『 も う 一 つ の 話 し 〜第二章 雨 2 〜 』
「はーい、もしもし?」
「園子姉ーちゃん?今って蘭姉ーちゃんと一緒にいるの?」
「蘭?蘭とはとっくに別れたよ。蘭の奴、すっごい嬉しそうに駅の方に歩いて行ったわよ。
明日、みっちし聞いてやるんだから。赤薔薇の君の話!」
赤薔薇の君?
「!!」
瞬時に思い出したのは、台所の一輪の薔薇。
そして、小学校三年生くらいまで、かーさんが蘭に定期的に一輪の薔薇を上げていた事を
思い出した。
そのまま園子との電話を切ると、次にかーさんへと電話をかけた。
「新ちゃーん?珍しいわね、貴方の方から連絡くれるなんて。」
「かーさん、ガキん頃に蘭に薔薇やってたよな?」
「薔薇−?えー・・・。」
記憶にないのか、しばらく考え込む母親に、脱力する新一。
なんでどうでも良い事には、本当に思考が動かないんだろうか・・・かーさんは。
「優ちゃん、薔薇って覚えてる〜?私、蘭ちゃんに上げてた?」
遠くの方にいる親父に声を掛けるかーさん。
それに答える親父の声が、小さくて聞こえない。
「かーさん、とーさんに変わって!!」
「はいはい。」
かーさんじゃ埒があかないと、親父に変わってもらった。
「赤薔薇の君。」
電話に出た途端に出た言葉。
それではっきりと思い出した。
かーさんがいつも言ってた言葉だ。
「赤薔薇の王子様からよ。」って。
その度に蘭が嬉しそうな顔をするのが、面白くなくて・・・。
ちょっと待てよ・・・確か、かーさんとどこかに行ったとか言ってたよな。
「とーさん、その『 赤薔薇の王子 』って誰だか知ってるの?」
「私の古い友人の息子さんだよ。確か名前は・・・」
俺は親父の言葉を遮るように名前をこぼした。
「 『 快 斗 』 」
「ああ、そんな名前だったなぁ。」
「あら、快斗君♪そう言えば蘭ちゃんの事、大好きだったのよねー。」
大好きだった?
「新一。」
親父の落ち着いた声に、俺は耳を傾けた。
「過去は推理には必要なことだが、悔やむことは必要ない。悔やむくらいなら、現状を
好転させればいい。」
「・・・サンキュ、とーさん。」
そのまま電話を切ると、ニヤリと笑みを浮かべた。
昔って言っても、ガキの頃の戯言じゃねーか。
別に焦る必要もねぇ。
だが・・・どんな奴か、調べない事には始まらねぇ。
ともかく蘭を探すしか・・・そうか!
俺は公衆電話へと走った。
駅前の喫茶室で待ち合わせていた蘭は、腕時計を見つめた。
ちょっと早かったかな。
クスリと笑みをこぼしてしまう。
「何が可笑しいの?」
ふと顔をあげればいつの間にか目の前には、快斗が学生服のまま立っていた。
当然のように正面に座ると、制服の前ボタンを少しだけ外した。
「ふぇ〜あちぃ〜…。待たせてごめんなぁ、蘭。」
「ううん。それよりも走ってきたの?」
汗をみつけて、蘭はハンカチを快斗の額へと押し当てた。
快斗は驚いたまま体を硬直させていた。
拭き終わると、蘭は嬉しそうに微笑んでいた。
「そんなに焦ってくる事ないのに。」
「だーって、久しぶりに蘭に会えるんだぜ?それなのに、いきなり掃除当番とか言いやがってさー。
ったく、青子のやつ。」
青子?
蘭は軽い胸の痛みを感じた。
ちょっとした変化に気付かない快斗ではない。
蘭の事をのぞき込んだ。
「どーした?蘭。」
「ううん、なんでもない。その青子ちゃんって・・・?」
蘭が少し顔をそらして聞いた言葉に、快斗はニヤリとだらしなく鼻の下を伸ばした。
ニヤケ顔・・・一番しっくり来る言葉だ。
それを見た、蘭は顔を赤くしてプイ!っと顔をそらした。
「な・・・何よ。」
「もしかして、蘭…やきもち?逢って早々?」
「なっ!?」
図星を指された蘭は、体を引いて硬直してしまった。
そんな蘭を見て、ますますだらしなくニヤケ顔になる快斗。
どこからどう見ても、バカップルに見える。
「青子ってのは、幼馴染み。別になんでもねぇーよ。お前の工藤新一と一緒。」
「え?」
「あ、すみませーん!チョコケーキ二つと紅茶ねー♪」
ニコニコと携帯を取り出すと、快斗はある画面を出して蘭へと渡した。
クラスの数人で取ってる写真。
快斗の隣にいる、一人の女の子。
その人が青子だとすぐに気付いた。
つづく
後書き 〜 言い訳 〜
こちらのシリーズは、以前にブログでお試しに掲載していた
作品の続きになります。
ここまで読んでくださり
心より深くお礼申し上げます。
これにこりず、次章も読んで頂けますと幸いです。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
再掲載 2010.10.31
制作/吹 雪 冬 牙