赤と青の絆 


第五話







ドサッ・・・




倒れてくるぼたんを片手で支えると、飛影はゆっくりと眼下の光景を見つめた。
楽しそうに話す、ひなげしと言う女。
蔵馬もまんざらでない顔。
飛影は、ぼたんを抱きかかえるとその場から姿を消した。




















消したと同時に、蔵馬が見上げた事も気づかずに・・・。





















飛影は、玄海師範の寺の部屋には戻らず、いつも自分が寝床にしている竹藪の中へとぼたんを横にさせた。
近くで湧く池。
冥王と戦う前、蔵馬が過去と決着をつける為に禊ぎを行った池だ。
そよそよと竹の葉の音が、心地よく耳につく。
目を閉じれば、波のようにも聞こえる、木々のざわめき。
飛影は傍らで目をとじるぼたんへと視線を向けた。

自分の上に羽織っていた黒いマントをぼたんへとかけると、そのまま柔らかい髪へと手を滑らせた。
そっと触れると、日だまりのような心地よさ。
飛影は、しばらく自分の手を見つめていた。


「フッ!くだらん。」

ぼたんの隣に腰をおろしたまま、じっと池を見つめていた。
・・・。

飛影は、ここ毎日のようにうなされるぼたんの事を思いだしていた。
















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「蔵馬っ!!!」

シーンと静まり返る寺の中で、女の悲鳴にも似た声が聞こえた。
飛影は、ぼたんの部屋の入り口が見える高いの木の上で目を閉じ、休んでいた。
だが、ぼたんの小さな声で目を開いた。

ゆっくりと目を閉じ、第三の目・・・邪眼を開口させた。

部屋の中で、半身を起き上げて、手を伸ばす白い手。
力なく布団にその手が落ちると同時に、瞳から真珠のような涙が無数に零れ落ちた。
ポロポロと美しく泣くぼたん。

飛影は黙ってその光景を見つめていた。

今の自分には何も出来ない。
いや、今自分が出て行った所で、あの女の事だ。
ヘラヘラと愛想笑いを浮かべるだけに違いない。

「蔵馬・・・どうして・・・。」


小さく呟かれる言葉。
声を押し殺して泣く、彼女・・・。
飛影はゆっくりと瞳を開けた。
それは何かを決心するように、眼孔は鋭く、キュっと結んだ唇にも力が入っていた。





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毎日のように蔵馬を捜すぼたん。
毎度、蔵馬の名を叫ぶと、彼女は決まって涙を流していた。












これ以上は限界だと思った。
















彼女の泣き声を聞くのも・・・



















蔵馬を捜し求める手を見つめるのも・・・




















何もかも全て・・・。
























































何故、俺ではない・・・?











































目を閉じ、うっすらと涙をにじませるぼたんに聞いても、答えが返ってくるわけがない。
飛影は、ぼたんの目にたまった涙をそっと拭った。
美しいぼたんの涙をじばらく見つめていた飛影。

ふと、人の気配に飛影は立ち上がった。
すぐに攻撃が出来るように、体制を低くしていると、竹藪の中から出てきたのは、幻海師
範だった。

「おまえさんも、素直じゃないね。」
「・・・貴様に言われる筋合いはない。」
「ありがとうよ。」

幻海は、後ろで眠るぼたんへと視線を移した。
蔵馬には蔵馬の考えがある。
でも、それは体力の回復していないぼたんに察しろというのも、酷な話。
お互いが思い合っているのに、霊界人と妖怪と言う垣根がある為に、前へと進み出れない
二人。
周りで見ている者は、それが非常にヤキモキさせるのだが・・・。
だが、この二人は、この二人。
ゆっくりと歩んでいけばいい。
そして、その先二人の道が一つになれれば、一番いい。
飛影にして見れば、一番ツライじゃろーがな。

飛影も幻海の視線を辿り、ぼたんへと行き着いた。
飛影はそのまま警戒を解いて、その場に座り込んだ。

「あのままじゃ、ぼたんの精神がどうにかなってたかもしれん。」
「・・・。」

黙ったまま幻海の言葉に耳を傾けていた。

「雪菜にしても、ぼたんにしても、女ってのはいざって時は強いもんだ。心配する必要は
ないよ。」
「・・・女を魔界に連れて行く。」

飛影の申し出に、幻海は目を見開いた。
今のぼたんの状態で、魔界になんか連れて行ったら、普通にヤバイ。
それ以前に・・・

「お前さん、霊界の結界に阻まれて、魔界に戻れないだろう?」
「方法はいくらでもある。」
「お前さんが何をしたいのか、わからないねぇ。」

幻海と飛影の間に詰めたい風がながれた。
互いに見合って、数秒。
その沈黙を破った者がいた。

フワリと心地よい風と共に現れた人物。


「連れて行かれては困る。」


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