最終話 〜 FOR REAL 〜3』

は口元にニヤリと笑みを浮かべた。
三蔵は気付いている。
そう確信があった。
はもう一度月を仰ぎ見ると、その場を後にした。























願わくば・・・



























生きて・・・、
























また逢いたい・・・。




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陽は高く昇った。
と紅該児は軽めの食事を取ると、すぐに町の入口へと向かった。
黙って、砂漠の先を見つめる二人。
とてつもなく数の妖気に、二人の表情は固くなる。
一体何匹の妖怪を差し向けたのか。
そろそろ気が付いても良い頃だとは思った。
数よりも力のある者を結集させて襲うようにしむけろと。
敵ながら、馬鹿さ加減にうんざりする。
しかし、それは紅該児も同じように思っていたようである。

紅該児「。」

紅該児の言葉にはふと視線を上げる。
砂埃を巻き起こしながら近付く妖怪様ご一行。
紅該児とは前と進み出た。
街のすぐ近くで戦っては大技も出せたもんじゃない。
と紅該児はゆっくりと歩を進める。
ある程度街との距離をとると、二人は立ち止まった。
二人の目の前には、数多の妖怪の群。

紅該児「ほう、まだこんなに残っていたのか。ほとんど三蔵達一行に殺れたと思っていたがな。」
「そう?妖怪なんて、人間の負の感情が続く限り増え続けるものよ。きりがないわ。」

は剣を浮かび上がらせる。
一人の妖怪が紅該児に気付く。

妖怪「紅該児様!!お退き下さい!!玉面公主様の命令に逆らうのですか!?」

妖怪はそう叫ぶが、すでに殺気が滲み出ている。
おそらく邪魔する者は誰であろうとも、殺せと命令が出ているのだろう。
紅該児は呆れながらに妖怪を見つめる。

紅該児「三蔵達を襲うのに何の文句はない。ただ、街の人々を巻き込むやり方が納得いかん。説明しろ。」
妖怪「甘いんですよ、紅該児様は!人間なんか下等な生き物。生きててもなんの特にはなりませんぜ!!」

その言葉に怒りを露わにする
チラリと紅該児はを見る。

紅該児「三蔵一行を殺るのはこの俺だ。お前等は帰れ!帰らぬのなら・・・。」

そう言うと、紅該児は手に剣を浮かび上がらせる。
その場にいた全員の殺気が上がる。

妖怪「・・・紅該児様だろーが、構まねぇ!!許可は出てんだ!!やっちまえ!!」

その言葉にはニヤリと笑みを浮かべる。
















「やっと、本音が出た。」














そう呟くと同時に戦闘が開始された。
と紅該児は目の前にいる何百匹と言う妖怪に攻撃を仕掛けられる。







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悟空「あー腹へったぁ。」
「もうすぐ街だって言ってたし、我慢我慢!」


子供をあやすように悟空の頭を優しく撫でる
そんな微笑ましい光景。













キィィィィィィ
















八戒がいきなりジープを急停車する。
驚く以下の二人。
三蔵もバイクを止めて、前を睨み付ける。
そこには一人の少女が立っていた。



八戒「八百鼡さん・・・。」




八百鼡は深々と頭を下げる。
しかし、息は上がっている。
何かがあったのだろうか?
八戒は運転席から達上がり、八百鼡に近付く。

八戒「お久しぶりですねぇ、どうかしたんですか?」

その言葉に八百鼡は顔を八戒に向ける。
尋常でないその表情に八戒も少し怪訝に思う。

八百鼡「八戒さん、早く・・・早く街へ!!」
八戒「ともかく落ち着いて下さい。悟空、お水を。」

そう言われて悟空は出納を八戒に渡す。
八戒は八百鼡に水を渡すと、申し訳なさそうに、一口だけ口をつける。
いつのまにかバイクから降りてきた三蔵が八百鼡を見下ろす。

三蔵「何故、街に急がねばならん?」
八百鼡「が・・・」

その言葉に全員が反応を示す。
八戒は珍しく八百鼡の両肩を掴み、激しく揺さぶる。

八戒「がっがどうしたんですか!!八百鼡さん!!!」





三蔵「・・・悟空、八戒を押さえとけ。話が進まねぇ。」







の事になると殊の外冷静を失われる八戒。
余程、を手放し事に罪悪感があるのだろう。
過去の傷とダブらせているのかもしれない。
悟空と悟浄は八戒をジープへと戻す。
三蔵は再び八百鼡を見つめた。

三蔵「どういう事だ?」
八百鼡「あなた方を襲う予定だった妖怪が街を先に襲おうとしていたのです。そこでと紅該児様が止めに入られているんです。」
ちゃんは、次の街にいるんですね!?」
八百鼡「はい。砂漠の真ん中で遭難していた所を紅該児様が見付けられて、次の街で介抱いたしました。
その時にその情報が入ってきたんです。」
「じゃ、ちゃんは無事なんですね!?」

の嬉しそうな顔。
いや、一行全員の安堵した表情。
三蔵は無言でバイクにまたがる。

悟空「三蔵?」
三蔵「・・・確かに、いつもとはケタ違いの妖気だ。」

街の方を見つめる三蔵。
それに八戒と悟浄も頷き、先を見る。
素早く全員はジープに乗り込んだ。

八戒「八百鼡さんも、どうぞ。」
八百鼡「いいえ、私は飛龍がありますので。」

それだけ言うと八百鼡は風と共に姿を消してしまった。
くわえ煙草でその場をみつめる悟浄。

悟浄「風と共に去りぬってか。」
八戒「ともかく急ぎましょう!舌を噛まないようにしてくださいね。」

そう言うや否や三蔵と八戒は車を急発進させる。
三蔵達が感じ取る大量の妖気。
このままではたとえ紅該児がいたとしても、がただでは済まない。
そんな予感が一行にはあった。


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次から次へと止めどなく出てくる妖怪の数。
さすがのも肩が激しく上下に揺れていた。
背中合わせに紅該児とその妖怪を見据える。

「さすがに二人だとキツイわね。」
紅該児「・・・まぁな。」

この妖怪達は、よく達の行動を研究しているとは言えば、研究しているようであった。
まず、紅該児との大技を出させない為に、呪を唱える隙を与えずに攻撃を仕掛けてくるのだ。
その所為で、普通戦術しか使えない紅該児とは苦戦を強いられていた。
此の戦いは玉面公主の他に誰かが入れ知恵をしているとしか思えない。
はチラリと妖怪全体を見る。




どれが参謀か・・・。





「紅、時間稼ぐから大技カマしてくれる?」
紅該児「・・・わかった。巻き込まれるなよ。」
「んなドジはしない。」

そう言うとは妖怪に自ら斬りかかる。
紅該児を守るように妖怪を凪払い続ける。
その間に紅該児は呪を紡ぎ始める。
の肩に剣が突き刺さる。
一瞬苦痛に顔を歪めるが、は直ぐさまその相手を切り刻む。
の戦術の得意とするのは、一対一よりも多数対一人の戦術を得意とする。
そうでなければ、生きて行けなかったのだ。
の天剣とまで言える華麗な剣術が見えるのも、珍しい事ある。
紅該児は目を見開いた。

紅該児「どけ!!!!

そう叫ぶと同時に召喚した鬼が姿を現す。
はニヤリと笑うと、その場から姿を消して紅該児の背後へと回り込む。


























ドカーーーーーーーーーーン!!




























凄まじい爆風と爆音。
天地がひっくり返ったのではないかと思われるその大技に、数百匹の妖怪が餌食となっていた。



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悟空「なっなんだぁ!?今の音!!」
八戒「恐らく紅該児が大技をぶちかましたってトコでしょうね。」

目の前に広がる、砂埃。
八戒はアクセルを思い切り踏む。

八戒「急ぎますよ!!」

上空では飛龍に乗った八百鼡が心配そうに先を見つめていた。


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「さすがは、牛魔王の息子ね。」
紅該児「煩い。」
「照れない照れない。」

それでもまだ目の前には数多の妖怪の数。
それにはさすがのを肩をがっくりと落とす。

「しかし・・・よくもまぁこんだけ集めたわね。」
紅該児「・・・本当だ。」

奮迅が無くなると、妖怪はまたと紅該児を囲み始めた。
時間が経てば、確実に袋叩きに合う。

「っ・・・」

の小さな言葉で紅該児はを見た。
鮮やかな鮮血が体のあちらこちらから流れている。

紅該児「思えばお前と逢う時は、いつも血だけだな。は。」
「なに、それって500年前の話し?」
紅該児「ああ。」
「まぁね、那托の道を作るのが私のお役目だったから多少の無理もするわよ。」
紅該児「そこまで大切だったのか?」
「・・・ええ。私の命と同等にね。」

紅該児は以外そうな顔をした。
普通なら命よりも大切と言うであろう。
しかし、はそうは言わない。
確かに、記憶を無くしたも殊の外、紅該児が怪我して帰ってくると悲しんでいた。
もっと体を大切にしてくれと、涙の溜まった瞳で言っていた。
それはここからくるものだと察する紅該児。




紅該児「命より・・・ではないのか?」











「命を捨ててまで守っても意味ないでしょ。自分がいて相手がいて、それが一番なんだから。
大切な者を残して死んでは・・・駄目よ。それは所詮、偽善でしかない。」










何か思い詰めたようなその言葉。
紅該児はに何か話そうとした瞬間だった。





ガウンッ


ガウンッ



ガウンッ!!!







瞬時にが顔を上げる。
聞き慣れたその銃声。



悟空「トリャアアアアア!!!!!!
悟浄「いいねぇ、馬鹿力は。
八戒「必殺・・・害虫駆除!!!!!!!




そして、その声。
の瞳に涙が滲み出る。




逢いたくて・・・




















逢いたくて・・・






















仕方がなかった・・・


















仲間。






















やっと・・・
























逢えた・・・。
























の視界がぼやける。
いつもの笑顔で気功術を放つ八戒。
悟空と悟浄のコンビで次々と切り刻まれる妖怪。
そして、ジープを守るように防御壁を作り続けている

「みんなッ!!!!!」
妖怪「死ねぇ!!」

と紅該児が一行に気を取られている隙に攻撃を仕掛ける妖怪。
紅該児も気が付くのが一歩遅く、動けなくなる。
は瞳を閉じた。













ガウンッ!!











妖怪「うぎゃぁ!!!!」




ゆっくりと瞳を開ける、
目の前にいる金髪の男・・・三蔵。
は黙って見つめた。








































「三・・・・蔵・・・・。」



























三蔵はの髪にそっと触れる。
愛おしそうに見つめる三蔵の視線を受けて、は呆然とする。
何度か頭を撫でられる。



























三蔵「。」
























久しぶりに聞く、三蔵の声。























「三蔵・・・。」

























三蔵「・・・。」























もう一度優しく呼ばれる。
は黙って三蔵を見上げた。
周りでは妖怪の悲痛な叫びがこだましている。
そんな二人がムードを出し切っているのを見て、悟浄が呟く。

悟浄「オイオイ、今の状況わかってんのかねぇ、あの二人。」
悟空「いいじゃねぇか!が無事だったんだし!俺、嬉しい!!」

そんな事を言いながらも、次々と妖怪の死骸が山を作っていく。
























三蔵「・・・覚悟、出来てるな?

後書き 〜 言い訳 〜
 
 
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
 
 
次回作品で、まずは完結となります。
あともう少しだけ、お付き合い頂ければ幸いです。

 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 
更新 2007.12.24
再掲載 2010.10.28
制作/吹 雪 冬 牙


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