赤と青の絆

最終話






ふと目を覚ますと、いつもの天井。
だが、一つだけ違うことがある。
枕の脇に置かれた一輪の薔薇。
ぼんやりとした頭で、その薔薇を手に持った。

「!!」

だんだんと頭が覚醒した同時に、この送り主であろう人物の顔が頭に浮かんだ。
ぼたんは途端に、あわてて体を起こし上げた。
布団をはねとばし、裸足のままで外へと駆けだした。
あたりを見渡しても、人の気配はない。

「ぼたんさん!?どうかしたんですか?」

雪菜が、驚いたように縁側に立って、裸足のままで外に立つぼたんの事を見つめていた。
ぼたんも雪菜ちゃんの声で、我にかえり、じっと手にはバラを見つめた。

「夢じゃなかったのかい・・・?」

バラに聞いても答えるはずがない。
なのに、バラはそれに答えるかのように、一瞬太陽に光に照らされて光った。

「ぼたんさん?」

雪菜は心配そうにもう一度ぼたんに呼びかけた。
ぼたんはしばらく俯いていたが、はち切れんばかりの笑顔と共に、雪菜の事を振り返った。

「おはよう!雪菜ちゃん!!!」
「ぼたん、お加減よろしいんですか?」
「もう、元気満タン!いつものぼたんちゃんですよー♪」
「ぼたんさん!!」

雪菜は嬉しそうに、ぼたんに駆け寄ると、ポンとその身を投げてきた。
ぼたんは少し驚いたように雪菜の身を受け止めた。

「良かったです!ぼたんさん!!」
「いつもありがとね、雪菜ちゃん。」

それと・・・



ぼたんはフイにある一本の木へと視線を向けた。
すると口だけを小さくひらいた。

『 あ・り・が・と・う。』

いつも妖怪から見守ってくれて、ありがとうね。
飛影。

ニッコリと笑みを向けるぼたん。
そんなぼたんをしっかりと見つめていた飛影は、フンと顔を逸らしながらも、嬉しそうに口の端をあげていた。

「さて、お腹すいちゃったよ!雪菜ちゃん、朝ご飯にしよっか♪」
「はい♪」

ぼたんは雪菜をともなって、寺の中へと入って行った。
そんなぼたんの後ろ姿をじっと見つめる影二つ。
飛影と、霊界から来ていたコエンマだった。

「お前も、苦労しとるよーじゃな。」
「貴様に関係ない。」
「ぼたんに伝えておいてくれ。」
「何故俺がそんな事をしなければならん。自分でやれ。」

それだけ言うと、飛影はその場から姿を消した。

「やれやれ、素直じゃない奴じゃのう・・・ワシも同じか。」

コエンマも、満足そうにぼたんの笑顔を見つめて、その場から静かに姿を消した。



日が高く昇れば、ぼたんの元に幽助達が集まり、いつものように賑やかな時間が流れる。
熱の下がったぼたんに抱きつくひなげし。
それを見守る螢子や雪菜。
ぼたんの全快祝いにかこつけて、道場で宴会の準備を着々と進めている桑原と幽助。
そして・・・



初夏の風と共に、颯爽と歩く人が一人。
皆よりも少し遅れて到着した蔵馬。


それを待っていたかのように飛影は、蔵馬の前へと姿を現した。

「みんな来てるみたいですね。」
「・・・。」

無言を決め込む飛影に、蔵馬は苦笑した。

「見てたんだろ?昨日の夜。」

チラリと視線を送る蔵馬に、飛影はバツが悪そうに顔をそらした。
蔵馬の顔から表情が消えてなくなった。
ゆっくりとした足取りはその場で止まり、じっと飛影を威嚇するかのように見つめた。

「これから、容赦しませんから。」
「何の話だ。」
「俺・・・本気でいきます。」

飛影は蔵馬の強い意志をカンジとった。
サワサワと聞こえる竹の音。
飛影は、フッと顔をそらした。

「勝手にしろ。俺には関係ない。」

そう言って、去ろうとした飛影。
だが、蔵馬はそれを許さなかった。

「関係なくは・・・
ないですよね?
「・・・殺されたいか?」

一瞬にして飛影が妖気を放出すると、あわてて幽助達までもが寺の入り口へと駆け寄ってきた。

「な、なんだ、なんだ!何してんだよ、おめーら!」

一触即発な雰囲気を察してか、幽助は焦ったように二人に怒鳴った。
そんな幽助の乱入で毒気を抜かれたのか、二人から殺気が一気に消えた。

「飛影。俺は彼女が好きです。彼女は・・・渡しません。例え、あなたでも。」

しばらく飛影は蔵馬の顔を見つめていた。
フイに顔を逸らすと、フン!と鼻で笑った。


「・・・首を洗って待っていろ。」

それが飛影の答え。
蔵馬は苦笑を零した。

「なーにやってんだい!あんた達!!」

ひょっこりと幽助の後ろから顔を出すぼたん。
飛影はその場から立ち去ろうとするのを、蔵馬はとっさに飛影の襟首を掴んだ。
その瞬間にグエっと飛影の首がしまった。
ニコニコと笑みを浮かべる蔵馬。

「逃げる気ですか?逃がしませんよ?」
「・・・チッ。」

飛影は仕方なく、蔵馬の後に続いて寺へと入って行った。
入った瞬間に、幽助に肩を組まれて、道場へと誘われる飛影。
そんな二人の後ろ姿を蔵馬とぼたんは呆れたように見つめていた。

ふと二人の視線が重なりあった。

「行きましょうか。」
「そうさね。」


にっこりと微笑みあう二人。
穏やかな時間の流れを象徴するかのように、竹の葉はザワザワと波の音のように鳴り響き、鳥たちは楽しく囀りあっていた。




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