最終話 〜 FOR REAL 〜1』

は四方八方砂漠の光景にうんざりしていた。
菩薩からこの地上に下ろされて、一体どれくらいの日にちが経ったのだろうか?
何度も野宿もした。
ただ夕日の沈む方向を目指して歩いていた。
この方向には必ず三蔵や達がいるはずだから・・・。
はすでに疲れ切っている体に鞭を打ちながら、歩き続けた。
ふと、は立ち止まった。
そして上を向く。

















菩薩のばっかやろーーーーーーー!!!!












大きな声で叫ぶが、辺りは静まり返っているだけ。
は肩を落として、また歩き始めた。






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二郎神「観世音菩薩、このままではは遭難しますぞ。(^^;)」














この元凶を作った菩薩は新聞を読みふけっており、これと言って興味があるようではなか
った。
心配そうに蓮の池の中を覗き込む二郎神。
そんな二郎神をチラリと視界の端に入れ、菩薩は溜め息を零した。

菩薩「まだ、逢ってないんだろ?金蝉達とは。」
二郎神「ですがの体力にも限界が。」

菩薩はめんどくさそうに池の前に立つ。
たしかにの顔色は以前に比べれば悪い。


菩薩「あーりゃま。」




二郎神「「あーりゃま」ではございません!!どうにかして上げて下さい!!」
菩薩「どうにかって言っても・・・金蝉達は何やってんだよ。」

そう言うと菩薩は池に手を添えた。



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三蔵「こんの馬鹿トリオ!!」










スパーーーーーーーーーーン!















今日も砂漠に小気味よく響く渡るハリセンの音。


悟空・悟浄・「いった〜・・・。」


三蔵「当たり前だ。痛くしてんだからな。」



三蔵達一行は街を出てから数日、この砂漠を西へと移動していた。
途中何度目かの休憩を取りながらの為か、進みは遅い。
いつものように悟空のお腹空いたコールによって、本日何度目かの休憩をとっていた。
八戒は微笑みながらそんな光景を眺めていた。
ふと、笑みが消えてをまっすぐに見つめる。
三蔵が目を覚ましてすぐにが気を失った。
それはが三蔵に『気』を使い過ぎて失ってしまった為であった。
寝れば自然と回復するので、八戒は別段慌てる事もなくを休ませた。




・・・しかし、そこから異変が起き始めていたのである。




八戒は悟空の声で思考を止めざる終えなかった。

悟空「だからってにまで痛くすることないだろ!?」
八戒「(^_^;)」

悟空はの頭を撫でながら三蔵を睨む。
が、それ以上に不機嫌そうな三蔵の視線に、冷や汗を流す。









(変わらない、何もかも。)












は懐かしそうに目を細めた。
そんな表情を傍観していた八戒は、再び考えを巡らす。
最近のは目に見えるように人格が変わった。
悟空や悟浄達と一緒になっては大騒ぎをするようになった。
三蔵が目覚めた次の日には完全に人が入れ替わったかのように、性格が変わっていた。
最初は心配していた三蔵達だったが、別段以外の他の魂が入ったようにも見えない。
しばらく様子を見る事にした三蔵ではあったのだが・・・。
さすがにこの3人が騒ぎ出すと、にまで容赦なくハリセンをふり下ろすようになった。
昔のようなホンワカした雰囲気はない。
どちらかと言うと活動的になっていた。

八戒「、何か面白い事でもあったのですか?」
「なんで?」
八戒「とても嬉しそうに三蔵を見てたみたいですから。」
「ふふふ。ちょっとね。」

そう言いながらは最後に残っていたフルーツを口にする。
その瞬間に悟空が叫び声をあげる。

悟空「あーーー!!それ俺も狙ってたのに!」
「残念でした!早い者勝ちぃ!!」
悟浄「んー俺も喰いたかったけど・・・(ニヤリ)」

悟浄は何か思いついたようにに一歩づつ近付く。
も身の危険を感じたのか、八戒の後ろに隠れる。

悟浄「ちゅわ〜んで味見させてもらおっかなぁ!」
「!?」

瞬時にの顔が真っ赤になる。
いつも悟浄にはからかわれてばかりいるのだが、さすがにそれの対応策はない。

「なっ…ちゃんに怒られるから!」
悟浄「大丈夫、大丈夫♪」
「うーーー八戒ぃ・・・(>_<)」

瞳をウルウルさせて見つめるに八戒は苦笑した。
毎日のように繰り返される光景。
おそらくが戻って来た時に驚くだろうなと思った。

悟空「何馬鹿な事言ってんだよ!この慢性エロ河童!!」
悟浄「なんだとぉ〜!?馬鹿に馬鹿と言われたくねぇな!馬鹿猿!」

八戒が助けに入る事もなく、いつものように悟浄と悟空のの争奪戦の幕が切って落と
されたのである。

「ふたりとも〜そろそろやめないと〜・・・。」

がちらりと三蔵に視線を送る。
そこにはすでに懐から銃を取り出そうしている三蔵が入ってきた。
2人から血の気が引く。
しかし、次の瞬間には容赦なく三蔵が銃を撃ち始めた。
互いに寸での所で交わすあたり、よく鍛錬されていると言うべきなのだろうか。

悟空「〜、三蔵がマジで俺を殺そうとしてるぅ〜。」

悟空は発砲されない為にへと近付く。
確かに三蔵はが近くにいる時は絶対に発砲はしない。
それを知っている悟空と悟浄にとっては、一番安全な場所である事はあるのだが・・・。
は近付いて来る悟空と悟浄から一歩づつ足を後退させる。



ガウン!






そしてスタートの発砲よろしくも走り出した。
それに追いつこうと悟空と悟浄が追い掛ける。
後ろからは三蔵の容赦のない発砲が続いていた。

八戒「あんまり遠くに行っては駄目ですよぉー・・・って、あれじゃ聞こえてませんね。」

苦笑しながら3人が走り去った方向を見つめる。
銃の射程範囲を越えられては弾の無駄と悟ったのか、三蔵は銃を懐に仕舞い、その場に座り込んだ。
タバコに火をつける。











八戒「三蔵、どう思いますか?」













三蔵「・・・ああ。」















2人は小さくなった3人を見つめる。
三蔵はふとのバイクの方に視線を送った。
もうこの地にがいる事は分かっている。
確証や証拠と言ったものは一切ないが、声が聞こえる。
今までは「金蝉。」と聞こえていたの声がいまは確実に「三蔵。」と自分だけを呼び
続けている。
普段ならうっざたいと思うであろう頭に響く声も、その声を聞いてひどく安心している自
分がいるのには驚きだった。













そう。

















頭に声が響いてる間はは確実に安全であると言うこと。













そして・・・「三蔵」と呼ぶ事はの記憶が戻り駆けているか、戻っている事を意味する。

八戒「も天界と何かしらの関係があるのでしょうか?」

その言葉に三蔵は八戒の方に視線を戻した。
八戒の目は真剣だった。

三蔵「考えられるな。」
八戒「ええ。の尋常でないの庇い方を今考えてみると、天界の何かが理由であるように思えますよね。」
三蔵「ああ。」
八戒「もしかして、は・・・。」

八戒の言葉を遮るように三蔵は口を開いた。

三蔵「今そんな事を考えても仕方ない事だ。以外の何者でもないんだからな。」

そう言い放つ三蔵だが、自分自身にも言い聞かせているようにも思えた。
幾度となく起こるデジャブのような現象。
そして必ず的割りついてくる「金蝉」と言う人物。
三蔵はタバコをもみ消した。
おもむろに立ち上がる。

八戒「三蔵?」
三蔵「前世なんざクソ喰らえだな。仮にの中で記憶が蘇っているにしてもあいつが助けを求めて来ない限りは、
俺達ではどうすることも出来ん。」

そう言うと三蔵はジープの方へと歩いて行った。
そんな三蔵を八戒は目を見開いて見つめた。
そして・・・ニッコリと和やかな笑顔になった。



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菩薩「何やってんだよ?あいつらは。に逢う気ねぇんじゃねぇのか?」







二郎神「・・・。」





ふと菩薩は不敵な笑みを零す。
その表情を見て二郎神は深く深く溜め息を零した。
この顔をする時は必ず何か企んでいる時。

菩薩「ま、この俺様は『慈悲と慈愛』の象徴だからな。万物に対しては対等にしなければ。」

そう言うと菩薩は再度池に手を翳した。
二郎神はこめかみをおさえる。

二郎神「観世音菩薩・・・。」
菩薩「ほら、見てみろよ。争奪戦の幕が切って落ちるぜ。」

そう言われて二郎神は池を覗き込んだ。



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は砂漠の真ん中で倒れていた。




こんな所を妖怪に襲われたら一溜まりもない。
しかしオアシスらしき所もなく、視界は朦朧としていた。










ある意味・・・













終わりかも・・・



















そう思いはゆっくりと瞳を閉じかけたときだった。






「おい。」









低い声ではつぶりかけていた瞳を必死に開けようとする。
瞬時何人かの気配がの周りを囲む。
は抱き起こされる。
しかしの目は完全に閉じて閉まっている。
もう、体を動かす事も出来なかった。
しばらくして口の中に冷たい物が流れて来た。
流れると言うよりはむしろ流し込まれるような感覚だ。
はやっとの思いで瞳を微かに開いた。

八百鼡「あ、気がつかれました!」
「こ・・・紅・・・?」

かなりの至近距離に紅該児の顔があった。
はボンヤリとそんな紅該児の顔を眺めた。

紅該児「!大丈夫か!?ッ!」

やっと知り合いに逢えた安堵感からか、はそのまま意識を手放してしまった。
グッタリと衰弱しているの体を抱き上げる紅該児の表情は珍しく焦りの色を隠せなかった。

独角兒「紅、ともかくを近くの街に運ぶ事が先決だろ?」

気を落ち着かせるようにゆっくりと口調で話す独角兒に紅該児は頷く。
そして優しくを抱き上げた。

紅該児「行くぞ。」
独・八「「 はっ! 」」

紅該児達は、風と共にその場から姿を消した。



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ふとの耳に雑踏が入ってきた。
はゆっくりと瞳を開ける。







紅該児「、平気か?」







心配そうにの顔を覗き込む紅該児の表情。
次第に視界がはっきりして、の瞳に生気が戻った。

「紅・・・がいる。」
紅該児「ああ、ここにいる。」

そう言うと紅該児はそっとの手を握った。
力強く握り締める紅該児の手は微かに振るえていた。
そんな2人を少し離れた所に座っていた独角兒と八百鼡は優しく見守っていた。
は辺りを見渡す。
どう見ても砂漠ではないようだった。




「ここ・・・は?」




紅該児「お前が砂漠の真ん中で倒れていた。だから、水を飲ませて近くの街に運んだ。ここはその街の宿屋だ。」

ご丁寧にここまでのいきさつを話す紅該児。
はふと口元に流し込まれる冷たい感覚を思い出して苦笑した。
生き返ったと思った瞬間、視界に入ってきた紅該児の心配そうな表情。
そして、目覚めた時の心配そうなけれど安心したような顔。
紅該児の印象が随分変わったな・・・とは思った。

「助けてくれてありがとう。紅、八百鼡ちゃん、独角兒さん。」
紅該児「気にするな。もう少し眠れ。」

そう言うと紅該児はの視界を手で覆う。
はクスクスと笑った。

「私、子供じゃないんだけど・・・でも、ありがと。」
紅該児「?」

直後はすぐに深い眠りへと入ってしまった。
紅該児は溜め息をつく。
やっと会話を終わったのを見計らって独角兒がを見下ろした。
前に比べて血色も良くなっている。

独角兒「それにしても、なんであんな所にいたのか。」
紅該児「さあな。どちらにしてもが無事ならばそれでいい。」

から視線を反らす事なく紅該児が呟く。
それに呆れたように独角兒は紅該児の頭の上に手を乗せる。
子供扱いされる独角兒をチラリと見る。
そこに八百鼡もの顔を覗き込み始めた。

八百鼡「でも本当に良かったですね、紅該児様。」
紅該児「ああ。八百鼡も探索に付き合わせて悪かったな。隣りで休んでくれ。」
八百鼡「いいえ、紅該児様こそお休みください。を探して数日間、体を休ませてはいないのですから。は私がついています。」

ニッコリと微笑む八百鼡。
しかし紅該児はの顔を見つめた。
ギュッと握られている手。
「行かないで」「いなくならいで」と訴えているようにも思える。

紅該児「いや、は俺がついて・・・いたい。

ぽつりと呟く声に八百鼡と独角兒は互いを見合わせた。
そんな2人を気にする事なく紅該児はの事を見つめていた。
いや、守っているようにも見える。
独角兒は八百鼡に頷く。

八百鼡「・・・わかりました。ではお言葉に甘えて少し休ませて頂きます。失礼いたします。」
独角兒「俺も休ませてもらうな。」

紅該児はから視線を外して2人を見上げた。
そしてニッコリと笑みを浮かべる。
その表情に2人が驚くのも無理もない。

紅該児「ああ、ゆっくり休んでくれ。ありがとう。」

自然と口から零れる言葉。
2人は静かに頭を下げると部屋からでて行った。



静まり返る部屋。
紅該児はの握っている手を額に付け、瞳を閉じた。












紅該児「・・・・・・。」


















がいなくなって以来、紅該児は連日のようにの捜索を行っていた。
確かに継母である玉面公主には嫌味を連発されていたのだが・・・。
しかし、そんな事気に止めている余裕は紅該児にはなかった。
ただ、が心配だった。
恐らく封じ込めていた記憶の発動。
それによってが儚く見えた。
何かに縛られ生きている様は自分と重ね合うのに十分だった。
最初はの強さに惹かれた。
そして何度か敵として顔をあわせる度に、戦いの最中のの表情が気になった。
強気な表情、冷たい瞳・・・しかし、それはどこか哀しそうでもあった。
それから、自分に向けられるのが殺意や敵意で無い事に気が付いた。














・・・そして・・・


















刃を交えてを知りたいと思った・・・・。





















そして、あの時。


















を気になっていたものが何なのかはっきりとした形で浮かび上がった。
気が付けばだけを視線で追っていた事に。
そして、常に三蔵に向けられる暖かな視線を欲していた事に。
だから手に入れたかった。
いや、自分以外を見て欲しくなかった。
紅該児は自嘲気味に笑みを零す。
1ヶ月一緒に過ごした時間は、凍り付いた吠登城の中でも幸せな時間だった。
八百鼡や独角兒、そして妹達と共に笑い過ごした日々。
あっと言う間に過ぎていた1ヶ月と言う時間。
そして、突然姿を消してからの時間。
生き地獄のように長い時間に感じられた。
それからは経文を奪う事よりもの捜索を優先させた。
生きていてくれるだけでいい・・・とまでも思いながら。
紅該児はの髪を優しく撫でた。
サラリと心地よい手触りが、紅該児の表情をより一層和やかにする。

















紅該児「・・・お前が起きたら聞いて貰いたいことがある。」












ぽつりと呟く言葉。
夢でも見ているのであろうか?
は微かに口元を上げた。
それにつられるように紅該児の口元にも笑みが浮かんだ。


後書き 〜 言い訳 〜
 
 
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
 
 
あと最終章ものこる所、3つとなりました。
今後も読んで頂けますと幸いです。
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 
更新 2007.12.24
再掲載 2010.10.28
制作/吹 雪 冬 牙


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