『 も う 一 つ の 話 し 〜第二章 雨 1〜 』
「ふわぁぁぁ。」
「蘭姉ちゃん、何かあったの?随分と眠そうだね。」
コナン君に指摘されて、蘭は苦笑するしかなかった。
まさか、屋上で朝まで怪盗キッドと身の上話しをしてました・・・なんて言えるはずがない。
「あ、ちょ、ちょっと眠れなくて。大丈夫よ。」
慌てたように台所に立つ蘭。
その脇にコップに入ってる一輪の深紅の薔薇。
あんなもん、昨日あったっけ?
「ねぇ、蘭姉ちゃん。そのお花どーしたの?」
「え?」
一瞬の沈黙。
その直後に少年探偵団が、迎えに来てしまった。
蘭は慌てたように、そちらへ向かう。
俺は椅子を使って、その薔薇を手に取った。
なんだ?この薔薇。
どっかで見たような・・・??
「ほら、コナン君!みんな来てるんだから、早く学校に行きなさい。」
抱っこをされて椅子から下ろされる。
俺は気になる薔薇を、一度視界に納めてから、少年探偵団の奴らと学校へと向かおうとした。
同じタイミングで、鈴木園子が現れたものだから、一緒に途中まで行く事になった。
「そう言えば、新一君から連絡ってあったの?」
「工藤君なら、一昨日あったよ。相変わらずな感じだったよ。」
「ふーん・・・まったく、こんなに可愛い奥さんほったらかして、何してるんだか。」
「奥さんじゃないわよ!!」
赤くなって否定する蘭をチラリと見上げた。
そう言えば・・・蘭が俺の事を「新一」って呼ばなくなってもう10年にもなんのか。
はぁ・・・
なんであんな事を言っちまったのかなぁ。
俺は途中から「蘭」に戻したと言うのに、蘭は意地になってるように「新一」の名前を口にしなくなった。
俺は気になって、蘭の事を見上げた。
「ねぇ、蘭姉ちゃん。」
「なーに?コナン君?」
「なんで新一兄ちゃんの事を「工藤君」って呼ぶの?新一兄ちゃんは蘭って呼ぶのに。」
言った瞬間に園子が、その話題にふれるなよ!!って顔を引きつらせていた。
俺はニコニコと子供バリバリの笑顔を顔に貼り付けて、ただ
『無邪気に聞いてます』
って言うのを通した。
蘭は少しだけ考えてから、嬉しそうに笑った。
「どんな呼び方をしても、仲は変わらないからね。それに、やっぱり下の名前は、工藤君の特別に
なる子が呼ぶものだろうしね。」
「えっ・・・。」
特別・・・。
俺の前を歩いて行く蘭。
それってつまり・・・。
蘭にとっては、俺は「特別」な枠に入ってねぇって事・・・なのか・・・?
ってか、そこまで言うなら、俺が蘭って呼ぶのにも気付よ!
バカ蘭。
心の中で、愚痴っていると信号で蘭が驚いて立ち止まった。
「あれ?快斗ーー!!!快斗!!!」
手を大きく振って、下の名前で呼ぶ男。
快斗?誰だ、それ。
信号が青になると蘭は、通学路でもないのに、信号を渡って快斗と呼ばれる男に近づいた。
「園子姉ーちゃん、知り合いじゃないの?」
「私、知らないわよ・・・あ!もしかして・・・。」
もしかして?
俺の知らない事なんてあったっけ?
いつも蘭と一緒にいたと思うんだが・・・おっちゃんの方面の知り合いか?
警察関係者の子供か?
そいつと話している蘭を見て、俺の胸はドクン・・・と一際大きく鼓動を打った。
息が止まったような感覚。
昔の・・・
まだ、俺の事を「新一」と呼んでいた頃の
あの表情だった。
楽しそうに話す蘭に、携帯を取り出すと互いにアドレスの交換をする。
次に信号が変わるまでには、蘭はこちら側に戻って来ていた。
「蘭!もしかして、彼が例の!?」
目がらんらんと輝いた園子に、ちょっと顔を赤らめた蘭の表情。
なんだ、これ?
俺は黙って蘭の事を見つめていると、あの男が走って横断歩道を渡って来た。
「蘭!」
な?!
なれなれしく呼び捨てにする男に、俺は驚きが隠せなかった。
チラリと俺の事を見つめた快斗と呼ばれる男は、ニカッ!と笑うと蘭の頭にトンと黒い
折りたたみ傘を当てた。
「痛っ。」
「蘭、これ持っとけよ。多分、雨が降ると思うし。」
「でも、快斗が濡れちゃうよ?」
「いいよ、俺は。んじゃ、放課後な!」
「ありがと!快斗!」
軽く手を上げると、快斗と呼ばれた男は、見えなくなってしまった。
なんなんだよ、あのなれなれしさ!!!
蘭も蘭だぜ。
嬉しそうな顔しやがって。
バーロ。
んだよ。
ツーンと顔を外に向けて、俺は小学校へと歩き出した。
むろん、学校にいる間もさっきの事が頭から離れなかった。
どっかで聞いた記憶がある。
快斗・・・
快斗・・・
快斗・・・。
くそっ!!
思い出せねぇ。
なんだ・・
思い出せ・・・
思い出せ・・・。
俺が一人考え事をしていると、元太達がサッカーボールを持って近づいて来た。
「おい、コナン。何やってんだよ。早くやろーぜ?」
「そうですよ、お休み時間なくなっちゃいますよ。」
「・・・はぁ。」
駄目だ、わからねぇ。
体でも動かせば、少しは何かヒントでも見つかるかな?
俺は元太達につきあって、サッカーして遊ぶ事にした。
快斗と言う人物が誰なのかを思い出すのが精一杯で・・・「放課後の約束」がすっかり
頭から抜け落ちていた。
それに気付いたのは、毛利のおっちゃんの事務所に戻った時だった。
「ただいま・・・あれ?」
いつもなら、蘭の「お帰りなさい」って言葉があるのに、それがない。
ってか、言われる事に慣れてしまってる自分が笑える。
「おじさん、蘭姉ーちゃんは?」
「あ?なんたらって奴と会ってくるとか言ってたぞ。」
!?
『それじゃ、放課後な!』
その言葉を思い出して、俺はランドセルをソファへと投げつけた。
そして、半分寝かけているおっちゃんの前に行った。
「おじさん、それって「快斗」って人じゃない?ね!?おじさん!!!」
「知るかよ。昔の友達とかなんとか言ってたぞ。」
「場所は?ね、どこに行くって言ってた?」
「んなことまで知らねぇーよ。」
くそっ!
慌てて外に出ると、俺は携帯を手に取って園子へと連絡を入れた。
つづく
後書き 〜 言い訳 〜
こちらのシリーズは、以前にブログでお試しに掲載していた
作品の続きになります。
ここまで読んでくださり
心より深くお礼申し上げます。
これにこりず、次章も読んで頂けますと幸いです。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
再掲載 2010.10.31
制作/吹 雪 冬 牙