『最
遊
記 最終話 〜 FOR REAL 〜2』
阿弥陀「菩薩、入るぞぉ・・・ってお前等何やってんだ?」
池に飛び込むのではないかと思われる程の至近距離で下界の様子を見ている観世音菩薩と
二郎神に半ば呆れながら阿弥陀如来は見つめた。
その言葉に二郎神はすぐに体勢を直して、深くお辞儀をする。
観世音菩薩は特に気にする事もなく、まだ下界の様子に魅入っている。
阿弥陀「おい、上司が来てんだから、顔ぐらい一度あげろよ。」
菩薩「どうせまた茶でも飲みに来ただけだろ?」
ずばり図星をさされては阿弥陀如来も返答出来なかった。
それにしても・・・何をそんなに真剣に覗いているのか・・・?
阿弥陀も池に視線を移した。
そこにはが眠り近くに赤い髪の男が手を握りしめて座っている。
阿弥陀「!?」
驚き阿弥陀も菩薩の隣りに顔をのぞき込む。
菩薩「呆れてたんじゃねぇのか?」
阿弥陀「あれは誰だ?金蝉はどうした、金蝉は!まさかの事を捨てやがったのか!?」
菩薩の服を掴み上げる。
菩薩「おいおい、落ち着けよ。諸ある事情によりは遭難中。そしてそこにあの牛魔王の息子である紅該児が登場。
ヒロインを助けたと言う訳だ。」
阿弥陀「それにしちゃ妙な雰囲気じゃないか。」
菩薩「いま告白しそうだったんだよ。そこにお前が煩く入ってきたから何と言ったか声が聞こえなかったんだ。」
そう言うと菩薩は上司であるにも関わらず阿弥陀如来を一睨みする。
しかしそんな菩薩の視線を気にする事もなく阿弥陀は下界の様子を魅入っていた。
その表情は興味本位と言うよりも、むしろに手を出したら何かしだしそうな感じだ。
菩薩「で、何か用なんだろ?」
阿弥陀「・・・。」
返答はない。
それどころでないようである。
目が本気だ。
菩薩は溜め息を付くと自分の席に座る。
足を組み面白そうに阿弥陀如来を眺めた。
しかし、阿弥陀は未だ持って下界の様子に魅入っていた。
菩薩「二郎神、茶。」
二郎神「かしこまりました。」
菩薩「ふぅ。(やれやれ。)」
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独角兒「八百鼡、一杯つきあわねぇか?」
八百鼡「はい。」
八百鼡の部屋にひょっこりと顔を出した独角兒。
すぐ様部屋に招き入れる。
椅子に腰を下ろすと独角兒はお酒を目の前に置いた。
八百鼡はしながらも独角兒にお酌をする。
独角兒「紅も困ったな。相手は敵だってのに。」
八百鼡「これからは経文だけでない戦いが起きますね。」
すでに想像しているのか八百鼡はクスクスと笑い出す。
そんな表情をジッと見つめる独角兒。
その視線に気付いて八百鼡は首を傾げた。
八百鼡「なんですか?」
独角兒「お前にとっては辛い光景じゃねぇのかなと思ってよ。」
八百鼡「何故ですか?」
キョトンとした表情。
それに独角兒も肩を落とす。
どうして感じんな時は抜けているのだろうか・・・。
独角兒は酒を口にする。
独角兒「紅の事だよ。ずっと見てきてたんだろ?」
八百鼡「はい。命の恩人ですから。」
独角兒「違う。俺が言ってるのは恋と言う意味でだ。」
その言葉を聞いて八百鼡はポカンと独角兒を見つめてしまった。
直後、吹き笑いする。
突拍子もない八百鼡の行動に、独角兒もまた驚く。
八百鼡「(クスクス)違いますよ。主君としてお慕いしているだけです。私にはいませんよ。」
独角兒「そ・・・そうなのか・・・?」
八百鼡「はい。(ニッコリ)紅該児様が好きなのもを好きなのも同じですから。出来ればあのお二方が結ばれて
欲しいとは思います。紅該児様の心休まる所はの所他ならないと思いますから。」
そんなもんかねぇの独角兒は八百鼡を見るが、八百鼡はニッコリと笑みを浮かべている。
そしてその笑顔はやがて優しい笑みへと変わる。
八百鼡「それにしても驚きました。」
独角兒「ん?」
八百鼡「紅該児様がいきなり・・・
その・・・
に・・・
口移しで水を飲ませた時は。」
独角兒「・・・ああ、そうだったな。以外と行動力あるみたいでお目付役としては安心だったがな。」
八百鼡「そうではなく!・・・が知ったら、どう思うか。は女性です。いくら命を助ける為と言っても・・・
その・・・あの段階ではまだ口移しする程でもなかったと思うんです。だから、ショックではないかと。」
独角兒「ショック?」
八百鼡「・・・はい。仮に好きな人だったとしてもいきなりは・・・しかも自分に意識がない時は・・・ショックだと思うんです。だから・・・。」
八百鼡は訴えるように独角兒を見つめた。
独角兒も納得は出来る。
八百鼡の言い分もわかるからだ。
独角兒「大丈夫だ。誰にも口外しない。にも言わない。」
八百鼡「それを聞いて安心しました。それに、三蔵さん達が知ったら・・・。」
八百鼡の言葉を想像して苦笑しか出来ない独角兒。
確実に紅該児は殺される・・・と思った。
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阿弥陀「ちょっと待て!!オイ、菩薩あいつらが言ってるのは本当か?」
菩薩「当たり前だろ。なんで誰もいない所で2人が嘘付き合ってるんだよ。それより、茶が入ったぞ。」
阿弥陀は池から離れ、二郎神から茶を受け取る。
落ち着かせる為に一気に口に含む。
その習慣阿弥陀の表情が一点した。
菩薩「(さらり)涌かしたばっかだから気を付けろよ。」
阿弥陀はあまりの熱さにお茶を吹いてしまった。
阿弥陀「っちっちちちち!菩薩!!そう言う事は早く言え!早く!」
菩薩「あ〜あ、池に吐くなよ。下界に茶が落ちて行ったぞ。」
そう言われて阿弥陀はゆっくりと池を覗き見た。
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バシャ・・・・
三蔵(怒)
悟空「へ?」
悟浄「なんだ?」
「さ・・・三蔵・・・?」
八戒「三蔵・・・その・・・なんでいきなり濡れているんですか?」
三蔵「(激怒)知るか。」
のバイクを運転していた三蔵に目掛けるかのように水が上から降ってきた。
砂漠で辺りは何もない。
バイクとジープは止まる。
濡れたまま下を向いている三蔵。
タバコの火はもちろん消えている。
悟空がくんくんと匂いを嗅ぐ。
悟空「これ玉露だ。」
八戒「玉露・・・ですか・・・。」
どう声をかけていいかわからな一同はそのまま黙り込んだ。
一人、だけは空を見上げていた。
そしてニヤリと笑みを浮かべる。
悟浄「でもなんで茶がいきなり降ってくるんだ?しかも鬼畜坊主の上にだけ。」
三蔵「死にたいか?」
カチャリと銃口を向ける三蔵。
悟浄は両手を上げて降参のポーズを取る。
は興味なさそうにまた膝の上に乗せてあった地図に目を通す。
何故降って来たのか予想がついたようである。
助手席に一人無視を決め込むを見て、八戒は不思議に思った。
八戒「?」
「おおかた菩薩の奴が茶でも零したんだろ。」
その言葉の直後、の頭上から新たに水が勢い良く零れ落ちてくる。
しかも熱い。
「!?熱っ!!!」
八戒「!?大丈夫ですか?」
悟空「!!」
悟浄「一体、なんなんだ?」
ギロリと上を睨み上げる、。
それを見て三蔵も訳を察したらしく銃口を上に向けて引き金を引いた。
4発。
空に向かって連続てきに放たれた弾丸。
の体も玉露の匂いがしていた。
八戒は苦笑する。
八戒「でも、高い玉露のようですね。いい香りです。」
三蔵「嬉しくない。」
「・・・なんで、私まで・・・。」
と三蔵は互いに見つめた。
そこだけ集中して雨に降られたような格好。
悟空はすぐ様鞄からタオルを出した。
悟空「、コレで早く拭けよ。」
「あ、ありがとう。悟空。」
悟浄「なんなら俺が着替えさせてやろうか?」
ニヤリと笑みを浮かべながら助手席に座るに手を伸ばそうとした瞬間、悟空の手によ
ってはばまれる。
悟浄は気にいらなさそうに悟空を見つめた。
悟浄「何すんだ、このアホ猿。」
悟空「に触るな!」
悟浄「いつからお前のモノになったんだ!?馬鹿猿!!」
互いにとっくみあいの喧嘩になる。
八戒はそんな2人見つめる。
三蔵は八戒から着替えを貰い、脇で着替え始める。
八戒「も着替えた方がいいですよ。」
「でも・・・隠れる所ないし。」
八戒「大丈夫です。悟浄、悟空、ジープから下りてください。」
有無を言わさない八戒の笑み。
そういいながら八戒もジープから下りる。
八戒「じゃ、僕達は目を瞑って後ろを向いてますので着替えてくださいね。」
そう言うと三蔵も後ろを向く。
「でも〜・・・。」
悟浄は信用ならないのか、は悟浄を見つめるだけだ。
八戒「では。」
おもむろに悟浄の額に巻かれているバンダナを取り上げると、悟浄の目の前で覆った。
そしてさらに上から八戒が手を置いた。
悟浄「あのさ、いくらなんでもココまでしなくても?(^_^;)」
八戒「が不安に思ってるんです。当然でしょう。」
三蔵「フン。嫌だったらてめぇの行動反省するんだな。」
悟空「そうだそうだ!」
すでに悟空は目を瞑っている。
しかも自分の手で顔まで覆っている。
「じゃ、着替えるね。」
八戒「はい、どうぞ。」
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二郎神「観世音菩薩!?」
菩薩「ナタクの野郎、俺じゃねぇっての。」
もちろんの上にお茶を零したのは観世音菩薩。
阿弥陀如来は唖然としていた。
の呟いた一言に咄嗟に反応した菩薩の行動の速さに。
しかも、今はすでに二杯目のお茶をすすっている。
菩薩「で、何しに来たんだよ。」
阿弥陀「ああ、ナタクの体が消えたんでな。それを言いに来たんだが、お前はもうその理由に気が付いていたみたいだな。」
菩薩「・・・まぁな。」
菩薩はニヤリと笑みを浮かべて池に映るを見る。
菩薩「いつまでも待ってるなんて、あいつらしくねぇからな。いいんじゃねぇの?限りある命の中で悪あがきしながら
生きて行くってのも。それが金蝉やナタク達らしいさ。」
阿弥陀「そうだが・・・このままだとにとっては可哀想な結果にしかならんな。」
そう言う阿弥陀の表情は、暗く俯いた。
菩薩はそんな阿弥陀を見てふとの言葉を思い出す。
『限りある時間でもいい。あの人達の側であの人達を見守っていきたい。
それが私のたった一つの願い。
どんな贖罪でも受ける覚悟はあります。』
そこまで強く想うの心。
誰もが欲していたの信じる心と深い愛情。
それは菩薩も例外ではない。
菩薩「いいじゃねぇか。これはが決めた道。たとえ俺達にとって可哀想な結末であったとしてもアイツは納得して歩んで
いる道だ。俺達はただ見守っていればいいんだよ。と言う一人の神の生き様をさ。500年前のあの事件に終止符を打つ
為に決断したあのの道を。それしか俺達に出来ることはねぇぜ。」
阿弥陀「・・・一人が背負うには重すぎるがな。」
菩薩「一人じゃねぇだろ。」
その言葉で阿弥陀は菩薩の事を見た。
菩薩は池を指差してニヤリと笑みを浮かべたままだった。
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は再び目を覚ました。
辺りはもう陽が落ちて夜のイルミネーションが街中に輝いていた。
ベットの傍らで紅該児が安らかな寝息をたてている。
はニッコリと笑みを浮かべた。
紅該児「ん・・・起きたか?。」
「うん。」
紅該児「ああ、顔色が元に戻ったな。もう大丈夫だろう。」
はベットから体を起こし上げた。
それを見て紅該児は部屋の明かりを付けた。
光りに目が眩む。
紅該児は備え付けの椅子に座り、窓の方に視線を向けた。
も立ち上がり、紅該児の隣りに腰を下ろす。
紅該児「メシでも喰いにいくか?」
「うん。独角兒さんと八百鼡さんは?」
紅該児「ああ、あいつらならさっき城に戻った。妹に報告をしてくるのと、一つ気になった事があってな。」
は不思議そうに紅該児を見る。
紅該児は席を立ち上がると、に手を差し伸べた。
それに手を乗せる。
紅該児「話はメシを喰いながら・・・な。」
そう言われては嬉しそうに微笑んで、部屋を後にした。
街はいまのご時世にしてはかなり活気のある街だった。
宿からさほど遠くない食堂を見付けると、紅該児とはそこで夕飯を済ますことにした。
紅該児「何にする?」
「え?あ・・・そうねぇ。」
いつもなら、ここで悟空が大体のメニューを言い出すから、いつも何も考えずに食事を取っていた。
考えてみると、長く旅をしているが自分でオーダーするのは初めてのだった。
しばらくメニューと格闘する事数十分・・・。
紅該児はそんなを面白そうに眺めていた。
真剣にメニューを見て悩んでいる、そんな姿等想像した事もなく、また見たことも無かっ
たからだ。
紅該児「そんなに悩む事か?」
「だって、いつもは悟空や八戒が注文してくれるから、私で考えた事ないの。」
そう言いながらもはメニューを見つめ続けている。
さすがに紅該児も呆れたのか、近くにいたウエイターを呼びつける。
それにより、がもっと慌てるのは無理もないが・・・。
「え?もう、呼ぶの!?私、何も決めてないよぉ!!」
紅該児「心配するな。おい、ここのおすすめ品を頼む。」
店員「かしこまりました。」
そう言うと店員はさっさと厨房へと姿を消す。
は驚いて紅該児を見た。
そんな視線に疑問に思う紅該児。
紅該児「なんだ?」
「なんか・・・慣れてるね。」
紅該児「どの店に入ってもこう頼むんでな。おすすめが不味いわけないだろう。」
もっともな意見にも笑いがこみ上げる。
紅該児はマジマジとの事を見つめた。
またこうして同じテーブルを囲むことが出来るとは思っていなかった。
自然と紅該児の表情も優しくなる。
紅該児「良かったな、記憶が戻って。」
「うん。でも、前の記憶もちゃんと残ってるよ。」
それを言われて紅該児は少し辛そうな表情になる。
500年前のあのナタク太子と一緒に訪れた。
その時に刃を交え、完敗した事。
そして、その屈辱に堪えられなくて自害をしようとした事。
それを止めたのが、であった事。
ここ数日で思い出した、500年前の紅該児の記憶。
本来ならば殺されなければならなかった父親の牛魔王と母親の羅刹女・・・そして紅該児。
ナタクはそれを完遂しようとした。
しかし、それを止めたのは紛れもなくだった。
『ナタク、涙を流してまで命を奪う必要はない。』
傷だらけのナタクを抱きしめて、そう呟いたの言葉。
そして、はいまはもう倒れている父親と母親に封印を施した。
俺はそれを愕然と見ていることしか出来なかった。
そして、は俺に頭を下げたんだ。
「ごめんね。」と目にいっぱいの涙を溜めて。
そして、俺ととの記憶を消して
・・・俺も封印されたんだった。
紅該児は黙っての事を見つめていた。
おそらくあの時すでにを好きだったのかもしれない。
いまの紅該児には自然に出る答えだった。
「だから、紅の事もちゃんと覚えてるよ♪」
紅該児「・・・そうか。」
店員が料理を運んで来た為にいったん話しを終了させる。
紅該児はの顔をジッと見ていた。
これから話す内容を考えると、辛いのだ。
「いっただきまーす。」
紅該児「ああ。」
言葉少なに食べ始める、と紅該児。
ふとが視線を上げた。
紅該児は何か考えるように箸が止まったままだった。
「紅?」
紅該児「ああ、済まない。宿で話した独角兒と八百鼡の件だが。」
「うん。」
紅該児「・・・三蔵一向に大量の刺客が玉面皇主によって送り込まれたそうだ。」
その言葉には目を見開き、紅該児を見つめる。
紅該児は視線をそらす事無く、淡々と話し始める。
紅該児「おそらく、その襲う場所は・・・ココだ。」
「え・・・?」
紅該児「玉面公主の配下は人間の命など虫けら同等だと思っている。おそらく、この街に潜り込み、街人全員を人質とするだろうな。」
「そんな!!」
は俯いた。
どうすれば良いのか・・・。
そんなを紅該児は黙って見つめる。
そして・・・一言・・・呟いた。
紅該児「止めたいか?」
「え?」
咄嗟には顔を上げた。
それは冗談でもなく、真剣にを見据える紅該児の視線。
は力強く頷いた。
三蔵達の事は別段心配はしていない。
心配なのは街の人々だ。
大きく混乱するに間違いない。
紅該児「・・・条件がある。」
「条件?」
紅該児「ああ。俺と三蔵一行の勝負に決して口を出さないと誓えるか?」
の表情に焦りの色が見える。
でも・・・今は迷っている時ではない。
「・・・わかった。」
声を絞り出すように放つ一言。
紅該児はソレを聞くと、箸を進め始めた。
紅該児の話しよれば、その妖怪ご一行が到着するのは明日ぐらいとの事だ。
それまでに八百鼡も戻ってくる。
さすがに吠登城まで行っている独角兒がそれに間に合うかは、解らないのだが・・・。
3人で迎えうつしかないようである。
と紅該児の食事が済むと、二人は食堂を後にした。
は少し考え事がしたかった。
だから、宿の前で紅該児と別れた。
少し散歩してくると言い残して。
紅該児もの心情を察したのか1時間だけの許可を出した。
は一人、街はずれにある小高い丘に足を運んでいた。
頭上には青白く月が浮かんでいる。
丘につくと、は月を見上げ、手を前で組んだ。
「・・・三蔵・・・。」
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三蔵「!!」
三蔵は新聞からふと視線を上げた。
明日には街に着く。
今日がなんとか最後の野宿になりそうだった。
あらかた戦場のような食事が済み、それぞれ各自が好きな事をしていた時間。
三蔵は木によりかかり、新聞を読みふけっていた。
そんな時、の声がまた頭の奥に響いたのである。
微かに聞こえる声ではなく、確実にハッキリと聞こえたのである。
三蔵は、新聞を折り畳み立ち上がった。
八戒「三蔵?」
いきなり立ち上がった三蔵を不思議そうに見上げる八戒。
しかし、そんな八戒を気に止める事もなく三蔵は街の方角を見つめる。
三蔵「少し散歩に行って来る。」
それだけ言い残すと、三蔵は八戒達から遠ざかった。
歩きながら煙草を口に運ぶ。
『・・・三蔵・・・。』
また声が聞こえる。
三蔵はふと月を見上げた。
そして、近くにある岩に体を預け、煙草をふかし続ける。
しかし、月を見上げるその視線はいつもの不機嫌そうな瞳ではなく、優しい光りが宿っている。
どのくらい月を見上げていたのだろうか?
しばらく月を見上げていた三蔵は、口にくわえていた煙草を地面に捨てた。
そして、両手を合わせ目を瞑る。
小さく・・・
静かに・・・
紡がれる経文の言葉。
三蔵がめったにする事がない、経文の言葉に乗せる想い。
八戒は、すぐに戻ると言ったまま帰って来ない三蔵を心配して、辺りを探しに来ていた。
そこで目に光景に愕然とする。
月明かりを浴びて、神々しいまでの三蔵の姿。
読経をする姿など3年前のあの時以来、見なかった。
あの時三蔵は「俺は死人の為に読経はしねぇ。」と言っていた。
八戒は黙って、三蔵の姿を見つめた。
静かに紡がれる言葉の一つ一つが誰に向かって言っているのか、痛い程解った。
八戒「きっと、聞こえてますよ。」
自分でも聞こえるかどうか程の声で囁き、その場を後にする八戒。
いつもなら人の気配に気付く三蔵。
八戒がいる事すら気付かずにひたすら読経を上げる。
すべてを紡ぎ終えると同時に、三蔵はゆっくりと瞳を見開いた。
そして、月を見つめる。
三蔵「・・・・・・・・。」
優しく呟いた名前は風に乗って、
の元へと運ばれて行く・・・。
後書き 〜 言い訳 〜
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
あと最終章ものこる所、1つとなりました。
今後も読んで頂けますと幸いです。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
更新 2007.12.24
再掲載 2010.10.28
制作/吹 雪 冬 牙
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