赤と青の絆

第四話





笑ってる蔵馬がいる・・・。
どうしたんだい、そんなに嬉しそうにして。
何かいい事でもあったのかい?









蔵馬!








・・・・


























蔵馬?





























いくら呼んでも、蔵馬はただ微笑みを浮かべているだけ。
違う。
これは・・・私に向ける笑顔じゃない。


夕日を背に立つ、蔵馬の姿。
ゆっくりと手がさしのべられて、私もその蔵馬の手の上に自分の手を乗せようとした。





















え?


























自分が蔵馬の手に乗せる前に、蔵馬の手には他の人の小さな手。



ゆっくりと隣を見れば、照れたように赤い顔で、それでもかわいい女の子の顔をしているひなげしがいた。
蔵馬は、見たことのないような優しい笑みで、ひなげしを見つめる。
























蔵馬!!!



























蔵馬!!!!!



















いくら叫んでも、蔵馬には私の声は聞こえない。

ひなげしをエスコートするように、蔵馬はそっとひなげしの腰に手を当てて、私に背を向けて歩き出した。











蔵馬!!!!

















だんだんと蔵馬の姿が小さく消えていく。

ふと見上げれば、さきほどまで夕日があったはずの場所は、黒く異様な雰囲気な場所。
あれは・・・魔界。













行ったら駄目だよ!!!ひなげし!!!!


それでも二人は幸せそうに微笑み合い、どんどんと闇の中へと入っていく。
私の瞳から涙があふれ出した。
次第に視界が涙で見えなくなっていく。
どうなってるの?
腰が抜けて、その場に座り込んでしまった。
次から次へとあふれ出る涙は止まる事を知らず、私は腕でその涙を何度も拭った。
こんなのダメだよ。









だめ・・・






















じゃない。
















こんなの・・・・





























いや!!!!!












私は顔を上げた。






蔵馬ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!







のどが張り裂けんばかりに、彼の名前を叫んだ。











「ぼたんさん・・・ぼたんさん・・・しっかりしてください。ぼたんさん!!」




優しい声が耳に入ってきて、私はゆっくりと目を開いた。
天井に向かって伸びた手。
その手を必死に握りしめ、心配そうに私の顔をのぞき込んでいる雪菜ちゃんの顔がだんだん
と視界に入って来た。

「・・・わたし・・・。」

小さく呟くと、ふと辺りが濡れてる事に気が付いた。

「ぼたんさん・・・。」

目に一杯の涙を溜めて、雪菜ちゃんは必死に私の名前を呼んでくれていた。
頭の整理がうまく出来ずに、ぼんやりと雪菜ちゃんの顔を見ていると、ふと足下に人の気配
を感じて、視線を動かしてみた。
それに習うように、雪菜ちゃんも同じように入り口の方へと視線を動かした。

「飛影さん・・・。」

戸口に背をもたれさせた飛影がいた。
雪菜ちゃんの言葉に、飛影は少しだけ顔をあげて、私の方を見た。

「飛影・・・。」
「おい、幻海が呼んでる。」

ほんの刹那、雪菜ちゃんに視線を送った飛影。
雪菜ちゃんは、私の事を心配そうにみつめてから、一度キュっと手を握りしめてくれた。
それは、大丈夫ですよ・・・と言ってくれてるようで、私も安心させるように、力なく微笑んだ。

「飛影さん、すみませんが、ぼたんさんの事お願いします。」

軽く頭を下げると、雪菜ちゃんは足早に、部屋を出て行ってしまった。
しばらく雪菜ちゃんの後ろ姿を見ていた飛影は、静かに部屋の中に入って来た。
戸口を閉め、私の横に立った。
座る事はなく、ただジッと私を見下ろしていた。

「あんたでも、お見舞いに来るんだねぇ。」

苦笑して言えば、飛影はフイと顔をそらした。
変な無言の時間が流れた。
お互いに話す事もなく、ただ外の鳥たちの声が静かに部屋に響くだけだった。

「霊界は、大丈夫なのかねぇ・・・。」

天井を見上げて私が呟けば、飛影は少し離れた所で腰を下ろした。
相変わらず壁に背をもたらせている。

「霊界の水が引こうが、コエンマが退院しようが、俺には関係ない。」
「・・・。」

ポカンと口を間抜けにも開けて、飛影の事を見つめてしまった。
フイに顔を逸らしている飛影の顔がなんとなく赤い。
フフフ・・・。
苦笑してしまうよ。
関係ないって言ってるくせに、色々と教えてくれてるじゃないか。
相変わらず不器用だねぇ。
まぁ、私も人の事は言えないさね。
自然と口元がゆるんでしまう。
今は飛影とのこんな空間が心地よいと思ってしまう。
いつもは怖いとか暗いとしか思わないんだけど・・・なんでだろうねぇ。
飛影って不思議な人だよなぁ。
ん?
人・・・って言っていいのかねぇ。
やっぱり人間ではないから、妖怪って言わないとダメか。
通常、妖怪は1匹2匹で数えるもんだけど、そう考えると、飛影や蔵馬も1人ではなくて
1匹って数えるのかねぇ・・・。

どうでもいい事が頭を巡っていると、そんな沈黙を珍しく飛影が破った。

「貴様には呆れる。」
「はい?」
「貴様も、蔵馬も・・・くだらん。」

飛影さん、何をおっしゃってるのか意味がわからないよー(泣)
再び沈黙が訪れた。
ど・・・どーしよ・・・
私が一人で内心焦ってると、飛影はあからさまにため息をついた。

「幽助からの伝言だ。『信じろ。』だそうだ。」
「信じる・・・かい。まったく、あの子もわからない子だねぇ。」
「・・・逢いたいのか?」

苦笑していると、小さな声で呟かれた。
それは本当に注意していないと、わからない程の声。
私はゆっくりと飛影の方を向いた。

「飛影?」
「逢わせてやる。」

一言言った途端、飛影は立ち上がった。
ギュっと目をとじた瞬間に、妙な浮遊感。
ゆっくりと目を開けば、飛影の肩に担がれた状態で、私はふとんから出されていた。
いや、すでに幻海師範の寺ではなくなっていた。
目で追えない程の早さで、景色が変わる。
あまりの怖さに、私は飛影の服をギュっと掴んだ。

「・・・。」

少しだけ私に視線を向けた飛影は、私の腰に回した手に、少しだけ力を込めた。

どこに連れて行くつもりなんだろうか。


流れゆく景色が止まった。
高いの木の上。
飛影はゆっくりと私をその場に下ろした。


ここは・・・?



夕闇押し迫る山々。
大きな赤い鳥居。
狛犬の残骸が散らばるこの神社は・・・。

「ひなげし?」
「あれを見ろ。」

ひなげしが人間界にいる時に使っている神社だ。
飛影は、ふたたび私の腰を持ち、移動した。
鳥居の中に入ると、社の近くに二人の人影が見える。





「!!」









ドクン・・・








心臓が止まったかと思った。







私は目を見開いた。
そこにいるのは、楽しそうに笑うひなげしの姿。
そして・・・。


ぜったいに見間違えるはずのない・・・


赤い髪の・・・



人・・・






「・・・蔵馬・・・。」





小さく零れた言葉に、飛影はゆっくりと私の方へと視線を向けた。



「これが現実だ。」



飛影のその言葉以降・・・私の記憶はプッツリ・・・消えてしまった。



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