9 〜 記憶の果てに 〜』

三蔵「オイ、こら…





いつまで寝ていやがる!!






起きろクソ女!!



















ガバっ!!!










いつもの三蔵の怒声では飛び起きた。
ふと辺りを見渡すと、そこは何もない白い空間。



















「はぁ・・・驚いた。・・・なんで私が三蔵に怒られてんのよ。悟空じゃあるまいし。」




















ムッとした表情で、はベットから抜け出た。
天界の空は今日も見事に澄み渡っている。
は窓の側に立ち、グッと腕を空へと持ち上げた。
久々の天界の空気。
さすがに人間界とは違い、汚染と言うものがない。
故に空気が美味しい。
はふと自分が身に纏っている服を見つめた。
天界での清純清楚を現すかのような白装束。
でもこの色は自分には似合わないと昔から思っていた。
いつだったか、ナタクと妖怪討伐の際に返り血を浴びて、白装束が赤く染め上がった姿を見
て「綺麗だな」とニカッ!と笑って言ってくれた事を思い出す。
殺生のない天界においては、私の姿は醜さの何ものでもなかったんだけど。
それでもナタクは「醜い」ではなく「綺麗」と言ってくれた事が嬉しかった。
それから少しだけ天界の服が好きなったんだっけ。
それでもやはり居心地が悪い。
まだ残っているのだろうか?
そんな疑問まじりには古びた洋服タンスに近付きゆっくりと中を開けた。
中には洗い立てのような服がギッチリと入っている。
は驚く。
なにせ普通に考えてこの部屋に来るのは500年振りなのだ。
なのに何故・・・?
そんな疑問を持ちながらも、は黒いタートルに黒のパンツ上に黒い皮のコートを羽織
った。
これが本来の姿。
背筋を伸ばし、一息吐く。
もう、ここともお別れだ。
はゆっくりと観世音菩薩の部屋へと歩き出した。




****************************************


八戒は三蔵の額に手を翳した。

「八戒、どう?三蔵の具合。」

部屋の入口に心配そうに見つめているが声を掛けてきた。
三蔵は気を失って以来、高い熱にうなされていた。
別段体に異常は見られなかった。
なにせの診断だ。
間違いは万に一つもないだろう。
は静かに三蔵の側に寄った。
三蔵は荒いを息をしたまま瞳を閉じている。

八戒「精神的なもの・・・なのでしょうね。」
「多分、そうだと思う。ちゃんが・・・あんなふうになって現れてショックだったんだと思うよ。」

八戒はふとの冷たい視線を思いだした。
全てを、見下すような視線と態度。
自分でも驚くほど体が震えていた事がわかる。














三蔵「・・・・・・・・・・・・。」













「三蔵・・・。」


は三蔵の手を握りしめた。
それに答えるかのように三蔵も握り返す。
気のせいだろうか?
三蔵の呼吸が幾分静かになったようだった。
八戒はそれを見つめて優しく微笑む。

八戒「悟空や悟浄にはしばらく入らないようにしておきますからね。」
「うん、ごめんね八戒。」
八戒「いえ。三蔵の事お願いします。」

そう言うと八戒はと三蔵の部屋を後にした。
八戒は扉の前で少し俯いた。
には申し訳ないと思った。
何故なら、の代わりをしてもらってしまっているから。
きっとはそんな事に気付いていない。
ただ目の前に倒れている者をほってはおけない・・・と言う慈愛の念によって三蔵の手を
握ったにすぎないのだから。
でも、の純粋なそんな行動すら八戒は利用してしまう。
そんな自分が嫌でたまらなかった。
ふと溜め息を付く。








八戒「はこんな僕でも許してくれるでしょうか?」









呟いた言葉は小さく床に落ちていく。
八戒は悟浄と悟空のいる部屋に入った。
入るなり悟空が八戒に飛びつく勢いで目の前に立った。

悟空「三蔵は!?三蔵は大丈夫なのか!?」
八戒「ええ。大分落ち着いてきてますから、後はが今気功術をかけてくれてますから、ソレ次第に
なると思いますよ。あ、そうそう。からの伝言です。」

からと言う言葉をやたらに強調するあたりが八戒の策士的な所だろう。
悟浄と悟空は何事かと八戒の事を見た。
八戒は満面の笑みを浮かべる。

八戒「気功術は集中力が大切なもので、途中で中断すると気功術師に酷く負担がかかるのだそうです。
終わるまで部屋は出ないから絶対に入らないようにと。」

もちろん、八戒の大嘘である。
しかし気功術を知らない二人にとっては、が言った事と言うこともあってか妙に納得
した表情で頷いていた。

悟空「でも、そんな事して今度はが倒れないか?」
八戒「平気ですよ。そんな事までしても三蔵は喜ばないし、ちゃんに殺されるっていってましたから。」
悟浄「・・・だな。」

ゴクリの唾を飲み込む悟浄を見て、悟空の顔も次第に青ざめる。
そして悟空は静かに扉の方に視線を送った。
その先にいるを想い・・・。







****************************************




観世音菩薩は面白そうに蓮の池から下界を眺めていた。

二郎神「観世音菩薩、あまり悪戯が過ぎますと殿に嫌われますよ。」
菩薩「ま、にだけつらい思いさせるのは忍びないからな。少しは金蝉も悩んでもらおうじゃないか。退屈しないように。」
二郎神「しかし、いくらなんでも熱まで出さなくても・・・。」


そう言って二郎神は気遣いげに池に映し出されている三蔵の顔を見つめた。
あまりにも苦しそうな表情が痛い。














菩薩「ばーか。熱はあいつ自身が出してんだよ。」
二郎神「・・・どうなってもしりませんぞ。」
菩薩「大丈夫大丈夫!なにせ金蝉のヤツはにご執心もいいトコだったからな。よし!金蝉が涙を流すか賭けるぞ。」
二郎神「はぁ。」










そして二郎神の胃の痛みは酷くなる。
はふと菩薩の部屋の前まで来て後ろを振り返った。
誰かに呼ばれたような気がしたのだ。
なんだろうと?と首を傾げながら菩薩の扉の前に立つ。
扉にはお世辞にも上手とは言えない字で



















菩薩の部屋 入ったらコロス。










と書かれていた。
まったく変わらない部屋に苦笑が漏れる。















コンコン















二郎神「来たようですな。」
菩薩「入れよ。開いてるぞ。」

菩薩はふわりと池に手を翳し、下界の画面を消す。
扉から姿を現すを見て、菩薩は一瞬面喰らったように見つめてしまった。
白装束も似合ってはいたが、やはり黒い服を身を包んだは懐かしかった。

菩薩「下界に降りれるのか?」
「ええ。早く帰らないと、悟浄が私のいない間にちゃんに手を出しかねない!」

その保護者のような言葉に菩薩は吹き出す。
ソレを見てはあからさまに不機嫌に菩薩を見つめた。

菩薩「悪りぃ悪りぃ。お前等はいくら時代が変わっても不滅だな。」

そしてそんなお前等が羨ましいよ・・・とは口が裂けても言う気にはなれない。
菩薩は一通り笑い終えると、真面目にに向かい合った。





























菩薩「本当にいいんだな?お前一人がまた取り残されるんだぞ。」




























「ええ。大丈夫。焔が見当たらなかったの、よろしく伝えて。」



























ニッコリと笑うの決意には、もう誰も止められない事を悟る。
二郎神は口元を抑えた。
あまりにも哀しいと二郎神は思ったのだ。
しかし菩薩はの答えが気に入ったのか、力強くの肩に自分の手を乗せる。






















菩薩「元気でな。」
「ええ。菩薩もね。あ、そうそう。一つ忠告しておくわ。」




















なんだと言う顔で菩薩はを見る。
はと言うと人の悪い笑みを浮かべる。















「あんまり三蔵達苛めないでね。私達は貴方の退屈しのぎの道具じゃないんだから。」







「ね?」とさらにニッコリとした笑みを浮かべる
それは有無を言わせるつもりはないらしい。
菩薩は仕方なく返事を返した。
・・・がこれもまた、微塵も心に思ってもいない。
そんな二人のやり取りを見て二郎神は内心冷や冷やとして見守っていた。














「さて、行こうかな。菩薩、お願いね。」
























菩薩「ああ。」












そいう言うと菩薩は手を重なり合わせる。
静かに紡がれる言葉に同調するかのように、少しづつの体全体が光りに包まれていく。
は薄れる視界でしっかと菩薩を見つめた。

























最後かもしれない・・・

























そんな不安があったから・・・。


























もう・・・二度と逢えないような予感。





























の瞳からうっすらと涙が出る。
菩薩は全ての言葉を紡ぎ終わると、後はの体が消えるのを静かに見つめていた。
まばゆい光りを纏ったは天女そのものだった。
しかし菩薩はうっすらとの瞳に浮かべた涙を見落とさなかった。
薄れ行く視界の中で菩薩が手を伸ばす。
軽く頬にさわり指で涙を拭い、ニヤリと笑う。
は瞳を見開いた。
もう聞こえなくなっている菩薩の声。
でも口元を見て理解した。























『し・あ・わ・せ・に・な・れ。』






















そう言ってくれた菩薩。
まさしく慈悲と慈愛の象徴と言える・・・とは思った。
そしての視界は完全に白い物となった。





****************************************



ここは・・・何処だ・・・?
見覚えのない森に三蔵は一人立っていた。
辺りに人の気配は全くしない。
しばらく三蔵は周囲に気を向けながら森の中を歩き続けた。
一面の花畑・・・か。
三蔵は一度タバコをくわえたがまたすぐに箱に戻した。
森の終着は一面の花畑のようだった。
木々の間から見える一面の花に三蔵は瞳を奪われた。
ふと話し声が聞こえて三蔵はそちらに神経を集中させた。
誰かいるな。
そう思い、人の気配をした方に歩み寄る。
そこには小さな木の陰に2人の男が身を潜むように座っていた。
そして手には何か持っている。
三蔵は何をしてるのか気配を悟られぬように近付く。
しばらくして二人の会話が耳に入ってきた。

兵士1「はぁ〜やっぱり殿はお美しいなぁ。」
兵士2「全くだ。俺達ナタク様の軍で良かったよなぁ。幸せだぁ。」

三蔵はふと兵士達の視線の先を見る。

三蔵(!?)

確かにがいた。
悟空と遊んでいる・・・が回りにいる男は何者だろうか?
特に眼鏡をかけた男はしきりにの近くにいる。



カシャッ!



三蔵は不可解な音で現実に戻された。
目の前の男はどうやらの写真を盗み取りしていたようだ。
三蔵の怒りがこみ上げると同時にいつもより2・3割増しの不機嫌そうな低い声で目の前
の男に声をかけた。

三蔵「おい、こら。何してやがる。」
兵士1「へ?」

二人の男はしばらく三蔵を眺めてはいたものの、それが誰か把握するとみるみるうちに顔
から血の気が引いていく。
三蔵は黙って手を二人の前に出す。
無言の渡せと言う命令。

兵士2「すみません!すみません!!」
兵士1「命だけは助けて下さい!!!!」

あまりにも必死の懇願に三蔵は毒気を抜かれる。
カメラを手に採ると、二人は一目散に三蔵の前から姿を消した。
そんな騒ぎに気付いた悟空がこちらに視線を送った。
直後、とてつもなく嬉しそうな悟空の笑顔。
それにつられて全員が三蔵の事を見た。

悟空「金蝉ー!こっちだよこっち!!」

あきらかに悟空はこちらに手を振っている。
三蔵はさらに自分の後ろに人がいるのかと思い、後ろを振り返る。

捲簾「何やてんだぁ?金蝉は。」
天蓬「さぁ・・・?」
ナタク「とうとうボケたか?」

悟空はから手を離し、三蔵の前までやってくる。
ニッコリと笑うと悟空は有無を言わさずに三蔵の手を取りみんなの前に引っ張って行く。
いつも以上な怪力に三蔵は足を止める事も振り払う事も出来ず、みんなの前に姿を現す。

悟空「なぁなぁこれからみんなで鬼ゴッコするんだ!金蝉もやろうよ!」

しかし三蔵は、疑わしそうに全員の顔を見つめた。
会った事は無い。
そう断言出来るが、どことなく懐かしく感じるのは何故だろうか?
ずっと黙ったままの三蔵に悟空と同じ年頃の少年が三蔵を見上げる。

ナタク「おい、ボケが来んのは少し早いんじゃねぇか?」

その言葉に三蔵は青筋を立てる。
それを見て悟空が安心したかのように笑う。

悟空「良かった!いつもの金蝉だ!」
捲簾「青筋たてて「いつもの」とは・・・どうなんだろうね?天蓬。」
天蓬「いいんじゃないんですか?よく観察してるって事で。」

ほうぼう言いたい放題の事を抜かす。
訳がわからない三蔵の怒りはだんだんMAXに近付く。
それに早く気付いたのはナタク。
すぐに悟空の手をとり駆け出した。
ソレを見て天蓬と捲簾も駆け出す。

悟空「金蝉が鬼なのか?」
ナタク「ああ!!」

そう言うと悟空は改めてニッコリと笑うとナタクと並んで走り出した。
全員にいきなり鬼を押しつけられた三蔵は唖然として動けずにいた。









この我が儘さは一体なんだ・・・?









三蔵はしばらく肩を下げて悟空が消えて行った方を見つめていた。
だけはその場に残っていた。
三蔵はふとを見つめた。
お互いの頬を春風とも言える、心地よい暖かさが撫でて行く。
は風に踊る髪を邪魔そうに掻き上げる。










「・・・貴方・・・誰?」
三蔵「!!」




その言葉に三蔵は何も言えなかった。
ただ黙って見つめる三蔵にも黙って見つめ返す。
そして再度同じ質問を自分に浴びせた。













「貴方は誰?金蝉の体だけど・・・金蝉じゃない。」
















そう言われて三蔵は自分を見直した。
何処で手にいれたか覚えない服。
腰まである金色の長い髪。
どう見ても自分ではなかった。













金蝉・・・。
















三蔵の頭の中でふとその言葉が思い出される。



















コレは・・・前世の記憶・・・?

















三蔵はを苦しそうに見つめた。
声が思うように出てこない。
三蔵はに手を伸ばした。
口から出て来ない声を絞り出すように。












三蔵「・・・あ・・・う・・・・・・。」













掠れる声に驚いた。
するとはニッコリと笑みを浮かべると、自分に手を差し伸べた。













「大丈夫?」














三蔵は返事の代わりに手をギュウと握った。
それでもは優しく微笑んでいる。
三蔵はそんなの顔を見て、今までの事が全て夢だったのかと思えてきた。













「んー?貴方の事なんて呼べばいい?金蝉じゃないんでしょ?」















三蔵は小さく頷いた。














三蔵「・・・三蔵。」

















そう呟くと同時にを自分の体に収めた。
見た目以上に華奢なの体に驚きが隠せない。
少しでも力を込めてしまえば脆く壊れるような、の体だと思った。

「三蔵って言うんだ。わかった。三蔵、どうして金蝉の中にいるの?」

その言葉に三蔵はを見つめた。
は穏やかに笑ってはいるが、この事態をどうしようか考えているのであろう。
それはたやすく予想がついた。
しかし確かにこの体は自分の物ではない。
どうしてと言われても、気が付いたらこの状況だ。
説明なんて出来るわけもねぇ。
逆にこっちが説明してもらいたいぐらいだ。
そう言って三蔵はタバコを手探りで探す。
しかしどこを探っても先程まであった箱がなくなっている。
小さく舌打ちをすると、が覗き込んできた。

「ねぇ、できれば金蝉を返してもらいたいんだけど?」







三蔵「・・・駄目だ。」











三蔵の口から出たのは拒絶だった。
が自分以外の誰かのものと想像しただけでも、心が熱くなってくる。

三蔵「てめぇこそ、俺を思いだしやがれ。いつまでもてめぇの過去に付き合っちゃらんねぇんだよ。」
「え・・・?」

中身は金蝉でないのはすぐにわかった。
とても似ているけどどことなく違う仕草。
は戸惑った。
三蔵と言われても、全く記憶にないのだから。























「私ね金蝉の婚約者なの。だから彼を返して欲しいの。」























の言葉から紡がれるのはあまりにも残酷な宣告だった。
三蔵は唖然として身動きが取れなかった。


















誰かの物になる前に・・・?















もう手遅れと言う事なのか?
















ふと三蔵の手の中から温もりが消えた。

















そして・・・






















三蔵の瞳を・・・・




















濡らすのは、一体なんだろうか・・・?




















三蔵は拭うこともせずにただ愕然とを見つめた。
はそれを見てニッコリと笑う。

























「お戻りなさい。本来いるべき場所に。ここは貴方の世界ではないはずよ。」




















三蔵「本来いるべき・・・場所・・・?」
「そう。貴方が大切にしている人達の元へ。」



そう言われて三蔵はから瞳をそらした。





















大切な者・・・一人は自分の力量不足の為に守れずいなくなった。





















そしてもう一人も・・・いなくなってしまった。























は三蔵の頬に手を添え、濡れた瞳を軽く拭った。
それに驚き三蔵はを見つめた。























三蔵「大切な人はみんないなくなった。俺の側を離れたんだ。俺は・・・守れなかった。」





「守るだけが力じゃないでしょ?守られる事も力の一つ。」


三蔵「力・・・?」



「そう。自分を助ける為に犠牲になってくれた者は決して忘れない。けど、悔やむ事はしないわ。
だって、それは犠牲になってまでも守りたいと思ってくれた人に失礼だもの。その人の分も一生懸命
に笑って生き抜く事が大事よ。いつまでも故人に対しての贖罪の念にかられていたら、きっとその人は涙を流すと思う。」




三蔵「何故・・・そう思う?」












「え?あなたって・・・以外と馬鹿?」



いつものと変わらない態度に一瞬怒りがこみ上げる。
だがそれものくったくのない笑顔で消えてしまう。


「だって、私だったらそう思うもの。なんの為に命を捧げたと思ってんだよ!ってね。
そりゃ出来れば一緒に生きていたいけど…でも、命をかけて守りたい者があるからこそ
優しくもなれるし強くもなれると思うよ。死を恐れぬ程にね。」




三蔵「自己満足か。」



ふとつぶやいた言葉には酷く辛そうな顔をした。



「三蔵、それは違うよ。一番大事な物が自分の命ではなく相手の命であっただけの事なんだよ。
でも、まぁ三蔵の言いたい事もわかるけど。」


三蔵「なに?」


「私の一番大事な物は相手の命と自分の命、両方だから。残された者の気持ちは、きっと辛いと思う。
だから、共に歩いてゆける道を見付ける。無理だったら・・・。」



ふとは言葉を止める。
三蔵は怪訝そうにを見つめた。
人の悪い笑みを浮かべる



























「道連れ・・・かな?」


























その言葉に直後三蔵は吹き出した。
あまりにもらしい言葉だったからだ。


















そう。
はどこまでも共に歩いてくれる相手。
必ず側から離れない。
そんな強さに惹かれたのかもしれない。


三蔵「お前は闘神太子の側近なのか?」


「え?知ってるんだ。そう。ナタクのおもり兼保護者かしらね。金蝉が父親なら私は母親かしら?」




























三蔵「・・・そうか。」






























「さ、帰ろう?三蔵。」


















にそう言われて三蔵はゆっくりと頷く。
は手を差し伸べた。
それにつかまる三蔵。



「途中まで連れて行ってあげるからね。」




















三蔵「・・・ああ。」













そう言うと三蔵は瞳を閉じた。














****************************************




「うきゃ!!!!!いったーーーーい。」














は尻餅を付いた形になって下界した。
あまりに酷く打ち付けたのか、いまだに立つ事も出来ずに腰をさすっていた。
そしては空に向かって怒鳴った。

菩薩!ちゃんとコントロールくらいしてよね!!!

しかし、返事が返ってくる訳もなく、また静寂に包まれる。
はどこに投げ飛ばされたのか、ゆっくり回りを見た。
右に行っていいのか左なのか・・・?
なんの目印もない砂漠のど真ん中に置いていかれたは腕を組んだ。

































「・・・やられた。」








































そっと呟くの脳裏に悪戯好きの観世音菩薩の顔を思い浮かんだ。
何を考えているのか?
それにしても三蔵達は何処にいるのだろうか?
は立ち上がり砂の上を歩き始めた。
太陽の位置を確認して西の方角を見付け歩き出した。














(三蔵・・・。)


















****************************************


二郎神「・・・観世音菩薩、いいんですか?」
菩薩「あーもちょっと街よりにするつもりだったんだが・・・ずれたな。







ま、いっか♪」













そんな菩薩の顔は嬉しそうだ。
二郎神はそんな菩薩にもて遊ばれているに心底同情した。

菩薩「だいたい何も苦労しねぇで逢えると思う方が間違ってんだよ。」

それは悪戯を達成した子供のような笑顔だった
菩薩は机に座り写真を取り出す。
よく見ると写真の所々に甥の顔が映っている。

菩薩(あいつの趣味じゃねぇのか。チッ!つまんねぇな。)

そう言うと菩薩は写真を机の中にしまい込んだ。
コレをみている金蝉の顔を思いだして、自然と笑みになる。
またこれでからかう材料が一つ増えたわけである。

菩薩「おい、二郎神。それより俺の勝ちだな。」
二郎神「はい?」

菩薩「アレを見ろよ。あれ。」

菩薩に指された蓮の池を見て、二郎神は驚きを隠せなかった。


****************************************




「三蔵?」













閉じている瞳から涙が零れ落ちた。
は我が目を疑った。
あの三蔵が夢を見て泣いているのだ。
どうしたものかと悩み、はそっと手を外した。
しばらく美しい涙にみとれていたが、は静かに涙を拭った。
あまりにも儚いげに見えたからだ。
は気を通して、三蔵がここに肉体だけ置いて精神がどこかに行ってしまっている事に
気付いていた。
だが、誰にもその事は言わなかった。
下手をすればそのまま三蔵は死んでしまうかもしれない。
この熱は、精神が離れてしまっている為に起きる体からの危険信号のようなもの。
はまた三蔵の手を包み込んだ。
そして額を付ける。














「三蔵、戻って来てよ。ちゃんが帰ってきた時、悲しむよ。三蔵!!」













しかしそれに返事が返ってくる訳もない。
はしばらく三蔵の顔を見つめていた。
そして何かを決心したかのように、小さく言葉を紡ぎ始める。
やがてと三蔵の回りがまばゆいばかりの光りに包まれ始まる。
ふと・・・最後の言葉を紡ぐと同時には三蔵の上にその身を落とした。
静かに瞳を開けるはトンネルのような光り一つない空間に浮かんでいた。
先の方には出口のような光りが見える。
はゴクリと唾を飲み込み、そちらへと飛んで行く。
やがてトンネルは終わりを告げ、一面の花畑に出た。
辺りを見渡す。
ここは三蔵の精神の中。
にだけしか出来ない特殊能力と言えるであろう。
相手とのシンクロ。
はそこから動く事なく、手を前で組み瞳を閉じた。
三蔵が戻って来る事を信じて。
ふと、遠くから人影が見えてきた。









その気が三蔵の物とわかると、はゆっくりと瞳を見開いた。










金色の髪が陽の光りにとけ込み輝いた。
の顔から安堵の笑みが零れる。
ふと三蔵の隣りにいる女性に驚く。
三蔵にしかわからないはずの自分の姿。
なのに、その女性はを認識しているかのようだった。
近付くにつれてそれがだとわかった。











「三蔵!」














三蔵「、なんでお前がここに?」







三蔵はの前に立つ。
は一歩後ろに立ち、三蔵との事を見つめる。

「そんな事より、帰ろう。みんな待ってるよ。」








「三蔵!決して明けない夜はないからね。もう、来ちゃ駄目だよ♪」








三蔵は振り返った。
そこにはが淋しそうに微笑んでいた。


















三蔵「・・・ああ。また、逢えるからな。」














フッっと三蔵の口元が上がる。





















「それが真実なら・・・ね。」



















そして三蔵とはその場から姿を消して行った。

































金蝉「・・・。なんだここは?」
「お帰り、金蝉。ここは天界の端だよ。」
金蝉「そんな事聞いてんじゃねぇ。なんで俺がここにいるかって事聞いてるんだ。」
「さぁね。さて、私も逃げようかな。」
金蝉「はぁ?」
「あら、貴方鬼ごっこの鬼なのよ♪」









そう言うとは元来た道を走り出した。
最後に見れた三蔵の本当の姿との姿を思いだし笑みが零れる。














****************************************





八戒「!?・・・!!」



「ん・・・ああ、八戒。おはよぉ〜。」




八戒「おはよぉじゃありませんよ!大丈夫ですか?一時呼吸をしてなかったんですよ!」

それを聞いてはあわてて体を起こす。
三蔵を見つめると、荒い呼吸がなくなっている。
ホッと一息つく。


八戒「 ?」

三蔵っ!三蔵っ!!三蔵っ!!!!








病人と言う事を忘れているのではないか?と疑問に思う程の力では三蔵の体を揺さぶる。



















すると・・・























三蔵の瞳が・・・ゆっくり・・・ゆっくり・・・と開かれた。
















八戒「三蔵!」
「三蔵!良かったぁ。」















心底安心したように笑みを零す。
三蔵はふと握られているの手を見つめた。
慌てては手を放そうとしたが、三蔵はソレを許す事はなかった。
さらにキツク手を握って来た。
















三蔵「・・・礼は言わんぞ。」















いつもの調子の声にと八戒は苦笑する。
八戒は何が起きたのかから一通り説明を受けた。
その間何故か三蔵はの手を放そうとはしなかったのだが・・・。
話しを聞き終えると、三蔵と八戒の二人の体は小刻みに震えていた。









八戒「・・・では、があの世に行きかけていた三蔵を迎えに行ったと・・・そう言うわけですか?(怒)」
「うん。私もさ、さすがにあんなトコまで行ってるとは思わず焦ったよ。下手すりゃ帰って来れないかなとか思ったんだよね。」












あっけらかんと話すに、めずらしく二人は怒りを露わにする。
が言っていた危険と言うものを感知しないから苦労する意味が今さながら実感した。



















三蔵「こんの・・・っ」















スパーーーーーーーーン


















三蔵「馬鹿娘ぇぇぇぇぇぇ!!!

















いっ!?たーーーーい



















どこから出してきたのか?
三蔵は始めてをハリセンで叩いた。
とは言え、悟空達にやるよりは手加減はしていたが・・・でも、痛いのは変わりない。
そしてその音で悟空と悟浄が部屋に流れ込むように入って来た。

悟空「三蔵、元気になったのか!?」
悟浄「おお久しく聞いてなかったねぇ、その音。」
八戒「本当ですね。僕、こんなに軽快な音とは気付きませんでした。」
「体力有り余ってるよ。(くすん)」

等と口々に言いたい放題言い出す。
その煩ささに三蔵のこめかみに青筋が立つ。
それが分かっているのか、二人は今度を囲んだ。

悟浄「おお、初・体験しちゃったのね♪」
悟空「痛いだろぉ、三蔵のハリセン。俺、毎日のように叩かれてんだよ!」

誰もが何故が叩かれたかと言う事は気にしていないようだった。
いや、むしろ三蔵の復活の方が大事だったのだろう。
は未だジンジンする頭を押さえ笑い合う。
目覚めの機嫌の悪さは、悟空も悟浄も嫌と言う程知っているはずなのだが・・・
忘れているのかと3人で大騒ぎし出す。

悟空「そうだ!全快祝いしようぜ!全快祝い!!」
悟浄「お、いいねぇ。」
「賛成!!」








スパーーーーーーーーン




















本日二度目のハリセン。















悟空・悟浄・いってぇ(たーーーーーーい)。













三蔵「煩せぇんだよ!馬鹿トリオ!!」













とうとう命名されたようである。








そんな賑やかな雰囲気を八戒は傍観していた。
寝起きにいきなり体を使ったからか三蔵はベットに再度倒れ込む。

















三蔵「ったく・・・。」
八戒「まぁまぁ、いいじゃないですか。も何か吹っ切れたみたいですね。」
三蔵「・・・フン。」











三蔵は再度悟空達に視線を送った。
今度は三人で三蔵の悪口を言い合っているようである。
また青筋が立つ。
しかしふと軽く口元が上がったのも確かである。

八戒「三蔵の方はもう大丈夫ですか?」
三蔵「ああ。」
八戒「・・・みたいですね。(ニコ)」

三蔵は遠い瞳をして窓の外を見つめた。
窓の外は青い月が浮かんでいた。










『三蔵〜(泣)』











頭の中で声が聞こえてくる。


三蔵(あのクソ女・・・。)




の一生懸命に生きようとする前向きな強さ。
明けない夜はないと言い放った
三蔵は確信した。
は必ず戻ってくる。
いや、確信と言うよりも・・・信じていたい。
たとえ一人でも、永遠に待つ。








三蔵『また、逢えるからな。
それが真実なら










真実だ。








どこにいようとも探し出してみせる。







この手を差し出して・・・掴んでみせる。







だから今は信じよう。









この仲間と共に、お前とまた旅が出来る事を。




























だが・・・・


































この借りはデケェぞ・・・・・・・。




































覚悟しやがれよ、



そんな平和な一行の耳元に微かにラジオの音が耳に入ってくる。




私この歌好きなんだよね!



そう言ってが透き通る声で歌った夜を全員が思い出した。





****************************************
後書き 〜 言い訳 〜

こんにちは、またはこんばんは 吹 雪 冬 牙 です。
おおう!の初体験ハリセンでした!お味はいかがなもので?
はぁ〜は一体どこに飛ばされたのでしょか?菩薩も結構遊んでます。(笑)
まぁ、最後の方は本来の方向に戻りつつありますね。それぞれの葛藤が終着したの
ではないのでしょうか?
の性格が少し変わった訳は次章で明らかになります。まぁ。もうわかるか。
それにしても悟空は知らないとは言え、なんか三蔵と良いムードな
書いていながら、「触るなぁ!」と思い、しかも三蔵が握り締めて放さない所なんて
「浮気者!!!」って叫んでました。(苦笑)
さて次章で終わりなのですが(終わるのか?)なんか長かったような短かったような
そんな感じですね。書いてて楽しかったから良かったんだけど・・・
読者の皆様も一緒に楽しんで頂けていると嬉しい限りです。

さて次章はどうなる!?
次章はいちよう最終話なので、内緒です。楽しみにしていてくださいね。

ここまで読んで下さいました、様・
心より深くお礼申し上げます。
 
 
これにこりず、次章も読んで頂けますと幸いです。
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。



蔵『次回、最遊記 最終話 〜FOR REAL 1 〜 須く看よ。』

更新 2007.12.24
再掲載 2010.10.28
制作/吹 雪 冬 牙



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