた。
時々悟浄は確信をついたような事を言う。
それはが疑問に思っていた事の答えを導き出してくれるように。
は下を向いた。
「私・・・守られてばかりじゃ、嫌なんです。」
悟浄「・・・だろうな。」
その言葉には瞳を見開き悟浄を見る。
悟浄は相変わらずタバコを口にくわえたまま天井から視線を外さない。
どこまで自分の気持ちに気付いているのだろうか・・?
はそんな事を考えた。
いつも悟空と自分をからかい、悟空と喧嘩ばかりしてる悟浄。
口にしなければ答えは出ない。
はそう思い悟浄の事を見つめた。
「悟浄はどうして気付いてるの?いつもいつも。」
悟浄「側に・・・いつも側で見てるから・・・かナ?」
最後の方は誤魔化すようにウインクしてくる悟浄。
いつも側に・・・。
確かには常に側にいてくれた。
自分が淋しいと思うとき、悩んでいるとき・・・そっと近くいてくれた。
何も言わないけど、それが心地良かった。
安心した。
そしてふと・・・は今の状況と重なり合わせる。
安心してる・・・?
はまたジッと悟浄を見る。
悟浄はニヤリと笑うとの頭をまた何度か叩く。
優しい手つき。
そしてある事に気付く。
の変わりをしてくれている・・・?
いつもがやる仕草。
の頭を優しく叩く。
「ばーか。」とか「ちゃんらしくないなぁ」とか「何やってんの?」とか・・・
いつもそんな言葉を付けながら、を安心させるように頭を叩く。
「悟浄って・・・ちゃんみたい。」
瞬間、悟浄が椅子から崩れるのは無理もない。
こんなに良い雰囲気で・・・さすがはと思う悟浄。
悟浄「でも、みたいに優しくばかりは出来ないよ?俺。」
「え?」
ニヤリとまたからかう前の笑み。
は身の危険を感じて体を引く。
しかし少し早い悟浄の動きでの行動は完全にストップしてしまう。
悟浄の方に軽く引っ張られ耳元で囁かれる。
悟浄「ベットの中で教えてあげよっか?」
「なっ!?」
瞬時にゆでタコのような顔に変わる。
それを面白がるように悟浄はケラケラ笑っている。
しばらく面白がって笑う悟浄を恨がましく見ていたがふと表情が変わる。
それに気付いて悟浄も笑いを収める。
そして直後、悟浄にとっては最悪な勘違いをされるのだった。
「悟浄って、本当にちゃんが大切なんだね!」
悟浄「はぁ?」
どこをどう捕らえたらそんな答えに行き着くのか・・・?
悟浄は半ば呆れた感じでを見ていた。
時にわからなくなるの思考回路。
あまりのショックな事に悟浄はゆっくりと説明を求める。
それには「だって」と嬉しそうに顔いっぱいに笑みを称えている。
「だって、ちゃんがいない分、ちゃんのかわりになろうとしてくれてるし。
ちゃんと同じ事するから、よく見てるな・・・って思って。」
その言葉に悟浄はガックリ肩を落とす。
のように・・・とはが男っぽいだけなのに・・・。
普通男は好きな奴の事を良く見てるもんだ。
いつも側にいて守って上げたいと思っているし、今どんな気持ちなのかわかっていたいと
思うものだ。
悟浄もそれと変わらない。
きっともそうだろう。
は恋愛感情ではないが、何かを必死に守ろうとしている。
それは何なのかはに聞いても教えてはもらなかったが・・・あの時、悟空に誓いをた
てさせた夜のの口調は、何かに後悔しているような口調だった。
その後悔を二度と繰り返したくないと言う気持ちが手に取るようにわかった。
悟浄はチラリとを見る。
悟浄「確かには大事だな、仲間として。でも、は・・・」
そう言うと悟浄はの方に体を向ける。
また・・・悟浄の瞳に捕らわれる。
悟浄がまた口を開きかけたその時だった。
悟空「エ〜
ロ〜
河〜
ッ童〜!!!!!!」
後ろからもの凄い勢いでたちに突進してくる悟空。
悟浄はそんな悟空の頭を手で押さえる。
悟空の腕は悟浄には届かなく、ばたばたと暴れている。
は呆気にとられてしまった。
悟空「が部屋にいないから心配してみれば!!」
悟浄「なんだよ、がいないと眠れねぇのか?ガキだなぁ、相変わらず。」
悟空「なんだと!?」
また・・・喧嘩の始まりである。
いつもの喧噪にはクスクスと笑い出す。
それに喧嘩の手を止める二人。
「ごめ・・・クスクスごめんなさい・・・だって、クスクスあんまりに二人が・・・。」
必死に笑いを止めようとしている。
それを見て悟空と悟浄も笑い出す。
そっとその状況を八戒は影から見つめていた。
悟空が「がいない」と騒ぎ出したので、一緒に探していたのだが・・・。
ふと気配を感じて八戒が横を向く。
そこにはタバコをふかした三蔵が立っていた。
八戒「三蔵。寝ていたんではないんですか?」
久しぶりに雑談を話す。
八戒は苦笑した。
三蔵はチラリと達に視線を走らせると、無言のまま部屋に帰って行く。
そんな三蔵を八戒は珍しく呼び止めた。
不機嫌そうに八戒を見る。
八戒「駄目ですよ。」
三蔵「あ?」
八戒「自分一人を犠牲にする・・・なんて考え。が悲しみます。」
その台詞に三蔵は壁に体を持たれかける。
ゆっくりと吐く煙。
三蔵「そのがやっていたんじゃ、世話ねぇな。」
八戒「・・・。」
一気にその場の雰囲気が急変する。
お互い睨み合いが始まる。
八戒「は優しい人です。だから・・・。」
三蔵「てめぇの身ぐらいてめぇで守れないようじゃ、この旅は続けられねぇな。しかもご
丁寧に大幅に時間を喰って迷惑かけやがって。」
八戒「・・・三蔵、それ本気じゃないですよね?」
三蔵は八戒の言葉に何も語ろうとはしない。
八戒の目が三蔵を射抜くように見る。
そう敵にしか見せるはずのない視線。
八戒「・・・僕・・・怒りますよ。」
三蔵「・・・だからどうした。本当の事を言ったまでだろう?」
八戒が三蔵の胸倉を掴み上げる。
八戒「貴方って人は!!」
三蔵は静かに八戒の事を見つめる。
その視線に八戒は目を見開く。
あまり寝ていないのだろうか・・・?
がいなくなってからみんなとあまり視線を合わせない三蔵の理由。
三蔵の瞳にあるクマ・・・。
八戒はゆっくりと掴みあげた手をほどく。
八戒「三蔵・・・寝てないんですか・・・?」
三蔵「煩せぇ。」
それだけ言うと三蔵は八戒を背に向けて部屋に戻って行った。
そんな三蔵をいたたまれなく八戒は視線をそらした。
三蔵の部屋をしめる扉の音が、異様に八戒の心の中に響いた。
後書き 〜 言い訳 〜
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
これにこりず、次章も読んで頂けますと幸いです。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
更新 2007.12.03
再掲載 2010.10.28
制作/吹 雪 冬 牙
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