第17話





「蔵馬を殺す気なんだね。」









ぼたんは静かに言葉を紡いだ。
その言葉に蔵馬だけでなく、葵自身も驚き目を見開いた。
やけに冷静なぼたんの声。
今まで聞いた事のないような、ぼたんの声と表情に、蔵馬は惹き付けられるようにぼたんの事を見つめていた。
ぼたんは蔵馬の目を見つめた。

「葵・・・そんな事したら、私が許さないよ。」

ぼたんのハッキリとした答え。
葵は鈍器で殴られたような衝撃に耐えられなかった。
その場に膝をついて、目の前の妖怪を見つめた。
その先にいるぼたんを。

なんで?なんで・・・そんな犯罪者を庇うの?ぼたん。
極悪非道で、どれだけの女を自分の快楽の為だけに利用してきたと思ってるの?
そして、君は本当に彼から愛されてるとでも思ってるの?

「え・・・何言って・・・。」
だから、本来はっ

葵が話している途中で、蔵馬に携帯を奪われてしまったぼたん。
蔵馬は携帯を耳にあてた。

「それだけですか、言いたい事は。」
妖狐蔵馬!!!絶対に貴様だけは、殺してやる。ぼたんを守る為に!!
「自分の為・・・なのでは、ないんですか?」
!!

大きな衝撃が後頭部を襲った。
葵はそのまま気を失い、その場に倒れた。
むろん、後ろから蹴り飛ばしたのは、幽助に他ならない。
幽助は吹っ飛んだ携帯を拾い上げた。

おーい、蔵馬。んで、この魂狩りってのどうすりゃいいんだ?
「幽助・・・何をしたか想像はつきますが、後で厄介な事になりますよ?」

チラリと気絶してる葵の事を見た。
何故か、コイツの事を見ていられなかった。
少し前の蔵馬を見てるようで。
なんでも一人でやろうとする・・・その寂しさが。
まるで蔵馬の鏡のように思えて。
気付いたら蹴り飛ばしていた。

んな事、気にしていらんねぇーよ。で、どーすんだ?
「どこか物陰に隠れていて下さい。すでに妖怪本体の核には、シマネキ草を植え付けてありますから、合図一つで殺せます。」
なんだよ。んじゃ、最初からそうすればいいじゃねぇーか、面倒な事させやがって。
「色々とあるんですよ。それじゃ。」

蔵馬は携帯を切ると、顔面蒼白しているぼたんの事を見た。
トンと軽く肩に手を置くと、ぼたんは酷く驚いたように身体をビクつかせた。
怯えさせてしまってる?
いや、困惑してるのか?

「ぼたん、すみません。」
「へ?」

一応、ぼたんに謝罪の言葉を伝えると共に、ぼたんの首筋に手刀をたたき付けた。
瞬間にぼたんは蔵馬に倒れ込んで来た。
目から数滴の涙。
蔵馬は、それを唇で拭うとギュっとぼたんの事を抱きしめた。

「俺を疑わないで・・・俺には、君しかいないんだ。」

聞こえるはずもない告白。
蔵馬は、ぼたんを横抱きにすると、パチン・・・と指を鳴らした。
それと同時に、妖怪の非業の雄叫びがあがった。
妖怪の体と言う体から、魔界のありとあらゆる植物が食い破って出て来た。
そして、最後に大きく成長した食妖植物達が、苦しむ妖怪を頭から幾重にも重なって食べ始めた。
それは溶かすとかそう言う代物ではない。
ただ、食くす。
それが正しい。
蔵馬の周りに無数の花びらが舞い始めた。
そして、最後にパチンと指を鳴らせば、蔵馬達を守るように花びらが華の折を作り、蔦植物がさらにそれを囲む。
そして、妖怪は爆発的な植物の生長で、食い破られてしまった。
無残な姿。
妖怪が先程までいた場所は、元の普通の家に戻っていく。
蔵馬とぼたん・・・そして少し離れた所に、幽助と気絶している葵がいた。
全てが綺麗に消えてなくなると同時に、蔵馬達も華の檻から出て来た。

「蔵馬、大丈夫かよ。」
「ああ、俺は何ともない。」

近づいてきた幽助。
二人は共にぼたんの顔を見つめた。
全てが終わってから、特防隊の面々がその場に降りて来た。
最後に降りて来たのは、コエンマだった。
葵の脇に落ちている『魂狩り』を手に持つと、コエンマはチラリと蔵馬と幽助の事を見た。

「どうやら、使わずに済んだようじゃな。」
「ええ。」
「やい、コエンマ!てめぇ、こんなアブねぇもんを霊界から持って来てんじゃねーよ!!」

コツンとげんこつをする幽助に、コエンマは必死に今までの状況を説明したが。
幽助に通用するわけもなく。
そんな小さな小競り合いの中、局長が倒れている葵を抱き上げようとした。
が、それを幽助が制止させた。

「コイツには、用事があんだ。連れて行かせるわけにはいかねぇ。」
「どう言う意味だね、浦飯幽助。」
「うるせぇーな。俺だってよく知らねぇよ!幻海のばーさんが連れて来いって言うんだからよ。
あーもう、とっと霊界の人間は霊界にけぇーれつーの!!!

ペッペッと唾を吐き出す幽助に、副長が斬りかかろうとしたが、局長が苦笑しながらそれを止めた。
幻海師範が葵に用事?
葵の弟子・・・霊光波動の唯一の継承者、幻海・・・か。
そしてその跡継ぎの浦飯幽助。
その仲間の妖狐蔵馬。
本当に人生はどう転ぶか分かったもんじゃないな。
苦笑しながらも、局長は幽助から離れた。
ともかく、任務は完了したのだ。
キラキラと無数に煌めく妖怪の核。
それは妖怪が何匹も折り重なってあの巨大化した証拠。
だが、その繋ぎは・・・。
局長は、一番大きな核に近づいた。
そこには、ふるびた寝間着の破片。
なんと言う事だろうか・・・この妖怪の繋ぎになったのは人間。
しかも、自ら犠牲になったとしか思えない。
妖怪は人間の心の隙間を襲ってくる。
甘い勧誘をして、人間を食らってしまう。
妖怪こそ、害そのモノ。
核を手に取ると、ギュ・・・っと握り閉めた。

「妖狐蔵馬君。」

局長の背中を見つめる蔵馬。
局長はゆっくりと振り向いた。

「君が、葵の報告通りの妖怪でない事を祈るよ。」
「・・・。」
「葵は、将来有望な特防隊員。書面上の罪過はなくなっても、君の心の罪過はどうなのか、知りたいもんだね。」

それだけ言うと、特防隊は少女の魂をもって霊界へと戻って行った。


後書き 〜 言い訳 〜
 
ここまで読んでくださり
心より深くお礼申し上げます。



これにこりず、次章も読んで頂けますと幸いです。
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

掲載日 2010.12.05
吹 雪 冬 牙


  BACK     HOME     TOP    NEXT