赤と青の絆



第三話









「蔵馬さん?」















寺の門の前を通りかかると、そこには蔵馬さんの姿。
私は手にもった桶をその場に置いて、蔵馬さんへと近づきました。
少し驚いたような表情した蔵馬さんは、私が近づくとニッコリといつも通りの優しい笑みを
向けて下さいました。

「蔵馬さん、ぼたんさんに逢って上げてください。心配してましたよ?」

私の言葉で、蔵馬さんはぼたんさんが眠っている部屋へと視線を投げられ、しばらく見つ
めていると、またニッコリと笑みを向けて下さいました。

「彼女の様子は、どうなんですか?」
「熱がまだ下がらないんです。でも食欲はあるので、大分回復に向かってると思います。」
「そうですか。」

蔵馬さんはホッと安心したように、息を吐き出されてました。

「雪菜ちゃんも、体の調子が大丈夫なんですか?」
「はい。私の方はもうすっかり。」

ニッコリと笑みを向けると、蔵馬さんも良かった・・・と笑みを向けて下さいました。
それにしても、こんな所で何をしていたんだろう・・・?
いつもの蔵馬さんなら、すぐに入ってくるのに。

「それを聞いて安心しました。ちょっと用事のついでに寄っただけですので、今日は帰ります。」
「え、少しでもぼたんさんに逢われては・・・」
「時間もそんなにないので、またゆっくりと来ます。そうだ、彼女にコレを渡して下さい。」

そう言われて、私の手の中に小さな包み紙を渡してきました。
中には黒い丸薬が入ってるようです。

「痛み止めです。きっとまだ彼女の体は悲鳴を上げてると思うので。熱がいい証拠ですからね。」
「ありがとうございます。」
「それから、今日俺が来た事と、そのクスリの事は言わないでもらえませんか?」

蔵馬さんの珍しい申し入れに、私はすこし戸惑って蔵馬さんの事をみあげると・・・。
蔵馬さんはいつもらしくない、困ったような顔をされていました。

「どうして言ってはダメなんですか?」
「・・・それはヒミツと言う事で。頼んでもいいですか?」
「わかりました。でも、必ずぼたんさんに逢いにいらしてくださいね。」

私が必死に言うと、少し蔵馬さんは驚いたような顔をされてましたが、直後いつもとおりの笑み
を向けてきました。

「わかりました。約束します。」

ポンと私の頭に軽く手を乗せると、蔵馬さんはお寺の階段を、静かに降りて行かれました。
それにしても気配まで消して・・・どうしたのかしら?
私は、ふとぼたんさんの部屋へと視線を向けました。
毎日うわごとのように蔵馬さんの名前を呼んでるぼたんさん。
本人は気が付いてないみたいですけど。
今、きっとぼたんさんが一番逢いたいのは、蔵馬さんのはずです。
どうしたら・・・。

その場に立っていると幻海師範が私の名前を呼ばれました。
呼ばれた方に振り向けば、桶のおいてある場所に幻海師範は佇んでいらっしゃいました。

「幻海師範。」
「ぼたんには、黙っておいてやんな。」
「え?」

幻海師範はもう姿の見えない蔵馬さんを見ているように、門の方へと視線を向けておいでです。
どういう事でしょう?
私が無言で問いかければ、幻海師範は大きなため息をつかれた。

「今までのクスリは、全て蔵馬が調合した物。アイツも、アイツなりに苦しんでいるのさ。」
「蔵馬さんが・・・ですか?」
「ああ。今は、そっとしといてやるのが、一番だよ。」
「・・・はい。」

幻海師範は、それだけ言うとそのままその場から立ち去られてしまわれました。
私の手の中にあるクスリ。
ほんわか暖かい気が含まれて、蔵馬さんの気持ちが入ってるように感じました。
よく・・・わからないけど。
それがぼたさんにとって、良い事なら・・・。

私は無理に納得して、クスリをお盆の上と乗せて、桶を再び手にした。
そして、ぼたんさんの部屋へと向かっていったんです。


それから毎日のように蔵馬さんは門の前まで来ては、私か幻海師範に薬を渡して帰って
いかれました。
何度、ぼたんさんに逢っていかれては?と聞いても、答えはいつも同じでした。
私は勇気を振り絞って、蔵馬さんのこの後の用事とは何かと聞いてみました。
すると、驚く答えが返ってきたんです。

「え・・・用事・・・ですか?」
「はい。そこまでぼたんさんに逢わずに行かれる用事ってなんですか?」
「・・・彼女の後輩のひなげしさんの所に行ってるんです。」

その言葉に驚きました。
どうして、蔵馬さんがひなげしさんの所へ?
しかもぼたんさんに逢わないで、ひなげしさんには逢うんですか?
私の心の中は、ぐちゃぐちゃになりかけていました。
きっと顔に出ていたんでしょうね。
蔵馬さんは苦笑しながら、私の事を見られてました。

「違いますよ。彼女に「ひなげしを頼む」と言われたので。あの後、何もないか調べに行って
るんです。今のところは特に異常はないようですけど。」
「ぼたんさんに言われたから・・・ですか?」
「ええ、そうですよ。それじゃ。」

いつものように優しい笑みを浮かべて、ポンと頭に軽く手を乗せられて、蔵馬さんはお寺を後にされました。
気が付くと、後ろから幻海師範が私の方へと近づいていらっしゃいました。

「色々な守り方があるんだよ。」
「守り方・・・。」
「そうさ。ぼたんの側でずっと看病する者。ぼたんに見えないように周りを監視する者。ぼたんの
言葉を守る者。人それぞれ、情愛の出し方は違うって事さ。」

ふと幻海師範は、一つの大きな杉の木を見上げられました。
何かあるのかと、私も見上げましたが、特に何もないようです。
ふと幻海師範に視線を戻した時には、すでに幻海師範はその場にはいらっしゃりませんでした。




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