WILL… 




第九話


「クリスマス・・・?」
「そう!南野君、予定入ってるの?」

目の前にニコニコと笑みを浮かべる女子をマジマジと見つめてしまった。
どこか媚びたような、笑み。
男を誘っているのだろうが、妖艶な笑みまでには、まだまだ未熟。
だが、本人なりにはきっと自分が可愛いと自負しているのだろう。
実際に、去年の文化祭の時にやった美人コンテストで優勝してるくらいだから。
ぼたんは、もっと綺麗に笑うな。
そんな事を頭の端で考えながらも、顎に手を添えた。
そう言えば…クリスマスなんて、考えてなかったですね。
今まではどうしてましたっけ?
そんな思考の渦に入りかけていた俺に無遠慮にクラスメイトは話しかけてきた。

「もし良かったらなんだけど、ウチでちょっとしたパーティを開くの。南野君に、エスコ
 ートしてもらいたいなぁって。私にとって、一番のクリスマスプレゼントって言うのか
 なぁ?えへッ。」
「・・・エスコートですか。」

あまりの言葉に苦笑しながら、答えてしまった。
自分が振られるワケがないと思っているのだろうが・・・。
そんな事を考えていて、ふと思い出した。
そうか。
幽助と出会ってからは、毎年…無理矢理でもクリスマスパーティと称して、幻海師範の
所でドンチャン騒ぎしていましたね。
今年もやるんだろうなぁ。
酒だ!喧嘩だ!と、騒ぐ幽助が目に浮かぶ。

「申し訳ないですが、クリスマスは予定が入ってまして。」
「え…それって…。」
「古い友人達と、毎年ささやかなクリマスをやるので。」
「1時間だけでもいいから、無理かな?みんなに南野君を絶対に連れて来るって言っちゃ
 の・・・お願い!!」

それこそ、俺の知る所ではない。
パンと両手を合わせて、俺に祈るように頭を下げる。
はぁ・・・困ったものですね。

「クリスマスには、やっぱり好きな人と一緒にいたいじゃない!」

好きな人・・・。
その言葉を聞いて、ぼたんがすぐに頭に思い浮かぶ。
去年は、一緒にお酒を冷ます為に屋根に昇ったんでしたっけね。
みんなに内緒で。
ちょっと寒かったけど、ぼたんが柔らかくて、暖かかったなぁ・・・。
すごく甘い良い香りがしたのを、覚えている。

「確かに、そうですね。俺も同じなんですよ、部活があるので、失礼しますね。」

俺は鞄を持ち上げると、彼女の脇をすり抜けた。
呆然としている彼女。
俺は気にする事なく、部活へ向かうべく理科室へと足を向けた。
そうだ。
俺は胸ポケットに入れた、水色の携帯を取り出した。
彼女を連想させる水色。
俺をいつも連想するように、彼女へは赤い携帯を。
同じ物を持つと言うのが、こんなにも幸せな事だとは・・・
妖狐であった時分は、気づきもしなかった。
携帯を開ければ、ディスプレイに表示されるのは、ぼたんの笑顔の写真。
今年の花見の時に撮った写真を、そのまま入れてある。
少しお酒の入った、ほんのりと顔の赤いぼたんの表情は、去年のクリスマスの屋根の上で
キスをした時と同じような、潤んだ表情。

まったく、どこまで俺を誘惑するんですかね。

自然と親指で、ディスプレイを撫でれる。
自分で選らんだディスプレイだと言うのに…ぼたんと言うだけで、胸の奥が熱くなる。
メールのボタンを押すと、手早に用件を書いてメールした。

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ブルルル ブルルル

「ひゃぁ!」

突然、懐にしまってある携帯が振動して、相変わらず驚く。
そのまま櫂から落ちそうになったが、なんとか持ちこたえ・・・櫂の後ろから一緒についてくる、魂に苦笑した。

「驚かせてすまないねぇ。」
「いえ。」

言葉少ない、青年。
先程、子供とお別れをして来たばかり。
その所為か、妙に口数は少なかった。
ぼたんは、一度懐に手を当てた。
が、携帯を取り出す事なく、魂送へと頭を切り換えた。
今は仕事中。
蔵馬との約束で、仕事中は決して無理して携帯に答えようとしない事と言われている。
別に蔵馬が見ているわけでもないのに、蔵馬との約束と言うだけで、守らなくてはと、頭
が働いてしまう。
破った後のお仕置きも、怖いと言うのも一つの理由でもあるのだが・・・。
蔵馬との約束だから。
それが、ぼたんにとっては重要だった。


霊界に到着すると、そのまま控え室へと魂を連れて行った。
部屋まで魂を見送ると、初めて懐に手を入れた。
だが、取り出したのは「閻魔帳」。

「次はっ・・・と。ありゃ、幽助の学校の近くじゃないか。ちょいとからかいに行って
みるかね。・・・で、その前にっと。」

閻魔帳を仕舞うと、それと同時に携帯を取り出した。
開けば、蔵馬からのメール。



『 送信者:蔵馬
件名: 無題
用件: 明日のご予定は?』




え・・・これだけかい?
明日は、いつも通りの定時のハズだ。
蔵馬へ、いつも通りの仕事と返信し直す。
すると、すぐにまたメールが届いた。



『 送信者:蔵馬
件名: Re:無題
用件: 少し時間作れますか?』




ん?
なだろうねぇ。
蔵馬にしては珍しい。
別に用事もないし・・・と、夜には行けると返信すると、またすぐに返信が戻って来た。



『 送信者: 蔵馬
 件名:ReRe:無題
用件: では、お待ちしてます。』




了解…っと、返信すると、そのまま携帯は鳴らなくなった。
それにしても、明日って何かあったかねぇ。
悩みながら、歩いていれば、目の前からコエンマの姿。

「なーにしとんじゃ、バカ面さげて。」
「なっ!ちょっと、最近コエンマ様ってば、口が悪くなったんじゃないんですか!?」
「それよりも、明日は期待しとるからのう。」
「明日?」

はーっはっはっは。
と笑いながら去って行くコエンマ様。
なんなんだい、みんなして「明日。明日」って。
ワケがわからない。
携帯を取り出して、日付を見つめた。

「うげ。」

12月23日。
ってことは・・・明日は・・・
えっと・・・クリスマス?
そう自覚した瞬間。
ヤバイ・・・ヤバ過ぎる。
すーっかりクリスマスの事なんて忘れていた。
むろん、何も買ってなどいない。
なんとなく、まだ先のような気がしていたのだが・・・

「知らぬ間に、時間がたってるんだよぉ。」

半分泣きそうになりながらも、ぼたんは櫂を取り出した。
ともかく、人間界に行こう。
今からでもなんとかなるかもしれない。
全速力で、ぼたんは人間界の・・・いや幽助の元へと急いだ。


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今日も暇だなぁ。
のんびりと屋上で、昼寝の真っ最中。
最近は喧嘩もしてねぇし。
桑原も、あまりからんでこねぇ。
つまんねぇ。
魔界にいる時は、次から次へと相手がいると言うのに。
もう人間では、相手にもならない。
本来なら魔界に行きたい所だが・・・。
ポケットから、小さな箱を取り出した。

「明日はクリスマスだかんなぁ。」

今年も、みんなで幻海ばーさんの所で、騒ぐつもりだったのだが・・・
何故か蛍子に全力で止められた。
もしもやるなら、蔵馬とぼたんは誘うなって言う。
あいつらがいなくちゃつまらねぇじゃん。
そんな事を思い、なんとなくやらない方向へと進んでいた。
だから、明日はお袋と蛍子と蛍子の両親とで食事でもするかって話しになっていた。
なんとなく久しぶりな気がする。
手から箱を空へと投げ上げると、また手の中へと戻ってくる。

「周りに感化されて、買っちまったけど…今更なんだよなぁ。」
ゆーすけーーーーー!!!!!(泣)

必死な表情な、ぼたんの姿。
そのまま櫂を止められなかったのか、俺にツッコンできやがった。
おもいっきり、腹に体をぶつけて来て、むかっ腹がたった。

「何しやがんでぇい!ぼたん!!」
「幽助、大変なんだよぉ。」

半泣きのぼたん。
何か霊界で起きたのか?

「なんだよ、どーした。」
「明日!」
「は?」
「だから、明日のクリスマス!すーかり忘れてて、蔵馬に何も買ってないんだよぉ!」
「・・・。」

何事かと思えば、惚気かよ。
俺は半目になってぼたんの事を睨んだ。

「だから?」
「どうしよう。時間がないんだよ!!蔵馬に、何あげたら良いか考えておくれよ!」
「お前でいいんじゃねぇーの。蔵馬が一番欲しいもんだろ。」

言った瞬間、ぼたんが頭をぐーって殴ってきやがった。
「ほっんとにスケベだね!!あんたは」と怒ってるが、本当の事だ。
蔵馬が物に執着・・・するかもしんねぇけど、元盗賊だし。
でも、今はぼたんが欲しいだろうなぁ。
俺はチラリと手に持つ箱を見つめた。

「別になんでもいいだろうが。蔵馬なら、お前から貰えればなでも喜ぶと思うぞ?」
「だから!それじゃ駄目なんだよ!コレもらったし!!」

そう言って目の前に見せてきたのは、自分を主張しまくってる、赤い携帯。
ソレを見て、心底ため息をついた。
結局、こいつらのしてること言ってる事は、惚気に他ならねぇ。
本当に、くっつかない間も、ヤキモキさせられたもんだが・・・
くっついたら、くっついたで、面倒な奴らだな。

「はぁ。やっぱり、毎年恒例のやるっきゃねぇな。」
「毎年恒例って、幻海師範の所でやるアレ?」
「そう。蛍子の奴に止められてたんだけど、おめぇがそれなら、そっちの方がいいんじゃ
 ねぇのか?」

へ?蛍子ちゃんが?
なんで、止めるかねぇ?
本気で分からないぼたんは、首をひねった。
その瞬間に、幽助にヘッドロックをかけられた。

「バーカ。おめぇら二人だけの時間が、俺等からのプレゼントって奴だとさ。」
「ああ、なるほどね。でも、私としてはみんなでワイワイしてるのも好きなんだけどねぇ。」

本気でそう思ってるのだろう。
そんなぼたんの顔をみて、蔵馬の苦労が分かったような気がした。
これじゃ・・・そう言う雰囲気になるのも、大変なんだろうなぁ。
あの蔵馬が「難攻不落」って言ってたぐれぇだもんなぁ。
ある意味天然なんだろうけど・・・。

「何さ。」
「ともかく、明日学校終わったら、幻海ばーさんのトコに集合な。蔵馬にも連絡しておいてくれや。」
「いや、だから!蔵馬のプレゼント!!」
「夜まで猶予が出来ただろーが。明日までになんとかしろよ。」

ポーンと手から箱を空へまた投げた。
パシッっと手に落ちてくれば、そのままポケットへとしまい込んだ。

「明日は宴会だな。桑原や飛影にも言わねぇとなぁ!!」
「ちょいと、幽助!!!」

そのまま相談ものらずに、幽助は屋上を出て行ってしまった。
その場に残されたのは、ぼたん一人。
どーしよ・・・。
ぼたんは、肩をガックリ落とすと、櫂を呼び出した。
ともかく、魂送。
それから、蔵馬へ連絡だ。



※注意 ※

ここから先は、少し裏表現がございますので18才未満の方は
裏表現が苦手な方はご遠慮下さい。
裏表現okまたは18才以上の方は、どうぞ自己責任にて
コチラより続きをお読み下さい。
言う程、裏って感じでもないんですけど・・・念のため(^^;)

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