『最
遊
記 7 〜 過去の追憶 〜』
が行方不明になってから2ヶ月が過ぎた。
今となっては、もうの事を誰も口にしなくなっていた。
砂粒程度の希望でもいい・・・そう思っていた三蔵一行だったが、この2ヶ月間に何一つ
の手掛かりは見つからなかった。
紅該児の刺客もがいなくなったと同時にぷっつりと途絶えてしまった。
その所為か、旅は順調に西へ向かっている。
最後の望みは三蔵達の目的地である吠登城・・・そこに何らかの形で外に出ることが出来
ないとの再会だけだった。
そして今日もジープとバイクは西に向かって進んでいく。
はふと横を見つめた。
物珍しそうに見つめるの視線の先には、いつも助手席に座っているはずの三蔵がいた。
三蔵はいつもの袈裟姿ではなく、私服。
さらにのバイクを運転していた。
何故そうなったか・・・。
今まで悟浄が運転していたのだが、さすがに疲れたと言い出したのだ。
悟浄「ってすげぇ精神力だな。俺、もう駄目だわ。」
八戒「ははは。バイクは殊の外神経使いますからね。でも、どうします?誰がのバイクを運転
しますか?僕でもいいんですけど・・・。」
そう言うと八戒はチラリとと悟空を見た。
前回の事があってか、悟空は口には出さなかったが首をブンブンと横に振っている。
それを見て八戒も苦笑する。
運転が三蔵になれば確かにジープは早いが・・・乱暴なのだ。
三蔵は荷物の中から私服を取り出した。
八戒「三蔵?」
三蔵「俺がする。の物だ、置いて行くわけにはいかねぇだろ。」
そう言うと三蔵は隣りの部屋に消えていった。
しばらくして私服姿になった三蔵がみんなの前に現れた時、の時間が止まった。
生きてからこのかた、こんなに綺麗な人は見たことがないと思ったのだ。
八戒「?ー?大丈夫ですかー?ありゃー、これは思考が止まってしまいましたね。」
三蔵「オイ、コラ。放心してると置いてくぞ。」
何度かの肩を揺さぶる三蔵。
はじっくりと三蔵を見つめるとみるみる内に顔が赤くなっていった。
それを見て面白くなさそうに悟空は、頬を膨らませる。
そんな一件以来、はことあるごとに三蔵の方を見つめていた。
時たま三蔵は器用にタバコを出し、火を付ける。
その容姿がまた様になっているのだ。
悟空「、・・・!!!!!」
「へ?あ、何?悟空。」
悟空「・・・。」
悟空はから視線を外した。
何に怒っているのか分からないは首を傾げる。
それを横目で見ていた八戒がに耳打ちした。
八戒「が三蔵に見取れてるから、嫉妬してるんですよ。悟空は。」
それを聞いては嬉しそうに微笑む。
八戒もそれに答えるようにニッコリと微笑んだ。
キイイイイイイ
三蔵がいきなりバイクと止めた。
それにつられるようにジープも止める。
八戒「どうしたんですか?三蔵。」
三蔵は黙って空を見つめた。
その視線の先に何かがいる・・・もわかった。
うっすらと視界に入ってくる大きな龍。
「あれはっ!!」
八戒「やっと来ましたね。」
悟浄「こんなにも待ち焦がれていたとはねぇ。さすがの悟浄ちゃんも自分にびっくり!」
悟空「・・・。」
今まで決しての事を口にしなかった一同が一斉にの事を口にした。
それを見ては嬉しくなった。
をこんなにも必要としてくれている・・・そんな仲間。
に伝えたかった。
貴方は一人じゃない・・・と。
しばらくすると飛龍が三蔵達の前に降り立った。
紅該児の姿を見付けるとすぐさま悟空は、ジープの前に飛び出す。
八戒「随分とお久しぶりですね。お元気でしたか?」
八百鼡「はい、おかげさまで。みなさんもお変わりないようで。」
八戒「ありがとうございます。それより一つお伺いしたいことがあるんですが。」
いつものように和やかに八戒と八百鼡のやり取りが始まる。
これが敵同士とは、誰も想像つかないであろう。
は黙って紅該児と三蔵を見つめた。
静かに睨み有っている二人。
ふと紅該児の方から口を開いた。
紅該児「今日は戦いに来たのではない。」
その言葉に悟空も唖然とする。
三蔵はそんな言葉を信用するかと言わんばかりに新たにタバコに火を付ける。
ゆっくりと煙を吐き出す。
三蔵「おい、あいつはどうした?」
紅該児「それはこちらの台詞だ。はここにはいないのか?」
その台詞に三蔵達は驚きを隠せなかった。
紅該児に捕らわれていると思っていた三蔵。
それが唯一の希望でもあったのに・・・
三蔵はゆっくりとバイクから降り、紅該児に近付く。
三蔵「お前が連れて行ったんじゃねぇのか?」
紅該児「・・・確かに1ヶ月前までは吠登城にいた。でも、ある日姿を消していた。」
三蔵「何?」
三蔵は紅該児を睨み付けた。
いくらが強いと言っても、無謀な事はしないだろう。
三蔵はジッと紅該児を見た。
そんな沈黙を破ったのは八百鼡だった。
八百鼡「は、大変な怪我を負っていましたので心配なのです。」
八戒「大変な怪我!?」
八百鼡「体の怪我は癒えたのですが・・・」
それを言うと八百鼡は表情を暗くした。
三蔵は紅該児の前に立つ。
しばらく睨むと、三蔵は乱暴に紅該児の胸倉を掴み上げた。
三蔵「おい、あいつに何があった!?」
紅該児「・・・記憶が無くなっていたんだ。」
三蔵「!!」
三蔵は瞳を見開いた。
いや、そこにいた全員が驚きの表情を隠せなかった。
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吠登城・・・1ヶ月前。
紅該児の部屋にはいた。
体の傷は完全に癒えた。
もう大丈夫だと八百鼡のお墨付きである。
だが、は呆然と外を眺めていた。
紅該児は静かにに近付く。
それに気付いてはゆっくりと紅該児の方を向いた。
紅該児「、体の具合はどうだ?」
「紅・・・お仕事は終わったの?」
紅該児「ああ。今日はずっとここにいれる。」
「そう。」
淋しそうに微笑む。
紅該児は優しくを包み込んだ。
このままではは本当に命を立つのではないかと・・・そう思った。
あの崖から転落して以来、目が覚めた時にはの記憶は全て無くなっていた。
そして・・・その代わりにある記憶のみが残されていた。
紅該児「、あれから何か思いだしたか?」
「ううん。何も・・・」
は目を覚ましてからと言うものロクに食べ物を口にしない。
その所為か、前のような健康的な血色はなくなりただ色白さのみが残されていた。
すぐにでも壊れてしまいそうな硝子細工・・・。
紅該児はそう思った。
紅該児「、もう一度聞かせてくれ。の記憶にある・・・と言う存在を。」
そう言うと、は静かに紅該児の体から離れた。
静かに手を合わせる。
の回りだけに風が集まり、の長い髪を撫でていく。
そして・・・
の額に赤く光るチャクラ・・・。
ゆっくりと瞳を開ける。
「武!」
そう言うとの手から剣が出てくる。
剣を持つとは目の前に構える。
「我は闘神太子哪吒様の側近である。名を・・・。」
そう言うとは頭を抑えた。
激痛が走る。
何を思いだそうとしているのか・・・今わかっている事は哪吒様をお守り出来なかった事
実だけ。
ふと、の中で笑顔の少年の顔が思い浮かぶ。
「誰・・・?」
紅該児「、大丈夫か?」
「誰・・・斉天大聖・・・?」
ゆっくりと紅該児の顔を見つめる。
そしての瞳に涙が溜まる。
それを見つめ紅該児はを慰めるように体を包み込む。
はただ子供のように泣きじゃくるだけだ。
紅該児「大丈夫だ。俺がついてる、。お前一人ではない。」
優しく呟く紅該児。
は紅該児の腕にすがりつく。
「嫌だ・・怖い!怖いの紅!!嫌、思い出したくない・・・
嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!」
は狂乱したかのように泣き叫ぶ。
それに気付き八百鼡が静かに部屋に入ってきた。
紅該児「八百鼡。」
八百鼡「失礼します。鎮静剤です。」
そう言うと八百鼡はの腕に注射を撃ち込む。
直後の体から力が抜け落ちる。
「金・・・蝉・・・・。」
紅該児は静かにを抱き上げた。
日毎に軽くなる。
紅該児はの体力の限界に気付いていた。
そして、それがの望みと言うことも。
死のうとしている事も・・・。
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紅該児はゆっくと三蔵の手をほどいた。
軽く溜め息をついて三蔵を見下ろした。
紅該児「記憶が戻ったのかと思っていた。・・・いないのであれば今日は用がない。」
三蔵「待て、何故そんなにあいつを探している?」
紅該児「一緒に・・・」
三蔵「!?」
紅該児「一緒にいてやると言った。一人にはしないと。そして・・・には俺がいると。」
紅該児はじっと三蔵を見据えた。
今までとは違う殺気。
紅該児「そして、もそれを望んだ。」
三蔵はしばし愕然とした。
いや三蔵だけでなく、八戒も悟浄も悟空やもだ。
その時だった。
三蔵と紅該児達に大きな気泡が撃ち込まれた。
一斉に身をかがめる。
爆風が晴れると、気泡が撃ち込まれてきた方向を見る。
そこには一人の男が空中に立っていた。
両手に手枷をはめられた男。
風に衣服を靡かせて、ニヤリと薄笑いを浮かべている。
三蔵「貴様、何者だ!」
?「無礼者!!」
その声に全員が、我が耳を疑った。
男の後ろから姿を現す一人の女性。
見たことのないような真っ白い衣服に身を包み込んだ女性。
どこか気高く気品のある・・・しかし驚く程やせている女性。
三蔵「・・・・・・。」
ふと、三蔵の口から零れた。
とその男はゆっくりと地上に降り立った。
悟空「ッ!!」
自分の名前を呼ばれて、はゆっくりと悟空の事を見つめた。
名前に反応した事により悟空はに走り寄る。
そしていつものように悟空はの手を掴んだ。
悟空「どこに行ってたんだよ!みんな心配してたんだ・・・ぞ・・・。」
悟空の顔からみるみる笑顔が無くなっていく。
のあまりにも冷たい視線。
全てを拒むかのような態度。
悟空はから手を離し、一歩後ろに下がる。
「
斉天大聖。お前、ここで何をしている?」
悟空に向けられた言葉。
しかし悟空は何も分からずにの事を見つめた。
悟空「何言ってるんだよ。おい!に何しやがった!」
悟空が男に掴みかかろうとしたその瞬間!!
は素早く悟空の腕を取り三蔵の方へ投げ飛ばす。
あまりにも凄い力に悟空は唖然とする。
「
無礼者。このお方を誰と心得る。このお方こそ・・・」
そう言っては一度淋しげな顔をした。
三蔵はその一瞬の表情を見逃さなかった。
「
このお方は天界闘神太子焔様なるぞ。」
悟空「ほむら・・・?」
「
斉天大聖が知らぬのも無理はない。哪吒前太子様亡き後継がれたのだ。そして私は天帝の命により焔様
の側近を仰せ司っている。人々は我をこう呼ぶ、
戦乙女・・・。」
ふとは三蔵の前で視線が止まった。
輝くばかりの金の髪。
は頭を抑える。
痛い
・・・何だろうか
・・・誰だろうか・・・?
私はあの人を知っている?
こんなにも神々しい金の髪。
紫の瞳に額のチャクラ・・・。
誰・・・
誰・・・。
はそのまま頭を押さえ込み、大地に膝をついた。
そしてフッと意識を失った。
それを抱きかかえる焔と呼ばれる男。
焔「まだ完全ではないようだな。久しぶりだな、斉天大聖悟空。そして天蓬元帥に捲簾大将か。そして・・・。」
憎らしく三蔵との事を睨み付ける。
三蔵の眉毛が上がる。
焔「お懐かしい金蝉童子に哪吒太子。」
はキョトンとした感じで焔を見つめた。
焔はニヤリと笑みを作る。
焔「我が名は焔。神を捨てた男さ。いずれまた会おう。」
そう言うとフワリとを抱きかかえた焔は消えてしまった。
三蔵「チッ!」
三蔵は腹ただしげに空を睨み付けた。
金蝉・・・
度々聞こえてくる名前。
しかも何故かそう呼ばれて振り返るのは自分。
そして振りかえった先にはいつもにこにこしている眼鏡をかけタバコをふかしている男と
腰に酒瓶を付けている赤い髪の男、そして今よりも遙かに小さい悟空、悟空と同じ年頃の
子供どことなく寂しさのある顔。
その顔に血がついている。
・・・そして・・・そして「愛おしい」と言う気持ちが溢れ出て来て止まない一人の女性。
漆黒の長い髪をポニーテールにして風に踊らせてる。
『
金蝉』
その女性から紡がれる言葉はすべて愛しさに変わる。
悟空「三蔵!三蔵ってば!!」
三蔵「!!・・・なんだ?」
悟空「紅該児達・・・逃げたけど、いいの?」
三蔵は紅該児の乗った飛龍を見つめる。
ふと溜め息を零す。
八戒「これからどうしますか?」
三蔵「・・・西だ。」
悟浄「でも三蔵、の事は。」
三蔵「・・・行くぞ。」
それだけ言うと三蔵はまたバイクにまたがった。
はただ黙っていた。
「哪吒」と呼ばれた自分。
そしてのあの冷たい表情。
思い出しそうで思い出せない。
一体なんなのだろうか?
焔と言う人物にもは見覚えがあった。
どこであったかは覚えていない。
ただ、今わかる事はが無事であったことだけ。
は死んでいなかった。
三蔵はふとバイクを見つめる。
思い出されるの笑顔。
そして、先程の敵意と殺意しか見せない表情。
自分以外の男を必死に守ろうとしていた事。
胸クソ悪りぃ・・・。
三蔵はアクセルをふかした。
『
金蝉。』
ふと呼ばれて顔を上げた。
三蔵は視線の先を睨み付ける。
俺は・・・
俺は・・・
金蝉じゃねぇ。
玄奘三蔵だ。
それ以外の何者でもない。
『
金蝉』
まただ・・・。
何故それがの声なんだ。
違う。
はそんな名前は口にしない。
俺を呼ぶときは・・・
「金蝉・・・。」
「金蝉!」
違う!違う!違う!
辞めろ!!!!!!
俺は『金蝉』じゃねぇ!
ふとの笑顔と何度なく夢でみた女と重なり合う。
三蔵はバイクを止めた。
額を抑える三蔵。
肩で荒く息をする三蔵に駆け寄る、悟空。
悟空「大丈夫か?三蔵?」
悟空『大丈夫、金蝉?』
三蔵は瞳を見開く。
続いて、八戒と悟浄がその様子に心配して近付いてきた。
八戒「大丈夫ですか?三蔵。」
天蓬『大丈夫なんですか?金蝉。』
悟浄「おーい、生きてるかぁ?三蔵。」
捲簾『生きてるのか?金蝉童子。』
「すごい汗・・・三蔵、大丈夫なの?」
哪吒『お前凄い汗だな!ちゃんと運動してるのか!?金蝉』
三蔵の額に冷や汗が落ちる。
全員が夢に出てきた者になっている。
三蔵の息はどんどん荒くなっていく一方だった。
胸が苦しい・・・。
・・・
お前は・・・どこに・・・。
八戒「三蔵!!」
悟浄「三蔵!しかっりしろ!!おい!」
悟空「三蔵!!三蔵!!」
「三蔵!目を開けて三蔵!!!」
必死に三蔵の名前を呼ぶ4人。
しかし三蔵はそれに答える事はなかった。
ただ荒く息をしているだけ。
何かを拒むような、そんな気すら感じる。
は心配気に三蔵の背中をさすった。
『。』
そして・・・
そのまま三蔵は意識を手放していった・・・・。
続く
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後書き 〜 言い訳 〜
いやぁ、やっと様が登場しました。様怖いです。
はっきり言って一番壊れてるかも・・・。
最後は三蔵もやばかったしね。
まぁ、甘い恋愛物ばかりだとつまらないのでたまには苦労していただきましょう!
紅該児可哀想に・・・少ししか出てきませんでした。
うーん、愛がなにのがバレバレですな。
それにしても、今まで書いて一番辛い章でした。
なんかまだ私の文才では書けないらしく・・・苦労しました。
とりあえず次回はどうなるでしょうか?
次回は様の視点が多いです。記憶戻す所もあります。(多分)
そして三蔵一行の今後はどうなるのか!?
三蔵はどうなる!?
ここまで読んで下さいました、様・様
心より深くお礼申し上げます。
これにこりず、次章も読んで頂けますと幸いです。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
悟空『次回、最遊記 8 〜遠き約束と近き約束〜 須く看よ!』
更新 2007.12.14
再掲載 2010.10.28
制作/吹 雪 冬 牙