8 〜 遠き約束と近き約束 〜』

はふと目を覚ました。








「ここは・・・?」







その質問にいち早く答える声が聞こえた。

菩薩「かつてお前の部屋だった所だよ。」

はゆっくりと体をお越し上げるが、まだ体が思うように動かない。
の目の前には観世音菩薩が口元を上げて見下ろしていた。

菩薩「よぉ、久しぶりだな。ざっと数十年振りか?とは言え、お前が人間として過ごしていた時に一度会ってるがな。。」
「菩薩・・・。じゃあ、ここは天界・・・?」
菩薩「・・・お前、どこまで覚えてるんだよ?あの猿は覚えていてその飼い主は覚えていねぇのかよ?」

その言葉には首を傾げる。
ふと回りを見渡せば、何もない部屋だ。
何故こんなに殺風景なのか?
部屋をじっくりと観察していると、菩薩は近くの椅子にドッカと腰を下ろした。

菩薩「しかし、まさかお前がまた天界に戻って来るとは・・・この菩薩でも予想してなかったぜ。
本当にお前等は予想をくつがえしてくれるよな。毎回毎回。」
「菩薩、教えて欲しい。私は一体何を忘れている?」

のその言葉に菩薩はジッと見つめた。
言葉とは裏腹にの表情はとても辛いものだ。

菩薩「てめぇの記憶だろ?人に聞かねぇでてめぇで思い出すんだな。それに俺に教えて貰い思いだした所で奴等は喜ばねぇよ。」
「奴・・・等・・・?」
菩薩「お前のココにいる仲間だよ。」


そう言うと菩薩は、の胸を差す。
は胸の前で手を合わせる。


















なんだろう・・・
























懐かしい楽しい記憶・・・































でも・・・






























思いだしては駄目・・・。






























の額にうっすらと汗が滲む。
菩薩は立ち上がり、乱暴にの頭を撫でる。

「!?」

菩薩はを見下ろし、気遣いげに微笑む。
その微笑みと乱暴な手つきで自分の頭を撫でるその暖かさ・・・。
の頭をかすめる。
ジッと菩薩を見つめると、ふと菩薩と重なり合うように違う人物が見える。
は目を見開いた。
























金色の髪・・・?























しかしその残像は一瞬のうちに消えてなくなった。
今のは一体なんだったんだろう・・・?
がそんな感慨にふっけている姿を菩薩は暫く見つめた。

菩薩「今は安静にすることだな。なんて言ってもあの焔が「助けてくれ」と俺のトコに頭を下げに来たん
だからな。そりゃもう、天界中、大騒ぎだったぜ。お前が戻って来た事と焔の土下座でよ。」
「焔様が・・・。」
菩薩「お前よぉ、本来の階級は天帝の次なんだぞ?それがお前より身分の低い者に「様」なんてつける必要ねぇだろ?
なぁ、阿修羅王・。」
「菩薩、私はその名を襲名しなかった。無階級者だ。」
菩薩「そうだな前代未聞だったもんな。みんなが喉から手が出る程欲しい『階級』しかも唯一神を殺せる剣
を継承出来る闘神の中の闘神、『阿修羅王』の座を蹴り飛ばしたぐらいだからな。」
「私には必要がない。それに私は本来闘神ナタク様にのみ忠誠を誓っている。」
菩薩「・・・あまりにもアイツがこれじゃ可哀想だな。」
「あい・・・つ?」
菩薩「、お前は唯一ナタクにだけ忠誠を誓っていたわけじゃねぇよ。もう一人、ナタクよりも忠誠を
誓っていた相手がいるんだよ。早く思いだしてやれ。」


の頭の中に先程出逢った金髪の男が思い浮かんだ。
自分の姿を認めた時の驚きの表情。
それと同時に安堵的な瞳で自分を見つめてきた・・・あの男。












ズキン



















はまた頭を抑えた。
菩薩はそんなを見つめる。

菩薩「お前、自分から拒否してるのか?忘れたいと願ったんじゃねぇのか?」
「・・・。」

は何も答えずにシーツを握りしめた。
その行動を見て菩薩は軽い溜め息をつく。

菩薩「お前昔から『約束は決して違えぬ物。約束はその相手のとの絆を意味する。』って
ごたく並べてたけど、その程度なのか?」
「約・・・束・・・。」

ふと菩薩は人の気配の扉の方を向いた。
扉には焔が立っていた。
軽く舌打ちする菩薩をよそに、焔は静かに部屋に入ってきた。
焔は黙ってを見下ろす。
それにも深々と頭を下げた。
菩薩は二人のやり取りを見つめていたが、ふと扉の方へと歩き出す。

「観世音菩薩様。」
菩薩「早く治れよ。また、来る。」

一度も振り返る事なく菩薩は部屋から姿を消した。
焔とは部屋に二人きりになる。
なんとも言えぬ沈黙が部屋を支配する。
しかし決してから話し出そうとはしなかった。
焔は近くの椅子をベットの近くに寄せ、腰を下ろした。

焔「少しは体の調子は良くなったか?」
「ご迷惑をお掛けいたしました事、申し訳ございません。」

他人行儀なの言葉。
焔はそっとの髪に手を触れようとした。
その瞬間。






















パアアアンッ!
















は焔の手を勢い良く振り払った。
焔を見つめる瞳は、三蔵達を睨んだ時と同じ様な冷たい視線。
ふと口元に微笑みを浮かべる焔。

「私に触るな。お前に傅いているのは形式上の事だ。私はお前に付く気はない。」

はっきりとした口調で話す、の拒絶の姿勢。
そんなを面白そうに見つめる焔の表情はゲームを楽しむかのような顔だ。

焔「記憶を無くしても、俺を拒むのか?」
「私はこの命ある限りナタクのみに忠誠を誓っている。それだけだ。」
焔「助けられなかったのにか・・・?」

ニヤリと焔は笑みを落とす。
直後はベットから抜けだし、焔の首に剣先をあてがった。
それでも微動だにする事無く、先程の同じ笑みでを見つめている焔。











焔「殺すと言うのならばどうぞ。
「!?」





は瞳を見開いた。
頭の中でふと思い出す。





お撃ちになると言うのならばどうぞ。

三蔵『おめぇなんかに弾使うのはもったいない。宿で待ってろ、俺じきじきに殺してやる

返り討ちにお気をつけて。






何・・・















この映像・・・?















は剣を収めた。
ジッと焔を見つめるに焔は呟くように言った。

焔「誓え。お前の記憶と引き替えに、俺に忠誠を・・・。」

は驚く。
焔はふとの前に一つの水晶を見せる。
手のひらにのる程度の小さいものだ。
しかし普通の水晶と違うのは、どことなくピンク色をしている。






「まさか・・・お前・・・。」













焔「時間をやる。考えとけ。」

それだけ言うと焔は不敵な笑みを浮かべて部屋から去った。
はガックリとベットに座り込んだ。







自分が記憶を無くした理由。













作為的なものだったとは・・・。










それに気付けなかった自分自身に腹が立つ。
そして今あるこの記憶も作為的に植え付けられた記憶のなだろうか?
は自分自身をも信用出来なくなる。
常に信用するものは己のみと考えていた
は頭を押さえ込み、唇をかみしめた。
瞳から次々と流れ落ちる涙の数々。
それでも涙には負けまいとさらにきつく唇を噛み締める。
ギリリと言う音とともに口の端から血が零れ落ちる。
それでもは唇を噛み締めていた。










焔は自室へと回廊を歩いていた。
ふと目の前に観世音菩薩が柱に寄り掛かり立っていた。
焔は自然と足を止める。
それに気付いて菩薩も顔を上げる。

菩薩「お前もいい趣味してんな。」

焔はまた歩き始める。
菩薩の横をすれ違う。

菩薩「そんな事してもは手にはいらねぇよ。」

その言葉に焔は菩薩を見つめた。
菩薩はニヤリと人の悪い笑みを浮かべて焔を見る。











焔「・・・何がおっしゃりたいのですか?」















菩薩「お前、天下の観世音菩薩が何も知らないとでも思ってるのかよ?それとも言って欲しいのか?
お前が意図的にの記憶から金蝉達や三蔵達の事を抜いたってな。」




焔は別段焦ることもなく、菩薩を見る。
それはまさにわかっていてやった事を象徴するかのように。









菩薩「そんなに邪魔か?」





























焔「邪魔だな。」


























菩薩「そんなに憎いか?楽しそうにこの天界で過ごしていたあいつらが。」









焔「お前に関係ない。」







菩薩「そんなに羨ましかったか?金蝉とが。互いに求め合い、助け合い、信じ合い、愛し合っていたその絆の深さが。」







焔は黙って菩薩を見る。
いや威殺すように見つめた。
それを見て菩薩はにやりと笑う。


菩薩「お前がなしえなかった事を二人がしていた。いや、がと言うべきだな。そしてその信頼を欲した。
天帝の親戚筋であるのに人間と神の間に生まれたと言うだけで長い間地下牢に幽閉され、力つく頃になり
いきなりの釈放。そして愛し合った者を天帝により下界に下ろされ・・・傷ついたお前をありのまま受け止めたを、
お前は欲っしていたのだろう?」




焔「・・・何を言い出すかと思えば。俺は金蝉が憎い。彼奴の者は全て奪い取る。」






菩薩「何故憎い?の心を捕らえていたからか?






焔は視線をそらした。
菩薩は回廊を歩き出す。
焔は菩薩の背中をじっと見送った。








菩薩「俺は下界に関してもこっちに関しても直接手を出す事が出来ないからな。
まっ、せいぜい退屈させるなよ。」










それだけ言うと菩薩は姿を消した。
菩薩はゆっくりとした足取りで一つの部屋に向かっていた。
ふとガラリとだだ広い部屋の前で足を止める。

























キイイイイ・・・

























扉を開けると、扉の正面には一対の机と椅子。
しかし何年掃除をしていないのだろうか、辺り中がホコリまみれになっていた。
ふと机を見下ろす。
今は亡きその机の主を思い浮かべて苦笑する。
いつも不機嫌の看板背負ってここに座っていた菩薩の甥。
下界から連れて来た悟空が来て以来の心境の変化。
菩薩は椅子を引きそこに座る。
ふと机の引き出しから何かが出ている。
不思議に思い菩薩は引き出しを開けた。
中に入っていたのはの写真。
しかも・・・隠し撮りのような構図だ。
















菩薩「あいつ・・・そんな趣味があったのかよ・・・。」















一枚だけではない。
机の中からは何十枚と出てきた。
その中にはと二人で微笑み合っている甥の姿を捕らえた写真を見付けた。
菩薩はクスリと笑う。













まさかこんな顔をにだけ向けていたとは・・・。











その写真を丁寧に重ね合わせると、菩薩はそれを手に持つ。
引き出しを締めて、立ち上がり扉の前に立った。














金蝉『クソババア、用がねぇならとっと帰れ。










ふと菩薩は後ろを振り返った。
そこに映る残像。



机に足を投げだし両手を頭の後ろで組み、上司を敬う素振りすらない金蝉。







その脇で楽しそうに書類を折り紙代わりにして遊ぶ悟空。









折り方を指導するかのように悟空と同じ高さに腰を折り曲げタバコを手に持つ天蓬。







天蓬と悟空の邪魔している捲簾。










悟空と同じく書類にラクガキをして笑い合うナタク。







そして・・・















金蝉の脇に立ち暖かくそんな情景を見つめている







菩薩は目を閉じる。
あの幸せそうな彼奴らの表情。
この天界で死ほどの退屈を訴えていた者の変化。
それは奴等だけでなく、菩薩もその内の一人だった。

二郎神「ここにおいででした観世音菩薩。」

その声で現実に引き戻される菩薩。

菩薩「なんだ二郎神か。」
二郎神「なんだではありません。至急殿のお部屋へ。」

その言葉に菩薩は怪訝そうな顔をした。
先程別れたばかりだ。
何があったのだろうか?
ゆっくりと扉を締める。
二郎神はふと菩薩の手に持っている写真に気付く。

二郎神「観世音菩薩、その手に持っているのは?」
菩薩「これか?これは忘れ物だよ。俺の机に置いといてくれ。」

それだけ言うと菩薩はの部屋と向かった。
手渡された写真を手にする二郎神。
そこに映し出されている人物を見て辛辣な表情になる。

二郎神「観世音菩薩・・・。」

二郎神は急いで菩薩の部屋へと向かった。
















菩薩が丁度の部屋に付いた時、は部屋の中で大暴れの真っ最中だった。
辺りの物が奥から飛んでくる。
菩薩は軽く避けながらを所へと行く。
自分で傷つけたのであろうか?
の白装束はすでに赤くなっている。
回りには幾人の天界人がによって倒されていた。












菩薩「・・・な〜にやってんだよ、お前。」
金蝉はどこだ!!金蝉に会わせろ!!!!!!







菩薩「!!」









のその言葉に菩薩は驚きを隠せない。
それでも暴れ狂うの姿は500年前と同じ行動だ。
さらには暴れ狂う。
































菩薩「・・・死んだよ。」

























「え・・・」



































菩薩「死んだんだ。



























500年前と同じ言葉を紡ぐ。
は力なく崩れ落ちる。
両手を床につけ、身動き一つしない。
菩薩は静かにに近付いた。




菩薩「ナタクも・・・




天蓬も・・・




捲簾も・・・




みんな・・・。」














悟空はッ!?




菩薩「・・・あいつは生きてる。ただし記憶はない。」












「記憶が・・・ない・・・。」







寸分も変わらない500年前と同じ会話。
何故がいきなり記憶を戻したのか・・・菩薩は辺りを見つめるがこれと言って変化は見られない。
直後、は自らに剣に手を欠けて腹に突き立てようとした。






500年前と同じ・・・。




しかし、唯一違っていたことはの腹に剣は突き刺さらなかった事だ。
の目の前に焔が立っていた。
焔は片手での剣を持ち、黙ってを見据えている。
は悔しそうに焔を睨み返した。

離せ!!!
焔「お前は俺の部下だ。勝手に死ぬな。」

ふとまたの頭の中の声と重なり合う。













三蔵『俺とお前は罪を共有した。俺の許可なく勝手に死ぬんじゃねぇ。




















は剣から手を離す。














カラン・・・















と音を立てて床に落ちる乾いた剣の音。
ふと焔は懐に仕舞い込んでいた水晶を取り出す。
直後、水晶は砕け散ってしまった。
焔は驚き水晶を唖然と見ていた。
辺り一面に水晶の破片が散らばる。
の瞳から涙があふれ出る。






























「三・・・蔵・・・?」






























の中で鮮明に思い出される三蔵の顔。
菩薩はニヤリと笑みを落とす。

焔「こんな事があり得るハズが・・・。」

菩薩はふと最後にかわした金蝉の言葉を思い出す。






















金蝉『絆は時として自分を貶める材料にもなり得るが、それ以前に自分の力になるんだよ。






















それと同じ言葉をゆっくり思い出しながら菩薩は口にした。
その言葉に焔がゆっくりと菩薩の方を向いた。
いや、も菩薩の事を見つめた。
菩薩はゆっくりとに近付き、ベットに座らせる。
口の端に付いている血を指で拭う。


菩薩「行くか?約束を果たしに。」



その言葉には顔を上げた。



























遠い彼方で約束した『絶対に離れない』と言う約束。




















そして・・・現代(いま)の時に約束した『離れない。』と言う約束。























どちらも違えぬ事が出来ない約束。


















の表情が生き返った。
今までは打って変わった強い眼差し。
焔は瞳を細めた。
かつて自分が羨み、手中に欲しいと心底思い続けた戦乙女。
彼の物の信用が欲しかった。
愛が欲しかった。
自分を救って欲しかった・・・。
しかしそれは自分の所で見られない表情である事に気付く。
仲間がいるから。
守るべき者がいるからこそ出てくる、何ものにも負けない程の強い光りを宿す瞳。
菩薩はふと安心したかのようにの頭を何度か撫でた。
は菩薩を見てニッコリと微笑む。
全てを受け止めた・・・と言う証の笑み。

























菩薩「大丈夫だな?」
「はい。私、戻ります。金蝉・・・いや三蔵の所に。」




その言葉を聞いて焔はをすがるような瞳で見つめる。
その視線に気付いたはゆっくりとベットから立ち上がり焔の前に立った。
焔の頬にそっと手を添える。


















「久しぶりだね、焔。」
焔「・・・。」

















しかし焔は何も答えようとはしなかった。
菩薩は溜め息を付く。
自分の甥と言い、焔と言いどうも天界人は素直になれないたちがあるらしい。
自分も含めてだが・・・。
ふと笑みを漏らすと菩薩はの肩に手を置く。

菩薩「まぁ、久しぶりの里帰りなんだ。今日一日くらいゆっくりしてけよ。」
「うん。そうするね。」

ニッコリと微笑む表情。
焔も自然と笑みが漏れていた。
















その夜・・・・・・・。
は一人桜の木下に立ち、月を見つめていた。
心地良い風が頬を撫でていく。













焔「。」













ふと名を呼ばれては後ろを振り向く。
そこにはすまなそうに立っている焔がいた。
焔はゆっくりとに近付く。















焔「行くのか?」












「・・・ええ。」














焔「どうしてもか?」













はクスリと笑う。
そんな表情に魅せられる焔。
今から21年前。
はナタクの魂はと言う人間として転生した事を確認すると、焔の側を離れて下界
していった。











「21年前と同じね。時代は繰り返される・・・か。」












その言葉にふと焔の笑みが浮かぶ。
かつて自分がに言った言葉だ。
そしては自分を見つめて言った。








「「私が繰り返させない。」」









まったく同じ言葉を紡ぐ
焔は無駄と悟ったのかふと溜め息を零した。












焔「あいつは金蝉としての記憶はないんだぞ?」
















「なくていいよ、こんな天界の記憶なんてさ。」




















焔「でもお前にはあるだろう?」
















その言葉には珍しく辛そうに微笑んだ。
















自分はもう人間ではない。
三蔵とは違う。
これから年を負う事に三蔵や達は年をとっていくだろう。
しかし自分にはない。
老いと言うものが存在しない。
死と言う物が存在しない神だから・・・。
じっと限りある命を見守っていくしかない。
























でも


























それでも側にいたいと願う。


























それは我が儘だろうか・・・?

























は下を向いた。
その「答え」はわからない。
は前を見据える。

「それでも、約束を守る為に。」
焔「何故・・・何故お前がそこまで辛い思いをしなくてはいけないんだ。」
「制約を破った者の贖罪。ナタクを守ることが出来なかった・・・。でも、菩薩のはからいで私が
下界に降りた時には神としての記憶を封じて貰ってたんだよ?」

そう言って悪戯な笑みを浮かべる。
それを見て焔も自然と笑みが出てくる。
そんな自分に内心驚いていた。

「あの時、菩薩が私の前にあらわれた時に、あやふやに持っていた記憶がしっかりとした形で形成
されたんだ。だから、私は少し戸惑ったの。金蝉の他に愛する者を見付けてしまっていたから。」

そう思いはふと戒の事を思い浮かべる。
中途半端な天界での記憶に悩まされた日々。
それを支えてくれていたのが戒だった。
だからこそ戒の愛を受け入れた。
そして・・・戒の狂暴化・・・菩薩との出逢い・・・。
そこでの中で確信していた。
また戦いが起きると言うこと。











焔「お前が21年前にココを離れた時から俺はずっとここから見守る事しか出来なかった。」











「ありがと。」














焔「だからこそ天界人も人間も妖怪も関係ない理想郷を作ろうと決心した。」

















「焔・・・ごめんね。」

焔の胸中を理解したはすまなさそうに謝る。
焔は軽くの頭に手を置く。





















「金蝉の生まれ変わりである三蔵はなんとなく分かっていたんだ。でも・・・認めたくなかったの。
あの人が本当に死んでしまった事を。」


































焔「でも魂はあいつのだ。」
























はゆっくりと首を横に振った。
そしてニヤリと微笑む。



「金蝉は金蝉。三蔵は三蔵。それはちゃんに関しても一緒。ナタクはナタクであってちゃんじゃない。」
焔「じゃ、何故いまだに昔の約束を守ろうとを守る?」
「違うよ。ちゃんの体を守っているのは人間であった。そして魂を守っているのは天界の。どちらも約束だから・・・ね。」




























焔「フン。おまえらしいな。

























「ありがとう。さて・・・。」

は焔に背を向ける。

「今日はもう寝るわ。明日は帰る訳だし。」

その言葉を聞いた瞬間、焔はを抱きしめていた。
はそれを拒否するわけもなく、かと言って受け入れる訳もなくただじっとしていた。
焔は強くの体を抱きしめる。
それでもの手は焔の背中に回されることはなかった。
しばらくして焔はを自分の腕の中から解放した。

















「貴方は私を通して自由を見てるに過ぎない。私を愛してるわけじゃない。あなたが
愛しているのは、かつて貴方を理解していたあの女性だけ。」



















天帝の命で焔の愛する者は人間へと転生させられた。
そしてそれを見付ける事は出来ない。
いや、それを見付けようとはしなかった。
傷付いた心に入り込んだ
金蝉と幸せそうに微笑むとあいつが重なった。
はそれすらも分かっていたと言うのか・・・?
焔はじっとの事を見た。

「焔、前に進んで。貴方は前を見て歩いている時が一番魅力的なんだから。」
焔「・・・。すまなかった。」
「何が?」
焔「力尽くの事をしてしまった。記憶を奪い取り・・・。」
「大丈夫。わかってるから。優しい貴方の事だもの。天界の記憶で苦しんでいた事も知ってるんでしょ?だからだ・・って。」


そう言うとは照れを隠すように部屋へと戻って行った。
そんなの姿を焔は黙って見つめた。
しかしその表情は優しい瞳。
焔は月を見上げた。
かつて悟空の言った言葉。








悟空『金蝉は太陽だけど、は月だな!
なんで?
悟空『だっていつも見ててくれるから!!






その言葉には顔を赤くする。
それを見て金蝉は悟空を不機嫌そうに見つめる。
そんな事に気付かずに悟空はまた捲簾と遊び出す。
脇で見ていた天蓬がクスクスと笑い出す。





天蓬『太陽と月とは・・・いい口説き文句ですねぇ。
金蝉『フン。





おやおやと言わんばかりに天蓬は悟空の方へと歩いていく。
未だ不機嫌そうな金蝉を見ては微笑む。





月かぁ・・・綺麗な表現されたな。
金蝉『お前は俺だけ照らしてりゃいいんだよ。





そう言うと金蝉はの膝の上に頭を乗せる。
ゆっくりと金蝉の頭を撫でるはそれでも暖かく微笑んでいた。
隣りでの肩に頭を預けていたナタクは瞳を開けずに言う。





ナタク『いいじゃねぇか。月は太陽がなけりゃ輝けないんだよ。
金蝉『てめっ!寝てたんじゃねぇのかよ!






それには答えないナタク。
それを見つめてはまた微笑む。
金蝉はを見上げる。











そう言う事。














の微笑みに金蝉も表情は和らぐ。
そんな場面を遠くから眺めていた焔。













羨ましい存在。



















・・・でも


















・・・決して
























・・・手に入らない・・・。


















焔はふと月に背を向ける。

俺は理想郷を必ず作り出す。



























たとえ・・・それがを敵に回したとしても・・・。






































・・・・必ず・・・・







続く



****************************************
後書き 〜 言い訳 〜

こんにちは、またはこんばんは 吹 雪 冬 牙 です。
おおう!これは天界でしたね。ははは(苦笑)
今回もは壊れてますねぇ。面白いくらいに。
やっぱり天界の記憶と桃源郷の記憶があると言うのは難しいですな。
これで焔君は出演しないかな?はーい、焔さんクランクアップでーす。お疲れした!
焔:もう、終わりか?
はーい!でもあとで友情出演お願いするかも!?
焔:わかったわかった。
で、次回の予告です。次回はまだ三蔵と合流できないかな?
それは三蔵の心の戦いがメインだからです。

ここまで読んで下さいました、様・
心より深くお礼申し上げます。
 
 
これにこりず、次章も読んで頂けますと幸いです。
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。



八戒『次回、最遊記 9 〜記憶の果てに〜  須く看て下さいね(ニコッ)』


更新 2007.12.24
再掲載 2010.10.28
制作/吹 雪 冬 牙



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