『 も う 一 つ の 話 し 〜第一章 出会い 3〜 』
目を冷ました時は、朝だった。
「快斗・・・?」
辺りを見渡しても、快斗の姿はない。
まるで魔法が解かれたかのような、感覚だった。
ちゃんとパジャマも着て、自分のおうち。
夢?
快斗と言うお友達が出来て、一緒に遊んで・・・。
急に悲しくなった蘭は、ふと自分の手元を見つめた。
一生懸命に握りしめていたのは、一輪の萎れかけている薔薇。
「うわぁ!」
それを見た瞬間、蘭は嬉しそうに笑みを浮かべた。
夢じゃなかったんだ!!
扉を開ければ、お母さんが忙しそうに何かをやっていた。
「あら、蘭。起きたの?お腹すいてるでしょう?御夕飯も食べないで」
「大丈夫。おかーさん、これ・・・。」
小さな手のひらで出したのは、萎れかけている薔薇。
おかーさんは苦笑しながら、その薔薇を受け取った。
「どんなに言っても、絶対に離さなかったのよ?それと、あれもね。」
そう言われて玄関に飾ってある花束。
久しぶりに蘭の顔に笑顔が戻った。
その事に恵理はほっと一安心した。
「おかーさん、し・・・じゃなくて、『工藤君』の所に電話かけて。」
「え?工藤君?工藤君って、新一君の所?」
「うん♪」
「ええ・・・いいけど。」
そう言うと、恵理は工藤家へと電話をした。
すぐに出たのは、息子の新一だった。
「こんにちは、新一君?ちょっと待ってね、今蘭に変わるから。はい、新一君よ。」
「ありがとう、おかーさん。」
にっこりとする蘭。
受話器を取ると、蘭はチラリと花束を見つめた。
よし!っと気合いを入れると、蘭は口を開いた。
「あ、もしもし?おはよう!」
「はよ・・・その・・・昨日は、先に行っちまって・・・その・・・悪かったな。」
「ううん、その変わりに『工藤君』のおかあさんに、素敵な所につれて行ってもらったから、平気だよ。
ありがとうございましたって伝えておいてね。じゃーね、『工藤君。』」
「え・・・な、ら。」
受話器を置くと、蘭はちょんと胸に手を当てた。
ちょっと痛いけど・・・でも大丈夫だよね。
ね?っと薔薇に心の中で話しかける。
「ちょっと、蘭。新一君の事、工藤君ってどうしちゃったの?」
「えーいいじゃない、呼び方なんてなんでも♪支度してくるね〜。」
部屋に入る蘭が、少しだけ大人になったような気がした。
思春期と言うのだろうか。
恵理も蘭の中で何かを解決したのならば、それでいいかと。
コップに入れた薔薇を見つめた。
有希子が寝ている蘭を、送ってくれた時だった。
「あら、この薔薇は?」
「んふふふ♪蘭ちゃんにとっての、赤薔薇の王子様って感じかもね。」
「王子様?新一君の事?」
「ちっちっち。残念ながら新ちゃんじゃないのよねー・・・ってうわぁ!!こんな時間!それじゃーね、恵理ちゃん♪」
「ああ、ありがとうね。」
ふと昨日の夜の会話を思い出した。
赤薔薇の王子様・・・か。
つづく
後書き 〜 言い訳 〜
こちらのシリーズは、以前にブログでお試しに掲載していた
作品になります。
ここまで読んでくださり
心より深くお礼申し上げます。
これにこりず、次も読んで頂けますと幸いです。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
再掲載 2010.10.30
制作/吹 雪 冬 牙