『 高 見 を 目 指 し て 4』

試合が終わり、コートに部長が入って来た。
すでにコートで伸びている先輩をチラリと横目で見る。
その怖さと言ったら・・・。
は冷や汗をかいてその場を見守っていた。
もしかして・・・殴られるのかな?
そんな事を頭に思い浮かべていた直後、気合いの入った部長の怒声が飛んだ。

「オマエ等、グランド60周だ!!!」

え?
考えていた展開と違っていた所為か、はキョトンと部長の後ろ姿を眺めていた。
それにしてもグランド60って・・・。
先輩達は疲れている体に鞭をウチながらも、ヨロヨロと立ち上がってグランドへとかけていった。



ご愁傷様・・・。



心で呟きながら見送ると、ふと部長がこちらを振り返った。
条件反射と言うか、すぐ近くにいた不二先輩の後ろになんとなく隠れてしまった。
不二先輩は相変わらず笑顔でいるのだが・・・。

「手塚、そんな凄んだ顔のままじゃさんが恐がるよ?」

うわぁ、なんて事を言ってしまうのだろうか、この先輩。
は自分もグランド60かと覚悟して目を閉じた。
その時である。


「すまなかったな。」
「はい、走って・・・え?すまなかった?」

走って来い!と言われる覚悟していたがついつい思っていた事が口をついて出た。
だが、部長からは謝罪の言葉。
訳がわからずに部長の事をみつめると、ふとリョーマとの手に持っているふるいラケットに視線を落とした。
ああ、そう言うことか。
やっと理解出来たはニッコリと笑みを浮かべた。

「別に平気です。ね、リョーマ?」
「・・・。」

無言かい・・・。

「うんそうだね。」くらい賛同して欲しかったのだが、考えてみればリョーマにそんな事頼める訳もない。
苦笑しながらは手塚の事を見た。
すると手塚はふとレギュラー陣のいるコートを眺めた。

「これからコーン当てをする。オマエ等も参加しろ。」

それだけ言うと手塚は竜崎の元へと歩いて行った。
コーンあて?
が不二先輩の事を見ると、やはりニッコリとした笑みのまま。

「レギュラーメンバーの特別メニューだよ。三種類の色のボールがあって、それと同じコーンに当てていくんだよ。」


ふーん。




そう言えば前にお父さんにそんな練習させられたな。
その時は5種類のボールだったけど。
はふとリョーマの事を振り返った。
リョーマはに近付き手を出した。

「それ、置いてくる。」

そう言って差し示したのは、古いラケット。

「ありがと。」
「別に。」

短い会話。
端から聞けばなんと愛想のないリョーマと思われがちだが・・・
はニッコリと嬉しそうにリョーマの後ろ姿を見つめていた。
2日間で分かったこと。
それはリョーマが凄く優しい人間であること。
さっきのラケットにしても、今にしても、さりげなく優しくする。
ただ、生意気な言葉付きだからそれに気付く人は少ないだろうけど。
不二先輩に連れられてレギュラーのコートへ。
周りの1年も、そして女テニの人達も何やら集まってヒソヒソと話している。
どう考えても攻撃的な視線だ。
リョーマは軽く溜め息を零した。
ラケットを置きにフェンスに近付いたから聞こえた内容。

何よあの子・・・不二様に近付いて。生意気ね。

リョーマはチラリとその子達を見た。
さっきから聞こえた黄色い声援・・・こいつらか。
煩いと思っていたのだが。
よくみればフェンス越には色々な女達が騒いでいる。
おそらくレギュラーメンバーのファンの子達なのだろう。
が一緒に会話をする度に小さくブーイングを出している。
リョーマはラケットを肩に担いだ。

「ねぇ。」

突然話しかけられて、一斉に女達がリョーマを見つめた。

「なーに?」

きゃぴきゃぴした感じで、甲高い声。
リョーマの一番嫌いなタイプ。
そして通り過ぎがてら一言。

「煩いんだよね。」

その直後、リョーマの後ろからは「何よあのガキ!!!」とか「チビ!!」とか有りとあらゆる罵声が飛んできた。
突然煩くなったギャラリーに初めては気が付いた。
罵声を浴びせられながら来るリョーマ。
の隣りに来たリョーマをマジマジと見つめてしまったにリョーマは軽く見上げた。

「何?」
「・・・女って敵に回すと怖いよ?」
「別に、関係ないよ。」

リョーマらしいな。
はそう思いながら指定されたコートに入る。
球出しは、部活内で一番背の高い先輩だった。
逆斜の眼鏡が怖い。

「俺は3年の乾。じゃ、初めてみようか。」

乾先輩ね。
は頷くと構えた。
みんな気になるのか手元を休めて、なんとなくに視線が集中する。
しかしはそんな事は気にしていなかった。
構えに入った瞬間、周りの音は一切消えてしまう。
集中するのが早く、長く持続する・・・これも父の努力の成果である。
最初はゆっくりと球だししていた乾だったが、あまりにも正確なのコントロールに驚いていた。
その時である。
竜崎の怒声が響いた。

「乾、そいつに容赦は無用。レギュラーと同じ速さでいい。」

そう言われて突然乾のスピードが上がった。
少し驚いた表情を見せただったが、確実にコーンに当て行く。
そのフォームの美しさに、部員はみとれるばかり。
竜崎ですら「さすがだねぇ。」と呟いて感心しているようだった。
20球近く打っても、未だに外さない
乾は少し考えて球出しと同時に言葉をかけた。

、それは黄色じゃないのか?」

実際にとばしているのは青ボール。
レギュラーメンバーがいつもこの手にひっかかるのだが・・・。
はそんな事気にせずに青のコーンへと叩き込む。
手塚ですら感嘆の声を上げずには射られなかった。
50球で終了した
見事全てをオールクリアしたに部員全員が拍手した。

「え・・・?」

別にそんな大変な事をしたと思っていない
取りあえず笑顔でごまかした。
つづく

後書き 〜 言い訳 〜
 
 
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
 
よろしければ、続きもご覧下さいますと
幸いです。
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

執筆日 2010.12.03
制作/吹 雪 冬 牙


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