『 も う 一 つ の 話 し 〜第一章 出会い 2〜 』


有希子の車に乗って着いたのは一つの家。
白を貴重としている家だ。
インターホンを鳴らすと、しばらくして大人の男の人の声が聞こえた。

「ん?」
「どうしたの?蘭ちゃん」

なんだろう?
どっかで聞いたような声なんだけどな。
首を傾げて、玄関を見つめていると、一人の背の高い男の人が姿を現した。

「やぁ、いらっしゃい。おや、とても可愛いお嬢さんをお連れだね。」
「はい。私の親友の子なんですけど、息子に置いてけぼり食らわされてしまって。」
「ふーん・・・なるほど。ご子息はよほど紳士なようですな。」
「へ?」

意味も分からずに有希子は、男の事を見つめた。
男はしゃがみ込んで、蘭と同じ視線になった。
ニッコリと笑み浮かべた。
そして・・・手を差しだそうとした瞬間だった。
男の下からさらに小さな手がニュっ!っと出て来た。
蘭は驚いて、その手を見つめていた。

ポン!

小さな音と共に、一輪の薔薇がその手から出て来た。

「うわぁ!!!!」

蘭は輝くばかりの笑顔でその薔薇を見つめた。

「綺麗!!」
「君、可愛いから、コレあげる!!へへへ♪」

ニカッとした笑顔で男の下から出て来たのは・・・

「快斗・・・。」

呆れたような声。
服が汚れてしまっているのに、苦笑しながらも男は快斗と呼ばれる子供を蘭の前へと立たせた。

トンと快斗の頭を叩いた。

「まったく、お前と言う奴は。」

快斗はぐいっと蘭に近づいた。
手に持つ薔薇をさらに蘭へと近づけた。

「はい!オレ、黒羽快斗って言うんだ。よろしくな!」
「え?貰ってもいいの?」
「うん!」
「ありがとう!私は、毛利蘭って言うの。」
「蘭ちゃんか、かわいい名前だね!父さん、蘭ってお花の名前にあったよね?」

クルリと振り向けば、有希子と父親は呆然と二人の行方を見つめていた。
いきなりナンパをした息子。
顔を赤らめる蘭。
この出会いが、大きくなってから狂わせるとは、この時点では誰も気付いていない。

「快斗・・・。」

はぁ・・・とため息をつくと、男の人はもう一度しゃがみ込んで両手を蘭の前へと差し出した。
蘭はその両手を上から見下ろすように見つめた途端。


ポン!


先程と同じような音。
だが、その手にあったのは、薔薇一輪ではなく。
小さなブーケ状になっている花束だった。


「可愛いお嬢さんには、花束の方がお似合いかな?初めまして、お嬢さん。私は快斗の父の
黒羽盗一です。」

みるみると蘭の顔に先程以上の笑みがこみ上げる。
それを受け取ると、天使のような笑みを見せた。

「な・・・。」

そんな蘭の表情に、快斗は真っ赤になって硬直してしまった。
息子を少し意外そうに見つめた盗一は、一瞬にして吹き出してしまった。

「ありがとうございます!快斗君のお父さん♪♪」
「いえいえ。さ、中へどうぞ。」
「お邪魔致します。」

玄関に入ろうと、蘭を振り返るとそこには蘭はいなかった。
何故なら、丁度自分の下を快斗が蘭の手を持って、中へと誘っていたからだ。
駆け足で、玄関に向かう二人。
有希子はあっけに取られてから、笑いがこみ上げて来た。

「あらあら、新ちゃんにライバル出現って所かしらね。ククク。」



有希子と盗一が仕事をすると言うので、蘭は快斗の部屋へと連れて来られた。
「じい」と呼ばれる初老のお爺さんが、蘭たちにお菓子とジュースを運んで来たが、すぐに部屋から出て行ってしまった。
蘭は、グルリと快斗の部屋を見回した。



見た事のない道具。



見た事のない写真。


そして・・・

「うわぁ・・・かっこいい!」
「へへへ。それ、オレのとーさんなんだ♪マジシャンっての。」
「まじしゃん?」

蘭が首を傾げると、快斗は得意げに頷くと、蘭をテレビの前へと招き寄せた。
そこにジュースなどの載っているお盆も置く。
下に添え付けられたビデオをテープをセットすると、再生ボタンを押した。
テレビの画面の電源を入れて、蘭の隣へと座った。

「何?何を見るの?」
「へへへ!まーまー。」

薄くらい会場。
深紅のカーテンが掛かるステージ。
小さな机が一つあるだけ。
しばらくして、盛大な拍手が聞こえてきた。
白い衣装に身を包んだ、盗一が姿を現した。

「わぁ♪快斗君のお父さん!」
「そ♪驚くのはもっと早いぜ?」

尊敬する父親のマジックのテレビを堪能し、時には蘭に解説して。
興味津々の蘭は、快斗に色々な質問をしては、難しい顔をしたり、嬉しそうに笑みを浮かべたりしていた。
そんな二人には、時間などあっという間に過ぎてしまう。
ビデオを何本が見終わった蘭が、ふと窓へと視線を向けた。
すでに夕日が傾いてる時間。

「どうかしたのか?蘭ちゃん?」
「・・・なんで、新一は・・・私に『工藤』って呼べって言うのかな?」

ポロポロ・・・と蘭の瞳から涙がこぼれた。
快斗は驚き、蘭の肩に手を乗せた。

「蘭ちゃん、誰かに虐められてるのか?だったら、オレがやっつけてやる!!」
「ちが・・・違うの・・・新一が、もう子供じゃないから、『工藤君』って呼べって。
蘭の事も『毛利さん』って呼ぶって言うの・・・。」
「男・・・友達・・・?」

だよなぁ、名前からして。
コクンと頷く蘭。
必死に泣くのを我慢しようとしてるのか、乱暴に腕で涙を拭い去る。
あんなに天使みたいな蘭ちゃんを泣かせている「新一」と言う奴が許せなかった。
どんな理由があるしろ、蘭ちゃんを泣かしてる。
それだけで怒りは十分だった。

「蘭。」
「へ?」

呼ばれて、蘭は顔を上げた。
目の前には、ティッシュ箱を抱えた、快斗。
俯いて、何も話さない。

「快斗・・・君・・・?」
「オレが蘭って呼ぶ。それじゃ駄目か?」
「だ・・・駄目じゃないけど・・・。」
「オレの事も、快斗って呼んでいいから!な?」

ティッシュ箱から2・3枚ティッシュを出すと、蘭へと無理矢理に押しつけた。
最初は呆然としていた蘭。
フイと顔を背けた、快斗。
蘭の顔から、涙が止まり・・・だんだん笑顔が出てきた。

「うん!蘭も快斗って呼ぶ!!!快斗!!快斗!!」
「へへへ、オレだって!蘭!蘭!」

ニィっと互いに顔を合わせて笑みを浮かべる。

「それに、どんな呼び方したってそいつと友達じゃなくなる訳じゃないだろ?」
「・・・うん、そうなんだけど。」
「だったら、いいじゃん♪友達じゃなくなるってんなら、オレが行って「なんでそんな事言うんだ!」
って言いに行くけど。友達のままなんだろ?問題ないよ!なっ!」
「うん!そうだね!!」


その後、双六をしたり、カードゲームを教えたり・・・
二人は日が暮れるまで部屋で遊んでいた。




コンコン





「快斗、蘭ちゃん。そろそろ、お帰りの時間・・・おや。」
「え?・・・あらまぁ・・・。」

有希子と盗一が見たものは・・・
部屋のベットで仲良く手を繋いで眠る子供の寝顔。
部屋の散らかしをみれば、一目瞭然。
疲れ果てるまで遊んでいたのだろう。
そんなほほえましい二人に、盗一と有希子は互いに視線を合わせた。

「快斗君に会って、良かったみたいですわ。」
「と、言いますと?」
「ちょっと蘭ちゃんの事、心配してましたから。」
「なるほど…それで連れて来られたわけですか。確かに優作君が言うように、
特別なマジックかもしれませんな。快斗にしか出来ない。」
「ですわね。」



つづく


後書き 〜 言い訳 〜
 
 
こちらのシリーズは、以前にブログでお試しに掲載していた
作品になります。
 
 
ここまで読んでくださり
心より深くお礼申し上げます。
 
 
これにこりず、次も読んで頂けますと幸いです。
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

再掲載 2010.10.30
制作/吹 雪 冬 牙


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