『最
遊
記 6 〜 過去との決別 〜』
三蔵「行くぞ。」
いきなり三蔵の出発の合図。
がいなくなってから数日この街にずっと滞在していたのが、三蔵は何を考えているの
か・・・いきなりその街を後にした。
ジープの後ろから三蔵をじっと見つめる悟空の視線。
それが分かっているのか、三蔵の眉間にはいつもより多めの皺がよっている。
三蔵にしては珍しく、しばらくその状況を我慢していたのだが・・・さすがに街を出て
以来3日もそんな状況だと我慢も限界のようである。
三蔵「何が言いたいんだよ、てめぇはうぜぇな!!」
悟空「なんで街を出たんだよ。もしかしたらが追いつくかもしれなかったのに。」
街を出るのを最後まで渋ったのはよりも悟空だった。
しかし三蔵の「だったらてめぇ一人で残れ。」と言う台詞には勝てる事も出来ずに、三蔵
を睨む形で街を出たのだった。
誰も三蔵の考えは分からなかった。
ただみんなの中ではを置いて来てしまったような感覚があったのだ。
悟空「もし、今頃があの街にいたらどうするんだよ。」
三蔵「俺達は遊びで西を目指してるわけじゃねぇんだよ。一刻も早く三仏神の勅命を終わら
せなけりゃならねぇんだよ。このバカ猿!!」
悟空「(ムカッ!)じゃあ、それでを置いてけぼりにしたってのか!?」
三蔵「・・・。」
その台詞には三蔵は何も答えなかった。
八戒も運転しながら何度か三蔵の事を見た。
悟空は追い打ちをかけるように三蔵に何かを言おうとしたが、八戒が静かにそれを止めた。
は悟空の事を見つめた。
ふてくされている悟空はを見ようとしない。
小さく溜め息をついた。
八戒「、あと2時間くらいで次の街に着きますからね。もう少し頑張って下さい。」
「あ・・・うん。」
は曖昧な笑顔を見せる。
八戒や悟浄、三蔵はいつもと変わらない。
悟空だけが珍しく静かにしている。
それは本気で三蔵に対して怒っているからだ。
殊の外「仲間」と言う物を大事にする悟空。
はそんな悟空の心を助けて上げたかった。
きっと、悟空は置いてきたと言う事実を自分がやったかのように心を痛めているのだろう。
そんな優しい所がある悟空。
の好きな一面でもある。
それから数分・・・誰も何も話さない。
こんな事は始めてだった。
八戒はいきなり車を止めた。
三蔵「どうした?」
八戒「いやぁ、ジープも走り続けで疲れているみたいなんで、此の辺りで小休憩でもしませんか?」
その言葉に、三蔵は怪訝そうに八戒を見たがバックミラー越のの表情を見て溜め息を
ついた。
黙ってジープから降りる三蔵。
三蔵「30分だ。」
それだけ言うと、三蔵はジープから離れる。
ジープから少し離れると、三蔵は懐からタバコを取り出した。
火を付けてゆっくりと吸い込む。
近くの木にもたれ掛かるようにタバコを見つめた。
三蔵は自嘲気味に笑った。
がいなくなってから、タバコの減りが異様に少ない。
イライラが無いわけではない。
むしろイライラする時間は多くなった。
あの時、を助けられなかったと言う傷を持っているのは八戒だけではない。
三蔵も助けられなかった事が悔しかった。
何が支えてやりたい・・・
だ・・・。
三蔵は小さく舌打ちをする。
今となっては、との約束を守る事しか出来ずにいる。
『
ちゃんと一緒になった時はあんまりタバコ吸わないでよ。肺ガンになったらどう責任取ってくれるのよ!!』
三蔵『・・・分かった。嫁にもらう。』
『
そうじゃないでしょ!!!それにちゃんの気持ちもあるでしょうが!!三蔵と一緒になったらちゃんが可哀想!!』
三蔵『てめぇ・・・(怒)』
『
だってそうでしょ?ちゃんは悟空が好きなの。おわかり?ゴ・ク・ウ!!三蔵じゃどんなことしても駄目なの!
残〜念〜でした。それに私が認めない!』
三蔵『なんだ。結局ヤキモチか。』
『
ち〜が〜う!!!ちゃんを任せられる人じゃないと駄目なの。三蔵は任せられない!はっきり言って失格!!』
三蔵『・・・オイ。俺は猿以下か?』
『
うん。(キッパリ)ふさわしくなりたいなら、タバコをまず辞める事ね。』
いつもそんな言い争いをしていた。
そしてこんな事しかに出来ない自分の無力さが腹だたしい。
お師匠が亡くなった時、自分の無力さを嫌と言う程味わった。
でも、を失った無力さはそれとはまた別の物だった。
ゆっくりと煙を吐き出す。
ふとジープの方に視線を投げると、と悟空が楽しく笑い合いそれを邪魔するかのよう
に悟浄がお邪魔虫をしている。
あの街を出た理由を八戒から問われた。
悟浄にも・・・悟空には嫌と言う程・・・。
しかし
は・・・一度も聞いてこない。
別に責める訳でもない。
何か言いたそうな瞳で見つめて来てるのは気付いている。
でも、何と答えていいのかわからなかった。
ただ、一つ言える事ははあんな事されても喜ばないって事だけだ。
自分を犠牲にして行方をくらます事になった。
それは自業自得と言うだろう。
そして旅を中断してしまっている事に対して、きっと冷たい瞳で俺を見つめて言うだろう。
『何してるの?』・・・と。
ふと、自分の所に影が落ちてきた。
三蔵はふと上を見上げると、そこには八戒が立っていた。
八戒「ここ、いいですか?」
そう言われて三蔵は少し場所を開ける。
その隣りに八戒は腰をおろした。
何も言わずに空を眺めている八戒。
がいなくなって以来、八戒とはまともに口を聞いてはいない。
何をしに来たのか?
三蔵はイライラし始めた。
言いたいことがあるならば早く言えばいい。
でも、今は人の話しを聞いてやれる程の心の余裕はナイ。
三蔵は思考を止めた。
これ以上考えれば、話しを聞く前にこっちが切れてしまう。
八戒「は・・・きっと旅を続けるのを望みますね。」
その言葉に三蔵は八戒を見る。
相変わらず八戒は空を眺めたままだ。
八戒「最近タバコを吸わないのは、の為・・・ですか?それともの為ですか?」
三蔵「!!」
八戒はゆっくりと三蔵の事を見る。
何もかもお見通しと言わばかりの微笑みで見つめる八戒。
そんな状況に三蔵は居心地が悪かった。
八戒「がいなくなって、改めて実感しました。花南の事は忘れてはいけない事です。でも、
は・・・僕の中でそれ以上の存在になっています。出来れば彼女を一生側で支えたいと思っ
てます。「守られる」事は嫌いですからね、は。」
三蔵と同じ考えを持つ八戒に、少なからず敵意を持った。
の事、何を知っている。
あいつが本当は弱い事や泣き虫な事、寂しがり屋な事・・・
何を知ってる。
全ては俺の前だけでしてきた事のはずだ。
三蔵は黙って八戒の話しを聞いていた。
八戒「が戻って来たら、二度彼女の手は放しません。三蔵、貴方はどうですか?」
そんな答えは決まっている。
手だけでなく、あいつ自身を離さない。
自分の側にずっと置いておくつもりだ。
三蔵はタバコを地面にこすりつける。
答えの無い事に八戒は真剣に三蔵を見る。
八戒「三蔵、僕は今真剣に話してます。その意味は分かりますね?」
三蔵「・・・ああ。」
三蔵は新たにタバコに火を付ける。
そんな行動を見て、八戒の顔にいつもの笑みが戻る。
本当に素直ではない三蔵。
が誰を選んでも、八戒は別に構わないと実際思っていた。
それはが幸せなら・・・それで構わないと思っていたからだ。
を無理矢理自分の所有物にする事は簡単だ。
でもそれは本当のを手に入れた事にはならない。
の幸せは自分である事を願っている。
でも、もし他の人物なら・・・いや、三蔵だったとしたら・・・。
八戒は黙って三蔵の事を見た。
三蔵もおそらくの事を一人の女性として意識していることは確かだ。
それは日頃の行動を見ていてもわかる。
自然との方に視線が追っている。(そんな事に本人は気付いてないらしいが。)
そして、と悟浄や悟空との会話を見て三蔵にしては本当に本当に珍しく微笑んでいる。
・・・と言うのとはほど遠いが、口の端が(微かに)上がっている(ような気がする)。
しばらく沈黙が支配する。
タバコの長さが除除に短くなる。
三蔵はまた地面にタバコを押しつけると、その場を立ち上がった。
それを見上げる八戒。
八戒「
戦線離脱ですか?」
三蔵「・・・別にそうは言っていない。」
それだけ言うと三蔵は少し赤い顔を隠すようにジープの方へと歩いて行く。
それを見て八戒も苦笑する。
八戒「本当に素直じゃないですねぇ、三蔵は。でも、僕は負ける気・・・ないですからね。」
小さく呟いたハズの言葉。
しかし三蔵は背中越に中指を立てる。
それを見て、八戒はまたもや苦笑する。
本当に素直ではない三蔵。
以前、がと三蔵が似ていると言っていた時があったがそれには大いに納得出来る。
お互いに素直でない所がそっくりで・・・。
でも・・・
八戒は空を見上げた。
このどこまでも続いている空の彼方の下には、必ずがいる。
生きていてくれればいい。
八戒の中でが死んでいるとは、少しも思っていなかった。
それはを信じているから。
あの時・・・・は自分と約束をした。
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がいなくなる2日前の出来事だ。
バイクの運転は車よりも神経を使う。
三蔵もそれをわかってか、度々小休止をとっていた。
そして、今も本日何度目かの休憩。
三蔵はジープに乗ったままくわえタバコに新聞を読んでいた。
悟空とは自分達が煩いのを自覚しているのか、新聞を読んでいる三蔵からかなり離れ
た所で、遊んでいた。
悟浄は知らない間に、どこかへ行ってしまっていた。
八戒も気分転換の為に近くを散歩していた。
ジープからかなり離れた所。
ジープからはほとんど見えない位置。
が立ったまま木にもたれかかり、瞳を閉じていた。
風がの美しい黒髪を撫でていく。
声をかけるのを戸惑った。
だから、八戒はしばらくその光景を見つめていた。
光りに照らされたはまるで天界に住まう、天女を想像させた。
ふとの瞳が開けられた。
八戒「!!」
八戒は一瞬、瞳を大きく見開いた。
見間違いかと思い、一度瞳を閉じてから改めての事を見た。
たしかに・・・確かにの額で何か光ったのだ。
それは三蔵が持っている物と同じようにも見えた。
神、もしくわ神に近い存在の証であるチャクラ。
は不思議そうに八戒を見つめた。
「どうしたの?そんなに見つめて。穴が開いちゃうよ。」
クスリと笑うに、八戒もニッコリと微笑み返す。
ゆっくりとに近付く。
八戒「いやぁ、あまりにが綺麗だったから、みとれていたんですよv」
「(クスクス)悟浄じゃないんだから。」
八戒「何をしていたんですか?」
「風の音を聞いていただけ。」
八戒「風・・・ですか・・・。」
そう言うとはまた瞳を閉じた。
ふとの回りにだけ優しい風が吹いているように見えた。
ふわりとの髪が踊る。
八戒はその時・・・がいなくなるような、そんな感覚に陥った。
そんな時である。
こんな良い雰囲気を邪魔するような輩が来た。
八戒は明らかに不愉快に殺気の先を見つめる。
も手の上に剣を浮かび上がらせる。
直後、木の上から紅該児の刺客であろう妖怪が襲いかかって来た。
はその攻撃を剣で受け止める。
「そんな攻撃、利かないわよ!!」
そう言うとは妖怪を凪払う。
八戒も妖怪の繰り出す攻撃を余裕で交わしていた。
妖怪「死ね!!」
八戒「遅いです。」
八戒は妖怪の背後に回り込み、背中に手刀を叩き付ける。
それにより妖怪は地面に倒れ伏す。
手の中に気泡を溜めて、妖怪に向ける。
妖怪は最後と悟ったのか、冷や汗を垂らしながら八戒を見た。
妖怪「何故だ!お前も我等と同じ妖怪なはず!」
八戒「同じ?・・・あなたのような方と一緒にしないでくだい。」
そう言うと八戒は気泡を妖怪に打ち付ける。
瞬時に妖怪は、消えて無くなった。
ふと八戒はの方を見た。
はまだ妖怪と戦っていた。
そちらの妖怪はそこそこやるようだった。
ギリギリではあるが寸での所での剣を交わしている。
時間の問題ではあるが・・・。
八戒はしばらくの戦闘を見ていた。
の意気揚々とした表情。
風のように・・・踊るように繰り出す剣はいつ見ても『剣の舞』を想像させる。
強靭でしなやかな剣。
それがの剣術だ。
そしておそらくは剣術を歩いている者にとっては、のこの剣こそが理想剣術ではない
かと思う。
天女の舞・・・。
八戒は瞳を細めてを見つめた。
「もう終わり!?」
追い詰めたはニヤリと笑う。
妖怪「く!こんな女に・・・!!」
「こんな女で悪かったわね!!ま、でもいちよう女に見てくれたからご褒美として楽に逝かせて
ア・ゲ・ルv」
そう言うとは剣を妖怪に振り下ろした。
妖怪は一瞬にして消滅した。
その直後だった。
また、の額に光る物を見付けた。
今度は見間違いではないと八戒はに近付く。
八戒「お怪我はありませんか?」
「あのくらいじゃ、ないない。」
おどけてみせるにより一層八戒は近付いた。
はあまりに至近距離に来た八戒に疑問を持つ。
八戒はの前髪をそっと撫で上げた。
の顔が少し赤くなる。
しかし・・・額には何もなかった。
やはり気の所為であったのか・・・?
八戒はしばらくの額を見つめていた。
も不思議そうに八戒を見つめる。
「八戒?もしかしてどこか怪我でもしたの?ちゃん呼んで来ようか?」
八戒「あ・・・いえ。に怪我がなくてなによりです。それにしてもお強いですね。」
にとっては最高の誉め言葉なのだろう。
花が咲いたかのように、の顔に笑みが広がっていく。
「あ、虹!」
は空を指さした。
八戒もの差した方向を見つめる。
大きく立派な虹が天井の橋のようになっていた。
は嬉しそうにそれを見つめる。
決してみんながいる前では見せないあどけない少女のような表情。
それが八戒は嬉しかった。
は何も言わずにただずっと虹を見つめていた。
その表情は、先程の笑みが無くなっていた。
どことなく懐かしく遠くを見つめる。
また・・・見た事の無い表情・・・だ。
八戒はそう思った。
そしてそれと同時に、やはりが消えてしまうような錯覚に陥った。
そう思った瞬間、八戒はの手を掴んでいた。
いきなりの八戒の行動に驚きが隠せない。
八戒はそのままの手を優しく自分の手で包み込んだ。
どこにも行かないで・・・。
そんな気持ちを込めて八戒は優しく包み込んだ。
その気持ちが伝わったのかの目元が和らぐ。
「八戒・・・?」
とても優しい響き。
八戒は瞳を閉じた。
花南『悟能』
「八戒?」
八戒の中で二人の女性の声が響く。
過去に愛した最愛の恋人・・・花南。
そして、今現在目の前にいる。
花南とは似ても似つかない。
気付けばいつの間にかが自分の名を呼んでくれることに安堵感を覚えていた。
もっと呼んで欲しい。
もっと声を聞かせて欲しい。
自分だけの名前を呼び続けて欲しい。
他の男の名前は決してその声で言わないで欲しい。
そんな独占欲が出る。
でも・・・僕には、花南が・・・。
は八戒がなかなか瞳を開けないのを、不思議に思った。
そしてふとある事に思いつく。
昔、夜に意味もなく無償に淋しかった夜。
お父さんとお母さんに手を握って貰っていた事。
まだまだ小さい自分の手を精一杯伸ばして、両親の手を包み込もうとした事。
それが無性に安心した。
八戒の手は心地良かった。
八戒の持つ優しさが手を通して伝わってきたから。
よくが言っている気を読むとはこうゆう事なのかな・・・と思う。
はニッコリと笑った。
「八戒。私、八戒の手って好きだな。」
その言葉に八戒は瞳を見開いた。
八戒「今・・・なんて・・・?」
「八戒の手って好きだよ。優しい感じがするから。」
八戒は信じられないようにの事を見つめた。
かつて最愛の人に言われた言葉。
花南『私、悟能の手って好きだな。』
八戒はの手を自分の方に引き寄せた。
はバランスを崩して、八戒になだれ込んだ。
直後、八戒はを優しく自分の胸の中に包み込んだ。
驚く。
しかし、八戒が震えている事に気付きそのままジッとしていた。
前に三蔵から聞いた八戒の想い人の話し。
自分が妖怪と戦う度に心配そうに駆けつける八戒。
最初は自分の腕を疑われているのかと思っていたが、三蔵に最愛の人の話しを聞いた。
三蔵が言うには全ては語れないとの事だった。
ただ八戒の中で女性の血と雨と言うのがキーポイントになっていると言っていた。
だから八戒は無性に怪我の心配をすると。
また心配かけた・・・かな?
は仕方なく八戒の背中に手を回し、軽く撫でた。
母親が子供をあやすように。
しばらくすると八戒はの耳元で呟いた。
それは泣いているのかと間違う程の声で。
八戒「決していなくならないで下さい。」
やはり・・・と思う。
八戒が珍しく震えているので、なんとなく分かった。
どう言ういきさつで八戒の想い人が亡くなったかは聞いていない。
ただ少しでも八戒の心の傷が治ればいいと思った。
自分と同じく最愛の人を亡くした心の傷。
傷を嘗め合うのではなく、克服して欲しいからほんの少しでも手助けになればいい。
それは自分への願いでもある。
は八戒の顔を両手で挟み、自分の方に向けさせる。
泣いていない事にホッとする。
そして、はニッコリと笑みを作った。
そう。
自分自身に言うように。
「大丈夫。私はいつもここにいるから。ここが今の私の唯一の、居場所。でしょ?」
八戒「・・・約束、してくれますか?僕の目の前からいなくならないと。」
その約束によって、少しでも八戒の気が晴れるのであれば・・・。
いくらでも約束をしよう。なんでも約束してあげる。
は八戒の小指に指を絡めた。
「・・・八戒。貴方の前から、姿は消さない。いつも一緒よ。」
八戒はそれを聞いて安心したのかの肩に顔を伏せた。
自分よりも遙かに背の低い。
それでも、今はこの身長差が心地良い。
は八戒の頭を撫でる。
「安心してね。みんなも同じ、八戒の前から姿は消さないから。」
八戒「え・・・・?」
八戒はゆっくりと顔を起きあがらせる。
はくったくのない笑みで八戒を見る。
「と言うか、八戒が嫌と言ってもずっと側にいると思うよ。みんな。三蔵さんじゃないけど、
「煩い!」って言いたくなるくらいの個性派揃いだからね。」
八戒の未だ放心している姿を見てはゆっくりと体を離す。
は恥ずかしいのか、八戒に背中を向けてジープの方へ歩き出した。
ふとが後ろを振り返る。
満面の笑みで。
「約束は破らないから!仮にみんなが破ったら私が首に縄付けてでも捕まえて来るから安心していいよ!」
それだけ言うとはそのままジープへと走って行ってしまった。
八戒はそんなの後ろ姿をジッと見つめていた。
ふと空を見上げると虹はもう消えかけていた。
そんな虹に八戒はふと笑みを零す。
そろそろ止まっていた時計を動き始めてもいいだろうか?
花南・・・
君は許してくれるだろうか・・・?
いや、きっと君なら動いて欲しいと望むだろうね。
八戒は瞳を閉じた。
遠くから悟空が自分を呼ぶ声が聞こえた。
それに答えるかのように八戒はジープへと走り出した。
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八戒は自分の手を眺めた。
好きと言ってくれた・・・この手での腕を掴んだのに・・・。
それでもを救えなかった。
自ら離そうとしたの手を繋ぎ止めて置くことが出来なかった。
また、愛する者を目の前で助けられなかった。
八戒は憎らしげに自分の手を眺めた。
力強く拳を握り締める。
ふと、自分の爪で手の平に傷がつき赤い血が流れ落ちた。
八戒はそのまま、その赤い血を眺めた。
『
八戒!自分を傷付けないで!!』
ふと顔を上げる。
八戒「由・・・希・・・?」
しかし何処を探してもの姿は見えない。
八戒はもう一度瞳を閉じた。
瞳を閉じれば聞こえてくるの声。
ふと八戒の口元に本当の笑みが漏れる。
そうですね。
貴方からの約束は『決して僕の前からいなくならない事』。
そして僕からの約束は『自分を傷付けない事、自分を責めない事』・・・でしたね。
は凄いですね。
以前はこうして目を閉じれば花南の声しか聞こえてきませんでした。
でも今は花南の声は全然聞こえてきません。
聞こえるのは、・・・貴方の声だけです。
『
さ〜ん〜ぞ〜う〜!!!!』
ふと八戒は瞳を開けた。
今までの笑みは何処へやら・・・。
ふと目を細める。
いけませんねぇ。
僕以外の名前を口にするのは。
やれやれ、決して僕の側からいなくならないと言う、約束を破った罪は重いですよ。
八戒は立ち上がった。
そこには迷いはなくなっていた。
その変わりにいつもの笑みが戻っていた。
八戒は思った。
が戻って来たら・・・
どんなお仕置きをしましょかね?
が戻るまでゆっくりと考える事にしましょうか。
もう二度といなくなれないような・・・そんなお仕置きを。
どこまでも僕は、貴方に救われる。
僕の天女・・・
必ず、無事に戻って来て下さい。
そして、言わせて下さい。
貴方の事を想う・・・この気持ちを・・・・。
続く
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後書き 〜 言い訳 〜
こんにちは、またこんばんは、吹 雪 冬 牙 です。
今だに様・・・見つからず。
しかも紅該児の所から逃げ出して、一体どこにいっちまったんだ・・・。
今回は、それぞれの心情を大切にしたくて、書きました。
特に八戒の中の心情を大切にしようと思い、また三蔵の中での小さな嫉妬心とか
そんな気持ちの変化が描写出来てればいいなぁ・・・と思っております。
ここまで読んで下さいました、様・様
心より深くお礼申し上げます。
これにこりず、次章も読んで頂けますと幸いです。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
『次回、最遊記 7 〜過去の追憶〜 須く看てネ!』
更新 2007.12.14
再掲載 2010.10.28
制作/吹 雪 冬 牙
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